第539話「四獣王ミラーライオン④」
西暦2037年6月16日、仮想世界、2Aエリア〈霧迷いの森〉。
ギルド『放課後クラブ』はVS四獣王ミラーライオンのクエストを受けていた。
目的はただ一つ、鏡盾『ミラーシールド』がドロップするからである。
「何? エンペラーは参戦しないのか?」
「あぁ、軍勢との前哨戦だろこれ? なら3人で挑んだ方が良い」
姫に対してエンペラーはいらぬ遠慮をした、グリゴロスに負けたショックというのもあるかもしれないが。それはそれとして三人一組で慣れておく必要があると思ったからだ。
「エンドコンテンツ相手に手抜きに見えないか?」
「むしろ最果ての軍勢の方がエンドコンテンツだろ、いや本当のエンドコンテンツは信条戦空の四重奏かもしれないが、とにかく、練習するなら3人組の方が良い」
「まあ、そうなんんじゃが……」
咲はエンペラーの方を見て徐ろに黙る。
「……」
咲はむしろエンペラーが負けた傷心の方を心配している、仲間割れでは無いがそういう気持ちでみてしまうのは自然な流れだった。
自分の方が放課後クラブに入った時間や順番は長いし速い、しかし後から入ったグリゴロスに負けた。そういう悔しさがエンペラーからにじみ出ている。
優しい咲は、何か助け船を出そうと考えるが。エンペラーが黙して顔でその心配を拒否する。
「咲、いらぬ心配をするな、これは俺の問題だ」
「でも……」
明確なエンペラーの挫折、咲は人の挫折には疎いし経験もあまりない。自分が失敗ばっかりやっているから、それに対して共感してしまうのだ。
咲の不安な感情を姉である姫が制する。
「咲、お前の敵は誰だ? 少なくともエンペラーじゃ無いはずだ」
「まあ、そうなんだけど……」
ここまで一緒にやってきた仲間達が弱いとは思わない、むしろ強くなった。
もうSランク第8位のギルドなのだ、上から数えた方が速い。
「今はミラーライオンに集中しろ」
「……うん、解った」
姫は後ろを振り返るな、前だけを考えて見ろ。と注意する。そして……。
「来たぞ」
四獣王、王の名を持つ獣が姿をあらわした。
《四獣王ミラーライオンとのバトルを開始しますか?》
「用意はいいな! 咲! グリゴロス!」
「うん!」
「任せとけ!」
《四獣王ミラーライオンとのバトルを開始しました!》
『ミラアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』
ミラーライオンがまず、咆哮で威嚇した。
戦闘開始の合図だった。
「んじゃ、最初っから最終決戦のつもりで行くよ! テラ・ファイアバード!
炎の上級魔法がミラーライオンに襲いかかる、が、カン! と、当然の如く〈反射〉し返してきた。
昔、何となく手に入れた咲のオールドミラーシールドがレア過ぎて忘れそうだが。あれも反射持ちの盾だった。あのライオンのタテガミは全部鏡での毛で覆われており、スキル関係を全て跳ね返す!
「やっぱり〈反射〉持ちっか!」
咲は攻撃したテラ・ファイアバードの攻撃を真正面から真昼ノ剣で捌く。
が、ここからは全員初見で。ミラーライオンは学習して更に強くなった。
何とタテガミがパージしてレーザービームを撃って攻撃してきたのである!
「ちょ!? まさかファンネル!?」
「それだけじゃ無いぞ咲! 本体が居ない!?」
「え!? キャア!」
グリゴロスがスキル〈加速〉を使って、目で追う。
「俺の目なら追える! これクロックアップだ!?」
咲は見えない攻撃を心で感じ、防御しながら驚愕する。
「はあ!? 防御固い反射持ちがパージしてファンネル攻撃で本体はクロックアップ!? 無理ゲーじゃん!?」
姫が驚くが、脅威の優先順がわけわかめである。
「どれが脅威なんじゃ?!」
「全部脅威だよ!?」
まぁ、エンドコンテンツだからこれくらいやってもらわないと歯ごたえ無いよね、と若干咲もバトルジャンキー化していた。
「パターンは!?」
「人口AIにパターンなんかあるかボケ!」
「じゃあ攻撃する度に学習するのかコイツ!?」
『その通り! 我を一個の魂と思って相手せよ!』
ライオンが光速移動しながら喋った。本体もファンネルも〈反射〉持ちで、複数のタテガミファンネルもレーザー撃つし、本体はクロックアップする。この〈速さ〉に追いつけるのはグリゴロスだけだ。
「グリは本体を抑えて! ネエはファンネルお願い! 私はダイレクト!」
速すぎて、グリゴロスのことをグリと言い、お姉ちゃんの事をネエと呼び、咲はダイレクトアタックのことをダイレクトと略し始めた咲。
時間が無い以上少しでも略したいのは解るが、中々にガチ勢対戦っぽくなってきたこの戦場である。
「じゃあそろそろこっちも反撃やるよ! 全員! 押からの心室展開! 右回転! 変換して精霊! 文法型!」
『了解!』
咲、姫、グリゴロスは〈文法型の精霊〉を発現させた。
四獣王ミラーライオンは嬉々迫る勢いで笑う。
『ホホウ! 面白い! 心を使えるのか! ならば私も手加減はせぬぞ! ハアー! 精霊!』
「げえ!?」
「なに!?」
「あいつも!?」
ココに居る全員、精霊化した。もはや常人のそれでは無い、幸いなのは獣に型は無いことだった。……戦いは全て、もう一段階進化する。
これがSランク同士の戦闘、勢いは更に過熱する!
「……」
それを目で見つめるエンペラーは何を思うのか。




