第530話「心氣教室⑦」
「アレやってみるか」
30秒の攻防は一瞬だった。
「――変換……心氣! 」
「!?」
和季が能力から心氣へ性質変化の回転を始めたのだ!
(あれは!? お姉ちゃんが闇の力を制しようとした時の動作!?)
今回は闇の力では無い、光の力だ。
中パワータイプから、強パワータイプへの変換である。
当然スピードは遅くなるが、下手したら湘南桃花先生同様の心氣が飛んで来る可能性さえある、サキが一回死んだアレ、あの指パッチンだ。
修行1日目からソレが出来る? イヤ出来ない、普通なら、だが相手は世界1位だ! 出来ても不思議では無い!
その中からサキに焦りが生まれるが、元よりスピードタイプ、連撃の型で押し切るしか無い、相手は普通の型から、一撃の型に変換しただけだ。
その必殺の一撃が来る前に、スピードと数の勝負で……。
「潰す!」
やられる前にやるしかない! 実行された瞬間に、ジ・エンドだ!
連撃! 連打! 連怒!
サキは目にも止まらぬガトリングガンのような神速が、和季の全身をバチバチと当たる。
が、和季は心氣にしたことにより防御力も岩のように固くなっていた。
サキと同じく全身を薄い心氣にして薄く纏行為をしている。
これでは両者決着がつかない? 否、流がある以上、川の流れの速い遅い停滞はあるのだ。流れていない箇所だってある、つまり、弱点を突く!
「狙うは目玉!」
極悪非道の目潰し! が! ガキィン! と強力な流が発動している、激流だ。弱点たり得ていない!
「!?」
「まあ両目を狙うのは常識の範囲だろうよ!」
普通の人体の急所が弱点たり得ていない!?
となると……。サキは困惑するが頭の回転力も高速処理化していた。
「アンサー……!」
サキの全身は天上の頂きまで達し、最高地点から急速落下のかかと落としを和季に食らわせた!
「バースコート!!!!」
パワーを貯めている和季の錬貯を根こそぎ心室ごとぶち壊す!
パリィン……、と心室が砕け散る音が聞こえた。
「グフ……!?」
決定打だった……。
桃花先生は宣言する。
「そこまで! 時間内での決着を確認! 勝者はサキ!」
『うおー!』とか『キャー!』とか『パチパチパチ』とかの歓声が鳴り響く。
ヒメがサキの傍らに近寄って、走りながら抱きつく。
「うおー! よかったな! 久々の勝利じゃないか!? 良かったよかったー!」
「負けた?」
「世界1位が負けた?」
「いやでも今日初めての授業だぜ?」
「それ言ったら相手も同じ条件だろ」
「サキ様すげー! 俺親衛隊やっててよかったー!」
「サーキ! サーキ! サーキ!」
「白の剣士が勝った!」
「何で勝ったんだろ?」
「自信ついたんじゃね?」
「信じる心が! 俺達の強さだ!」
桃花先生も拍手をしながらサキの方へと向かう、てくてくてくと歩き……。
そして一言。
「これは始まりだ」
「!?」
「あんたが本当の自由を手に入れた証拠だよ、選別ながら普通のスキルをやろう」
言って、桃花先生はステータスバーを開き、サキにスキルをプレゼントする。
《サキは、スキル〈空歩〉を手に入れた!》
《サキは、スキル〈エボリューションW〉を手に入れた!》
「ただ〈空を駆けるスキル〉だけどさ、今のお前なら使えるだろ。Wの方は……、まあ遊んでみれば解るよ……! 自信持って冒険しな!」
「は、……はい!」
「……まずは1敗か……」
世界1位は何を思うのか、それは解らない。が口から発した発言は、割りと真実味を帯びて本気だった。
「サキ、……次は戦場で会おう」
「……、は、ハイ! 今度こそちゃんと勝ちます!」
何か忖度でもあったのか? と思わせぶる発現だが、お互い今度は〈本番で相まみえよう〉という意図は伝わったようだった。
そう言って、最強ギルド『最果ての軍勢』約30名と、そのトップ、世界第1位の真城和季は去って行った……。
そう、まるで……、散歩をするように……。
ヒメは何かを悟るように、和季とは反対方向を向く。
「んじゃサキ次の冒険へ行こう!」
「う、うん! 今度こそ待ってろよおー打倒! 四獣王ミラーライオン!」
……。
遙か遠く、霧の中……、鏡の向こう側からソレを見ていた、四獣王ミラーライオンは。雄々しく遠吠えをし、そして霧の中に走り去って、消えた……。
◆心氣教室◆
~心氣の造語集~
三大心。心氣、能力、精霊のこと。
食。食べ物、料理、元となる食材のこと。
心。気持ち、心そのもの、造語ではない。
心室。心と心の絆を信じて繋げ合わせた部屋のこと。
錬貯。錬を貯めて置く行為。
変換。変換と書いて輪廻と読む、心や魂が輪廻転生するという意味。
心氣、精霊、能力。努力の結晶。過程や結果に力が宿る。行動と意思が一致してなくてはならない、という誓約がある。その威力は絶大。
~心氣の略語集~
引。引く力。
押。押す力。
想。想像力、夢想する力。
錬。心室で「力」を錬る行為。
流。流れる力。
動。勝手に動く力。
制。支配、制御できてる力。
纏。三大心を体などに宿す行為。
援。動が自然と援護してくれる行為。
~その他、よく使う言葉~
出力、入力、技巧、利き手、右回転、左回転、正回転、逆回転。




