番外編39「漫画編集者湘南桃花」
いつかの夏休み、国際展示場。
漫画の祭典コミテ〇ア。湘南桃花は愚痴をこぼした。
「な ん で ! 私なんだよ! 私は冒険はしたが、漫画を見る目無いぞ!」
「こういうのは内容が正しいんじゃ無くて誰が言ったかにかかってるんじゃよ」
「わー人がいっぱい……あっちー」
天上院咲、天上院姫、湘南桃花は編集サイドで会場に入場していた。
目的はただ一つ、企業側、神道社として入場し。漫画家志望者〈双矢鏡〉の原稿を見るためだ。桃花の愚痴は続く。
「だから私は漫画は読んでないって! やったとしたら動画!」
「まーまー私が通訳するから気にすんな~なのじゃ」
咲が自分が何をすれば良いのかで迷う。
「私は何をすれば良いのかな? 途中介入しても邪魔だよね?」
「メモでも取ってれば良いんじゃ無いのかな? 後学のために」
一般学生のエンジョイ勢の咲にとって何の後学か解らないが、とにかく今はセミプロ……、一応半分プロなのだ。勉強しないわけにはいかない。
と言うことで、何でゲーム会社が漫画の原稿を? とか入場とか開演の拍手とかその他大勢の漫画家志望者の原稿を見てアドバイスをしたとかは省略して……、本題の双矢鏡くんの原稿だ。
制限時間は祭典の間限定という縛りがあるので、どうしても15分から30分という打ち合わせの縛りがある。その間にどれだけ鏡に伝えられるか……とかそんな所だった。
「久しぶり、何か姿変わって無い? のじゃ声で解ったけどさ」
「気にすんな、時間が無い。原稿を見せて貰おうなのじゃ」
「あぁそうだな、俺も他社への持ち込みで忙しい。さっさとやろう」
で、漫画家の鏡が渡したの原稿は。〈ループもの2枚〉〈修行もの①4枚〉〈修行もの②4枚〉の完結型の読切りだった。
前もっての事前情報としては。
姫、責任ある役職の編集者。
桃花、漫画の見る眼がある編集者。
咲、ただの見習い編集者。……である。
で、3人ともその合計10枚の漫画を読んだ体で話す。
まず編集者姫から。
「まず画力不足な。ストーリーに磨きをかけたのは解るが。紙面で他者と比較される以上、編集者の思考停止にも聞こえるかもしれんが、画力は要鍛錬な。これはどの編集者に聞いてもそう言うだろう」
「そ、そんなに僕の絵は下手ですか?」
「プロ視点で視ればだ、内容が前回より上がってるのは認めるが、話に絵が圧倒的に追いついていないと言えば解りやすいじゃろ? そんな感じだ。つまり伝わっていないって事じゃ」
「な、なるほど……」
次、編集者桃花。
「ん~良くできてる、これはいい作品だ」
「あ! ありがとうございます!」
「が、全部〈死に線〉だわコレ」
「え!? どういう意味ですか!?」
「え、えっと……。あの……大学時代の生原稿みて思ったのよ。純粋にただの風の線の一本一本の本気度が違うなって……でも今回持ち込んだ線は死んでる……。なんつーかな、何となく〈流れ〉で書いてるというか妥協して描いてるというか〈仕方なく〉線を描いてる気がする……いや、実際そう」
「あ、あなた誰ですか!? その時の現場を見てもいないのに適当な事を言わないで下さい!」
と、姫が汗をかきながら付け足しで横槍を入れる。両方のフォローだ。
「鏡、あの……。ワシはワンピの頂上戦争は描けないが。桃花は頂上戦争の現場に居た当事者だ。そのつもりで聞いた方が良い」
役職関係無く、姫はプロの編集者。桃花は超一流の編集者、そう言いたいのだろう。ちなみに咲は一般人の編集者でもなくただの素人の読者。
んで、桃花と鏡の会話に戻る。
「ですか、でもだからと言って。妥協せず描いてたら描くの遅くなりますよ? 長考は良くないと思います」
「ん~だからかな? 線の数は意識的に増やしてるんだけど、線の質が落ちてる、つまり。イコール画力が下がってる。ていうのが私の心の印象かな」
もはや編集者の意見では無く漫画家のソレの意見である。
「えっと、つまり?」
緊張しながら鏡は声を紡ぎたくて声を出す。
それに対して、責任感が無い桃花はそりゃあもうズカズカと答える。
「まあ、姫と同じ答えなんだけど。だから、話に絵が圧倒的に追いついていない。て言う解答になるかな、数学で言うと、計算式は違うけどイコールからの答えが一緒って感じ。下手な編集者は画力不足しかたぶん指摘しないけどさ、具体的に何の絵が下手なのかは普通のプロ編集者は指摘できない。……と思う」
普通の大学卒業のサラリーマン編集者に線の善し悪しなんて解るわけが無い。
居たらただの化物か変態だ。
だからこの編集者桃花は超一流だ、とは言え無い。実際、桃花はただの読者だ。
居る立場のせいで話がややこしくなる。一応桃花は補足する。
「まぁ毎回本気出せってのは酷だけどね。でも魅せゴマで本気出さないのはどうかと思うよ? 画力下がってたとしても」
変にブランクがあるせいで、そのあたりも桃花に見透かされる鏡。
鏡のブランクがあるのは知っていたからその辺は遠慮したのが姫……一体どちらが正しい編集者のあり方かは議論が分かれそうだが。
だからといって妥協して良い理由にはならない、両方本気の編集者の意見だ。優劣なんて付けられない。
ちなみにここまで一言も発していない咲は、ダンマリとメモをカキカキしている。
そんな中、姫と桃花が咲に話を振る。
「咲はどう思う?」
「……」
咲の反応は……。
「ん~。読めるし、面白いと思う、それだけで十分凄いと思うんだけど……え? 違うの? 面白いよね、この3作品????」
普通の読者の反応が返ってきた。
沢山の作品を見てきた中での姫と桃花の反応は……。
「私は中の上」
「私も中の上」
咲は2人に反論する。
「だから面白いか面白くないかでしょ? どっち??」
そう、普通の読者は二択問題でしか判断しないのだ。マニアだけだそんな複雑な答えをするのは。
姫と桃花も渋々その二択問題に付き合う。
「……、ま。面白いかな、この3作品がつまらなかったらそれはそれで問題だ」
「全体的に見ても面白い部類かな。スランプあったとしても持ち直した方だよ」
つまり面白いと言うことだった。
「あ、ありがとうございます!」
30分後、なんやかんやあって話は終わって鏡はまた他社の編集者のもとへ持ち込みに行った。
すると、役目は果たしたかという風に姫は席を立ち。
「んじゃ! わしは〈企画の持ち込み〉行ってくるから! 咲よろしくー!」
「えー!? ちょっと待って聞いてない!? えぇ!? えぇ――――!?!?」
その後、神道社プロ編集者ブースで漫画家さんとの打ち合わせを必死こいて現場で打ち合わせをする咲の姿があった。
おわり。




