第531話「なぜ軍勢が生まれたのか?」
きっかけは孤独から始まった。
これは「1人での旅路はよせ」と老人に言われたのに、「信念は身勝手な酷いものなのだ」と二度耳を傾けず、女性の「何でも言って、ちゃんと聞くから」に全く聞く耳を持たず、それこそ本当にまだ何も知らなかった頃の男の話。
のちにSランク第1位、最強ギルド、最果ての軍勢。
世界1位、軍司令官、真城和季という男の話だ。
……。最強とは何か? それを突き詰めたらこうなった、と言えば単純明快な話なのだが、その突き詰めた結果こうなったの、過程がぼやけて結果だけが今見え隠れしている形となる。
この現時点での最強とは何なのか? それを説明しなければならない。
過去を掘り下げる行為はあまりしたくないのだが、これを説明しないことには先は無い、……と真城和季本人も、天上院咲も思って居るので。
和季は咲に話す事にした所から始まる。
現実世界。西暦2037年5月27日、とある喫茶店。
真城和季と天上院咲は椅子に腰掛けて、そこに座っていた。
「敵に塩を送るような事をしてその最強の組織は大丈夫なんですか?」
「俺はただの司令塔だ、何の能力も無い無能力者だよ。最強の存在のトップがレベル0だなんてカッコイイだろ?」
「……小さな噂を聞きかじった程度だと。単に意思決定の方法論が無かった、居なかっただけに思えますけど?」
「誰でも良いから意思決定してくれ、だったら誰も動かないよ。お前だったら信じられる、程度に信頼が無ければな……」
「……、それをこれから話してくれるんですか?」
「さぁ、どうだろ? どの道、心氣を使うには食事は必須項目、……何か食べながら話をしようぜ? あ、すみませーん! 〈チャーハンと海老寿司〉下さーい!」
ここでの食事は純粋に次の戦闘に直結する……、そう確信しながら……。
「じゃあ私はドリンクバーでコーヒーと、とりあえず〈明太子パスタ〉食べます」
「先に言って置くが、お前は俺みたいな道通るなよ? 軍人なんて道、お前が通るもんじゃない」
「察する限りで解りますよ……もうただの人間じゃ無いんですから」
「家族の善神か、……。天上院姫もとんでもない妹を持ったことで……」
「私は良いんですよ、一緒にお姉ちゃんと苦楽を共に歩むって決めたんですから、……でー私の話じゃ無くて和季さんの話でしょ?」
「そうだった、じゃあ話すか。それこそ〈つまらないし、面白く無い〉話を……」
真城和季、25歳、職業ニート。
大学を卒業し、晴れて社会不適合者になった後の話だ。
無職転生、異世界行ってから本気出せたらいいな。が彼の信条である。
~長すぎるので中略~
異世界転移し、出会いがあり、汗あり涙ありの大冒険が彼には待っていた。
彼は異世界で生涯の人生を全うして、死んだ。
……ところが……。
結局、その出来事は無かったことにされた。
物語って、どこで死ぬと思う? 人に忘れ去られた時? 違う。
結局、自分で削除したときだ。
どことも解らないその人は、その物語を完結したあとに削除した、無かったことにした。役目は終わったんだって削除した。自分で自分の墓を作ってその墓に入った後にその墓を消したんだ。……人の事は、色々自分も言えないが……。
それが悪いとは言わない、結局廻り巡って良いことだとは思う……ただ。
「結果、そのための犠牲は? と墓を立ててその墓を無かったことにしたら、ぶん殴られたよ」
「誰に?」
「アメリカに……あ、今俺のこと嘘ついてるって顔しただろ? なるべく包み隠さず真実を話そうとしてるんだぜ? 信じられないか?」
「いいえ」
ここは咲はキッパリと言う。
今回の件に限っては、疑う疑わないの話じゃ無い。
「和季さんを、信じます! あなたは優しい人です、嘘をつかないようにその誰かを残そうとしている。墓荒らしをしていると言われるかもしれない、悪魔と言われるかもしれない。……それでも残したい、その信念を信じます!」
「……、おーおー。現人善神様は怖いねえ~~。お、メシ来たぞ、食おうぜ」
「……、いただきます」
「全ての生命に感謝を込めて」
「!……、パク。もぐもぐごっくん……それが起爆剤だったんですか?」
「まーそういう事に……イデデデデ!」
「ん?」
「いや、まー。相棒がな、止まれってさ。いや、今は1対1の話し合いだから見えなくしてる、アストラル体なんだよ、感情内閣って言って。これがまた人のケツ蹴りまくるとんでもないヤツで……て……前にも会わなかったっけ?」
「はあ、……パクパク、まあ色んな人に会ってますから。ゴックン」
「ま、それでいっか。んで、色々あって異世界人? 最果ての軍勢の今の軍団長、不動武とそのご一行様にスカウトされた感じ? 後から入ったんだよ、俺は。何かバランス良すぎて意思決定出来ないからお前が決めてくれって。俺にとっては【ハァ?】だったんだが、軍勢の内情知ったら……まあ納得はできた。あれじゃバランス良すぎて決定や決断が出来ない、もっと人間味があって尖ったヤツがいないと全軍隊動かせるだけの意思決定は出来ないよな……てさ」
「で、最終の最高の意思決定権が真城和季さんに行って、今に至る感じですか?」
「まあ、俺自身にも〈強くなりたい〉ていう願望はあったよ? でもそれとこれとは話が違うし別の話だ。今は最強の軍人であり人間、世界1位の真城和季として話してるぜ?」
「最強の軍人であり人間、世界1位の真城和季さん……」
「そう、パクパク……」
「ただの真城和季さんとしてはどうなんですか?」
食べる手が止まる。
「……軍人じゃ無い和季の意思としては……、この世界に負けてたまるか! だな、ま、自分自身の手の話だが……想には負けたくないよな」
いきなり心氣教室の単語が出てきた。
「あ、明太子パスタお代わりする?」
「しません! 一応女子ですから!」
「あ、そう。スミマセーン、ウニ寿司くださーい!」
そのタイミングで、咲は席を立つ。
「あら? 俺何か悪いこと言った?」
「いいえ、もう聞きたいことは聞けましたので」
世界1位そいうものがどういう存在か、これではっきり解った。
「それはそれとして、私は私として和季さんに勝ちたいです! いいえ。和季さんの人生に勝ちたいです!」
「なるほど、人間観察はこれでお終いと……」
「決着はゲームで決めましょう!」
「おう! しっかりゲームで白黒つけような! ゲームの決着以外に意義は無い!」
お互い、解った風な口をきいて。
「では! 戦場で!」
「おう! 戦場で!」
喫茶店のドアがカランカランと開いた音がした。




