番外編37「イキのいい新人見つけた!」
現実世界のとある日。
GM姫がつまんなそうにゲーム内プレイヤー達を見ていた時……。
――ソレは不意に現れた。
「見つけた! 大当たり! ログイン!」
社員は思わず叫ぶ。
「ちょっと社長ー! 仕事してくださいよおー!」
恐ろしいほど速い決断力! 俺じゃなきゃ見逃しちゃうね……!
と言うぐらい速攻だった。
◆
仮想世界、EWO3。
結論から先に言うと、社長の嗅覚に間違いは無かった。
「お前、Dランクプレイヤーなのにやたら強いな。どっかで鍛えてたのか?」
イキったプレイヤー(イキがいいプレイヤー、は素っ頓狂な顔をしている。
「へ?」
「隠しても無駄だぞ、見てたんだろ? 桃花の心氣の流れ、キミ……名前は、なるほどイキがいいから〈秋刀魚くん〉か、お前は親衛隊入れ、ダメ。入れ!」
GMヒメは何かもうノリノリである。
まだこの秋刀魚くんはプレイヤーとしてプレイしたからヒメに「へ?」としか言ってないのに、〈放課後クラブ親衛隊〉に入れられてしまった。
んで、その後に。秋刀魚くんの詳細プロフィールを初めて見る。
で、その実力の違いは当たっていたのだ……。
「んなるほど。〈おじさん〉や〈レジェンドマン〉の弟子クラスか……通りで良い感じの型持ってるわけだ、しかも別の所で鍛えてるな……」
んで、そこまでお見通しならと言わんばかりの脳筋スタイルで、イキのいい秋刀魚くんは「武闘家として、手合わせ願いたい……!」と言われたので「ん、いいよ~!」の二つ返事。
秋刀魚くんが「じゃあ場所は闘技場?」とか迷った瞬間――。
「321今!」
速えよバカ社長!? と画面越しに運営陣がツッコミを入れる中、その場で乱闘が始まった――!
心に心室を作り流れるように変換、サキ同様、今回のヒメの変換先は精霊、速さ重視だ。ちなみに秋刀魚くんも精霊、ついこの間アップデートされたのにもう覚えて実施・実現出来ているところからして、並々ならぬ初心者だと窺える。
生成出来た時間は、ヒメが1秒、秋刀魚くんが1.1秒……。なんとアノGMとコンマ0.1秒差の大ベテランのゲーム初心者という事がこの段階で読み取れる。
が、0秒の世界に入って来れて無いという事は、ヒメにとっては……。
「パリィ!」
パリィの餌食なのだ、が、そのパリィを〈パリィ返し〉してきたのが、この初心者、秋刀魚くん。
結果、何とあのGMヒメに、何とあのGMヒメに〈一本〉を取ったのだ!
油断したか・したないか、だと五分五分だが。この攻防、どちらかというと……実はヒメの方が負けているのだ……!
不意打ち、不意打ち返し、初心者、GM、だとどちらが上か……は想像しづらいが……。とにかくヒメは負けたのだ、このイキった秋刀魚くんに……!
俊足で、地面に突っ伏した状態を立て直し。また臨戦態勢を取るが……ヒメはその緊張を解く。
「あっはっはっはっは! ヤッター! やっぱワシの目に狂いは無かった! 毎日モニター見てて良かったー! ワシの目は確かに鍛え上げられている!」
初心者アバターの皮を被った中から、操作性だけでベテランを見つかられたことに喜びを隠しきれずにはしゃいでいる……!
負けたことなどそっちのけ!
《ちょっと社長! それ以上はストップー!》
「ありゃりゃ、んじゃ。ドクターストップが入っちゃったから今回はこのへんで! 秋刀魚くん! 今後の活躍期待してるぞ! あ、親衛隊の事はてきとうでいいから! んじゃ! 縁があればまたなー!」
と言って、速攻で負けて、速攻で去って行った……。嵐のような人だった。
残された秋刀魚くんは……。
「え、まって。……社長……?」
そこから先は憶測ばかりが頭の中を巡り、収集がつかずに終わった……。
おわり。




