第528話「心氣教室⑤」
心氣教室、レッスン3【食の流を覚えよ!】は続く。
「んじゃ、食の解説は終わったから、実際に心室で錬をやってみて」
「おっけい……、質問。この食は仮想世界で食べるの前提なのか? それとも現実世界? イメージだけで良いのか?」
「現実は強、仮想は中、イメージだけだと小って感じかしらね。今は食べてるヒマないし、想だけで良いわよ」
「では! 食から能力までの一連の流れを実戦! 始め!」
和季は心室内で、想を錬……。
「おっけい、じゃあ、日本食で行くか……」
(ご飯、味噌汁、……そして秋刀魚の塩焼き……出汁巻き卵と海苔付き……っと)
心にイメージを浮かべ、理解・分解・再構築してゆく……。次は錬。想の力を錬イメージ。食材という命と魂を体の中で錬。錬を一時的に錬貯して置き。……ソレをゆっくりと変換してゆく……イメージ。
「で、能力か……」
ゆっくり右回転で変換してゆく過程で拳に三大心である、能力が右拳に宿る……。
「ちなみに、普通のゲームのスキルと違って。この方法論は、覚醒型となります」
桃花先生が補足する。
「同じ材質の剣と剣だと、覚醒型を纏った方だと。素の剣は折れてしまいます、それぐらい強力で、絶大です。あの四獣王ミラーライオンの鏡や反射も、この覚醒型なら攻撃が強すぎて跳ね返せません」
もう一呼吸、桃花先生は言う。
「この三大心を体などに宿す行為を纏という!」
和季はシメの行動に入る、フィニッシュだ。
「そして、心の中で出来上がった右拳の能力を使って……セイ!」
ビュ! っと正拳突き。すると、まるで天空で飛行機が通ったのかと思うほどのバリバリバリ! という音が響き渡った。
「おお~、一発で流れを掴むなんて流石ねぇ~……」
――ここまで10分の出来事である……。
桃花先生と和季の授業はこれでいったんお終い。
「どう? 使ってみた感想は?」
「……腹減った、入力した朝の日本食を全部出力して体という器の中はカラッポ……って感じです」
「ふむ、それでよろしい」
「1つ聞くが、これだけの威力を持ってる三大心に代償って無いのか?」
「しいてあげるなら、その練度の難しさ、流れを把握する流、そして勝手に動く動の制御、つまり制の難しさかしらね。代償は食材と言っても過言では無い……この食をいかに食べて、どう錬貯するか、そこら辺が鍵だわね。今回は比較的普通な能力の正拳突き一発でこれだから、実戦で使えるのはまだまだ先だし、間に組み手の特訓も入れなきゃだわね」
「……解りました! 押忍!!」
「おっと、和季くんの場合もう一つ、教えることまだあったわね。あなた、……動と会話出来るでしょ?」
改めて、動とは勝手に動く力の事である。
そのことに若干動揺する和季。
「あ……、はい。会話出来ます、右手のピクピクがイエス、左手のピクピクがノーみたいな……」
「その、動が自然とフォローしてくれる行為、援護してくれる行為の事を援と呼ぶ! 記憶したかい? この幸せ者め~! ちなみにあなたの相棒、キャビネットちゃんはこの援がメチャクチャ強いです。オーケー?」
「お、おーけー」
「よろしい、は~いじゃ次~!」
その後、次から次へと生徒の指導を捌く桃花先生であった。
◆
「なるほど、メシを食いまくれば良いのね?」
「〈食いまくれば〉……てのはちょっと誤読が過ぎるぞ? 我が妹よ」
再びヒメとサキの会話に戻る。
「真城和季は器用貧乏って感じの奴で、理論上出来る事はちゃんと努力すれば〈何でも〉出来てしまう〈特性〉を持っているんだ。一回聞いただけで普通は出来ない、サキはまだ長年学び実戦積んで……をほとんど出来ていない……、もっと反復練習しなきゃ」
「あー……やっぱ才能かあ~~~~」
「才能の一言で片付けるのはワシは好きじゃないが、サキは才能ある方じゃぞ、やる気が無いだけで伸びしろは良い方だ」
「本当?」
「あぁ、やる気が無いだけで」
「……二度言ったよこの姉は……」
とはいえ、このサキとヒメ。2人の姉妹の会話は何故か永遠と聞いていても飽きない不思議な力を持っていた……。
「で、食は何を食べれば良いのかしら? 錬のは押だっけ?」
「そうじゃな、まずは……」
こうして、食と流の実体を把握した後は、いよいよ〈組み手〉の特訓だ。
「ちなみに援ってどうやって鍛えるの?」
「援か~……こればっかりは鍛えるの無理なんじゃないかな……?」
◆心氣教室◆
~心氣の造語集~
三大心。心氣、能力、精霊のこと。
食。食べ物、料理、元となる食材のこと。
心。気持ち、心そのもの、造語ではない。
心室。心と心の絆を信じて繋げ合わせた部屋のこと。
錬貯。錬を貯めて置く行為。
変換。変換と書いて輪廻と読む、心や魂が輪廻転生するという意味。
心氣、精霊、能力。努力の結晶。過程や結果に力が宿る。行動と意思が一致してなくてはならない、という誓約がある。その威力は絶大。
~心氣の略語集~
引。引く力。
押。押す力。
想。想像力、夢想する力。
錬。心室で「力」を錬る行為。
流。流れる力。
動。勝手に動く力。
制。支配、制御できてる力。
纏。三大心を体などに宿す行為。
援。動が自然と援護してくれる行為。
~その他、よく使う言葉~
体、器、出力、入力、技巧、利き手、右回転、左回転、正回転、逆回転。




