番外編40「好き者同士~パートナー~」
現実世界、あるいは新世界。喫茶店。
湘南桃花はここが新世界だと認識するのにそれはもう凄く長い時間を有した。
オーバーリミッツは久しぶりに話す桃花との対面で少しウキウキである。
「どう? この新世界の居心地は」
「どうって、―守る―、て名目があった以上そうなんだけど。現実でやられると、何かねえ~……」
「ふふ、悪くは無い?」
「まあ善いにはいいんだけど……、むう~~」
悩むのは、コレが桃花にとって全然想定外の事象であったからだ。混沌期をもう過ぎたからと行って、それを経験してしまった以上元には戻れない。
きっとVRMMOで遊んでいる咲に話しても「何の話?」で終わってしまうだろう。
幻想を空想に、空想を夢想に、夢想を現実に。そこまで波及すると何がやりたかったのか解らなくなるが、だからといって他の皆にいったい何が出来るのか?
となると話は違ってくるし、実際、ヒーロー達とも2~3度、秘十席群が劇場版でバトルしてるし……。衝突が無かったと言ったら嘘になる。
夢と嘘は本当に紙一重だ、それに作品と商品も曖昧で、そこに詐欺師が入ってくるとまあ解らない。流れとしては夢の商売なので合ってるには合ってるのだけど。
サービスとはお客様が満足出来なかった事の裏返しなので、と……本当に咲が聞いたら「つまり何の話だってばよ?」とか言いそうである。
「つまるところ、まあ良いんじゃないかな? て回答になっちゃうわね……」
「ふふ、私にはもう慣れた?」
これまた照れ隠しにあさっての方向へ目を背けてしまう桃花。
やっぱり言いよどむ。
「慣れたというか、慣らされたというか、わからされたというか、ドSとドMの関係というか……あの、言ってて恥ずかしいんですけどこれ?」
「ふふ、ごめんごめん」
言って、リミッツは桃花の唇を人差し指でツンっと押さえる。お茶目っ気たっぷりの仕草に、胸がピクリと弾む桃花。と、同時に間違っても心臓が弾むと心臓が困る。とか、いらぬ心配もする。
まあ、美しい関係性だし。これで完結してるから何も問題ないのだが。
これ以上を望む声や行動も多く見られるのが、実際の実情、現実だ。
ラブコメで言うと〈友達以上恋人未満〉、本当にそれでいいの? という声である。これに対して、実は忘れがちだが2人は明確な答えをまだ出していないのである。こんなに長い間付き合っているのに、だ。
「んで、どうしよっか? これから」
「何が? て、とぼけても無駄か……」
「つまるところ同居生活とか、相棒なのか、結婚指輪するのかするのかしないのか、問題とか。ま、私は桃花に全て委ねるって決めてるけどね」
忘れそうになるが2人は女子と女子なのである、その後の関係性が歪みに歪みまくったので、原点に帰ると。大学生と高校生女子同士が結婚指輪とかするのか? みたいな話は、大衆的・他の世間一般的な女子学生とか社会人やラブコメ好き小説家にとってはたぶん死活問題なのである。
そんなことを知らずに桃花は振り回されたのだ、もう心は心神喪失から再起動したあとに待っていた試練だったのでゲッソリである。
そういうのは心の夢想で思ってた事なのでつゆ知らず、まさに怪しい宗教団体と対峙するドン引き一般人のソレだった。
「一つ言いたいのは、婚姻届はまだしない。すると被ってる奴とルート分岐するし、そんな偽情報は公式でも採用できない」
「あらら」
「でもなー、指輪がなあ~~~~ファッションや証としてはしたいよねえ~、やっぱ女子の憧れだし~~……とは思う」
「ほうほう、つまり。婚姻届はして欲しくないけど、ペアルック指輪やアイテムぐらいだったらいいんじゃねーの? 精神か」
ギリギリ妥協点見つけて踏み込めるところまでだったらそこまでしか出来ないし、やっぱり桃花の性格上、他者に迷惑はかけたくない。らしい。
桃花は難しい問題に公式からの見解を述べる。
「で、同居だ……」
「あ~」
やっぱりここは一言で一気に言えず、桃花は難しい顔をしながらどうしても考える間が発生する。リミッツはそれをただ、同じ歩調で、待つ。
この場合、真偽はともかく桃花の心持ちが大事なのだ。
「好きな人同士が毎日同じ部屋に居る関係性か、……良いんじゃないかな、封絶もあるし、問題あるかないかで言えばあるけど」
「つまり同居はあり?」
「あり」
「やった!」
コレにより桃花とリミッツの好き者同士は、婚姻届はしてないがペアルックのファッション指輪を証として身に付け、毎日同じ部屋に同居している関係性。というのが公式見解になった。
「ああ、あと言いたかったこと1つ」
「ん、何?」
「11月の例の贈り物、あんまりびっくり箱仕掛けないでね? 誤読や誤解は避けたいし、深読みしちゃうから」
桃花の本題はこっちだった。
「それは桃花がてきとうに読んじゃうからでしょ? ま、解ったわ、気をつけておく」
コレにて2人の物語は一端の閉幕となった。




