第525話「闇の支配者の修行」
仮想世界、カルテットタウン、闘技場。
「全ては心のままに、か……」
ヒメはボソッと呟く。
「サキ、交代だ」
「え、……お姉ちゃん運営でしょ? 何をやる必要があるの?」
両手で剣を持ってプルプルしているサキを見かねて、ヒメが実験台になる。
「桃花は出来て、ワシは〈理屈では解る〉程度なんだ。闇を意識的に支配してコントロールしたことが無い、心氣も同様、……闇に支配される感覚はあるが、闇を支配してる感覚のコントロールはワシも力不足……、つまり修行しなきゃいけない」
「……、自由の悪神的に?」
「いや、称号は関係無い。私が私自身をこの手でコントロール出来ないんだ、だから心氣の修行をやる!」
桃花先生は一拍置く。
「ふーん、ヒメちゃんは解ってると思うけど。心は、押す力じゃなくて、引く力よ?」
「解ってる、でもここは〈場所じゃ無い〉から、引く力を錬貯・変換して、押す力に変換して心氣に出力だな……すぅーー……」
「え、引く力を押す力に変換して心氣に出力……?」
「……、ム! 流れが悪いな、もうちょいカスタマイズするか……」
言ってヒメはステータスウインドウで何やら動きの不十分さをカスタマイズしている……。たぶん、ログに残る文字のイメージと手足のイメージに若干の差異や、面倒さがあったのだろう……。
どうやら自分流のシステムカスタマイズが終わったらしい……。
「では! 引く力を変換して押す力に! 流れは左回転!」
「オス! すうぅー……」
すると、ヒメの心氣がまるで生きているかのように勝手に動いた後、手を流れて左回転を始めた。ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり心氣が体内外を問わず動いている……。
「次は! 押す力を変換して引く力に! 流れは右回転!」
「オス! すうぅー……」
今度の心氣は逆回転、右回転を始めた。ゆっくり。
「次は性質変化! 心室内で、心氣を能力に! 能力を精霊に! 精霊を心氣に変換させよ! 流れは左回転!」
「オス!」
今度は全く別の特徴を持つ物質? を変換させ始めた……、てかこんなことも出来るのか……。と驚くサキ。特に能力を精霊にするとか、意味が解らない。ゆっくり。
「サキちゃん、一応補足だけど、自分のペンを持つ手が右手なら引く力は右回転、左手なら左回転って意味ね、単純だけど」
(いや、全然単純じゃ無いんですけど……)
サキは話が前に進まないのでわかった風な口をきく。
「とにかく流れがあると言う事ですね」
「そういう事、基本この流れに逆らっちゃダメ。ヒメちゃんみたいに車をバックして爆走させるような技術は相当頑張らないと出来ない事よ。変換の右回転・左回転、普通は出来ない」
「出来ない場合はどうやって習得するんですか?」
「右利きでも、引く力と押す力で得意分野違うからねえ~……。ココでは押す力を優先するけど。右利き・押す力・右回転、これで〈連撃の心氣〉が撃てる。逆なら〈一撃の心氣〉、図面は持ってるわよね? それの流れに逆らわないように性質変化は属性を流しながら変化させる」
つまるところ右利きか・左利きかが重要になってくるわけだ。
サキは桃花に質問攻めする。
「グー・チョキ・パーって流れなら、逆回転でパー・チョキ・グー、グーからパーへは飛べないって事ですか?」
「その場合流れを逆回転させないといけない、まー性質変化をそうポンポンできる事は無いから。最初は正回転、心に集中して変換、心氣を出せば問題なし。ヒメちゃんの闇のコントロールはもうちょいランク高いからさ……」
「ん~……もう一つ、お姉ちゃんは善人なのに。闇を支配せざる追えない状態になってます。これは心氣の闇と光があるって事ですか?」
「属性は何でも良いのよ、この場合。例えば火の心氣、火の能力、火の精霊があるとする。どれが1番強いと思う?」
「え、……解りません」
「資料に載ってるように、威力が高いのは心氣、弱いのは精霊になる。たぶんこの仮想世界なら、スピード重視の精霊メインで戦う方が良いんだろうけど……先生とヒメちゃんは立場上ちょっとね?」
「うぬ、ワシは心氣の方が良い。サキは精霊の方を極めるのが性格的に良いと思うぞ、あれドチャンコ速く発動・執行・具現できるから」
なるほど、そういう風に出来ているのか。
頭が良いんだか悪いんだか……。
「日々トライアンドエラーですよサキちゃん」
最後に桃花先生が締めくくった、ヒメの闇の制御訓練は続く……。
ゆっくり、ゆっくりと。ヒメは相変わらず器用だった。




