第535話「エンペラーVSグリゴロス」
「まわりが予想以上に殺気立てるが俺達は俺達の戦いをしよう」
「そうだな、〈サキとヒメのお荷物〉なんて散々な汚名は今回で払拭しないとな」
エンペラーが体をコキコキさせながら準備運動の伸び縮みをしている中。
グリゴロスは足や膝を屈伸させている。両者思い思いの開戦の時を待つ。
言っちゃ何だが、この戦いは〈おまけ〉、3位決定戦な上にVS軍勢との前座ですらある、正直長引かせる訳にもいかない。
舞台はいつも通り闘技場、だが、本番は〈戦場〉と決まっているので。平地という訳にもいかないだろう。本番を想定して行われると言うことは。都市戦なのか、森林なのか谷や沼地だってあり得る。そして、今回は……。
《闘技場でのフィールドは戦場を舞台としたランダム設定を行います……、戦場舞台は……都市戦で、ゴブリンの大群に襲われている中での1対1のバトルとなります。ゴブリンは無限沸き、倒しても得点には繋がりません》
つまり、ただのお邪魔モンスター無限湧きの都市戦……。となった。
エンペラーが拳銃の関係上射程距離の情報を欲しがる。
「フィールドの広さは?」
《フィールドの広さは無限です、他に質問は?》
つまりどこまで走ってもゴブリンと都市しかないと言うことだろう。
拳闘士であるグリゴロスはまわりのゴブリンを見ながら、無限湧きと聞いているので特に聞きたい情報はない。見渡す限りの緑色のよくあるタイプのザコゴブリンしか居ない。
間合いは5Mと言った所だろう、両方素手。エンペラーに至ってはいつもの拳銃ですらない。余計な装備はいらないと思ったのかはたまた……。
「OK、じゃあ始めよう!」
軽快なドラムの音楽が鳴り響く。
《3・2・1・GO!》
両者気合いを貯める、否。心を貯める、心氣教室でやったアレだ。
戦闘を一段上の上質なものへ変える必殺の溜め。
両者、錬力の押。
右回転で力と力を流動させる。心室を体内で作り、錬貯を貯める。
……この時、体内、体外で心室を作っているので、ゴブリン達はその結界の中に入れない。むしろ自滅、その“何か”に阻まれ・または攻撃されて両者の絶対不可侵領域に入れないでいる。
姿勢は両者南無阿弥陀仏を唱えるあの手の平合掌のポーズ以外はとっていない。
にも関わらずこの威力、この防御力。
両者祈る姿。明らかに通常の打撃以上のものが飛んで来る! と貯め終わった2人から、ゴブリン達は読み取る。
変換の祈りを終了する。
全身に纏は三大心の内の能力、2人はまだ型の存在を知らない……。
よって、ここから始まるのは純然たる力と力のぶつかり合い。
この際、何を食したかによって大きく変わるが。ここは省略。
互いに心を錬った状態で2人の戦闘は開始された。
まるで5tと5tの“何か”がぶつかったような、強烈な打撃音が鳴り響いて。逃げ惑ったゴブリン達の足が宙に浮く。
――瞬間、衝撃波。
――そして5tの連打。
足が浮いたゴブリン達は散り散りに、原形を残さず吹き飛んだ。
もはやモブが障害物のそれとして機能していなかった、その様はまさにスーパーマン、かドラゴンボ〇ルのそれであった。
予備動作でここまで変わるものかと息をのむ観客席、純然純粋な力と力のぶつかり合いが続いた。
これがサキとヒメより弱い? とんでもない、修行をした2人の体術は圧倒的に姉妹を上回っている!
「今回は悪かったな、何せ心を弾丸に纏修行がまだ出来てないんだわ」
「気にすんな、俺だって心が重くて、ろくにスピードが出ない」
エンペラーもグリゴロスも本気ではないらしい、否、修行不足でまだ理想の強さを体現出来ていない。
両者、車と車が激突する威力でもって威圧し、ガガガガ! と攻防を続ける。
サキ、ヒメ、桃花も言っていたように、両者互角だった。障害物として用意した、建物もゴブリンも、まるでマグマの熱波で焼け焦げ・灰になるかのように意味を成していない!
ヒメが「おい」とサキに言う。
「そういや今回、制限時間決めてなかったよな?」
「あ! そういや無いね」
桃花先生も「じゃあ」と付け足す。
「体術が互角なら、スタミナ勝負になるわね」
ここまで決着がつかずに拮抗する戦いも珍しい。
弱点は流によって流動する、それを互角の体術の持ち主が見極め虚を突くのは至難の業だ。となると、この勝負は先に息切れした方の負けとなるのが自然。
今までの経験値で、どちらが長く持続力を高められたかの勝負となる。
長い時を経て……、そしてようやくその時が来た……。
「ゼエゼエゼエ!」
片方が体力切れで膝をつき、片方が上体を立っていられたのは……。
グリゴロスだった。
《タイムアップ! 勝者! グリゴロス!》
拳銃使いによって生じるメンテナンス時間、その運動不足と。
拳闘士によって生じる体力作りの時間、その差がこの拮抗した局面では致命的だった。
「クソ!」
純粋に悔しいエンペラー、長い間、迷い悩み、苦しみ、試行錯誤してきたゲーム廃人が、単的にスピードや体術に特化したプレイヤーに負けた事を意味する。
「いや、1分後にはヒザをついてる自信あるぜ、ゼエ……ゼエ……」
正直、グリゴロスの方は運が良かったとしか言いようが無い。それほど、こと体術においては互角だったのだ。
《よって! ギルド『放課後クラブ』の全権代理者はサキ、ヒメ、グリゴロスの3名となります!》
こうして、放課後クラブ戦闘力3位決定戦は幕を閉じた。
◆
翌日、桃花先生は放課後クラブのサキ、ヒメ、グリゴロス。
最果ての軍勢のバイタル、チェン、バハムートをを呼び出して心氣教室を開く。
「では、コレより三大心の奥義とも呼べる。型の修行に入ります! 型とは、自然型、環境型、文法型、全王型の総称のことです!」
いよいよ、心氣教室も佳境へ入って来た。




