番外編36「放課後クラブギルド本部・仮想物々交換所【天】」■
ある日の放課後。
場所は、
放課後クラブギルド本部『仮想物々交換所【天】』。
始まりの街『ライデン』が拠点だ。
「そうか! 金はカード化限度枚数なのか!」
姉は何か自分にとって何か新しいものを発見したようで、ウッキウキのご機嫌状態だった。
「ん? 何お姉ちゃん今度は何のお話をしてるの?」」
「ん、仮想通貨の話」
「何? 怪しい博打? それとも詐欺?」
妹は一歩退いた姿勢で、ソレは本当に良いものなのか、悪いものか? を見定めている。
「ちゃうわ! てかお前もデジタル通貨持ってるだろ!? FGⅡとか!」
「あー、お姉ちゃんのテンションで変動する通貨だったよね、確か」
「……、まああっちは円・ドル・ユーロと結びついてるから何とも言えんけど、今回は金、ゴールドの性質、システムみたいに何とかお金の安定化を図れないかなあ~っと思ってさ、知れば知るほど不変なのは無いんだなって」
お金の勉強を動画配信サイトで勉強している姉、何か変なのに流されてなければ良いのだけれど……。
「で? 今回の本題はどこ? お姉ちゃんの意図が見えないんだけど」
さっさと本題を言って欲しいと、要求する妹。
「今はさ、ワシの気分やボタン1つでG、普通のゲーム内通貨は変わるじゃん? そこを刷る量、発行する量を制限しよう! って話。本物のゴールド同様に、世界中の金を掘り当ててしまって、それ以上増えないのであれば、価格がアホみたいに高騰はしない安定財源になると思ってな、それのシステムルール作り! どっちにしろ上級者向けだけど」
何故お金に対してここまで真面目になっているのか、それはお金の性質をよく理解していないから、知らないことを知るのが好きなのだ。
「実質今は、G=∞じゃん? FGⅡ=天上院姫のテンションだし。今回のは違う、生成するお金の量を制限しようと思ってな、そうすりゃ実は何にも無い仮想のお金でも価値が安定する、……かもしれない」
不安材料なのは知っているが、価値の出し方作り方を本気で求めているGMの姉、姫なのである。
「それは黄金の意味やシステムを正しく理解してれば、の話でしょ?」
「まあ、そう」
「で? その戦略を解りやすくお願い」
「簡単に言うと、リミテットデータログ・オンラインの考え方に近い、何でもかんでも制限をかけるのはやりすぎだと思うけどな。今回、黄金と似た性質を持つ仮想通貨の名前を〈天〉としよう!」
いきなり知ってる単語に知らないルールを混ぜ込んできた。
「名前はともかく、〈500G=100天〉とかの通貨って事よねたぶん、てかまた新しい通貨作って……しかもそれは漢字なんだ……」
「今回は、1アカウントの、その〈天〉を所持出来る数を制限する。プレイヤーの数は不特定多数で制限できないし管理出来ないから、ステータス画面で持てる数を制限する」
「するとどうなるの?」
「なんと! 何も無いのに価値が出来るのじゃ!」
ドヤ顔の割りには拍手喝采も起こらず、深い沈黙だけが木魂する。
「……?」
咲は「わからん」という顔をする。
「ピンときてないな、例えば。オリジナルソードスキル〈マ〇ーズ・ロザリオ〉の使用所持者数が∞になったらどうなる?」
「どうって、レア度が下がるかな。価値が下がるかどうかは解んないけど、あれは一瞬の煌めきとかドラマがあったからアレだけの感激があったわけで、あのスキルを皆が平等に無制限に使えたら、そりゃレア度が下がるかな」
「つまり、ハンタのカード化限度枚数みたいに、皆が持てる上限金額を固定化すれば、価値が出来て、アホみたいな乱高低は防げるわけだ!」
似ているのは解るが本筋が見えない。
「で、お姉ちゃんがやりたい事ってどんなことなの?」
「ステータス画面だけを観るなら。1アカウント、100/500天とかの上限設定かな。数字デカすぎても使わないし」
「するとどうなるの?」
「例えば、このEWO3を100万人がプレイしてたら、最大5億天までしか刷れない、という制限が付く。システム的な制限じゃ無くてな、あえて上限金額を設定している通貨が天じゃ。という感じ、咲も他のプレイヤーも感じてる通り、この仮想世界はお金の価値がなさ過ぎる、のじゃ。それを、初めは上限10天、50天、100天とかかな? と、プレイヤー全員の天の上限をコントロール出来れば、価格の上下をコントロールすることが出来る。……とかじゃ、絶対に変えてはいけないわけでは無いが、ある程度刷れる通貨、それが【天】じゃ」
刷れる、と言う言い方にも誤解がある、だって仮想通貨。無いのに紙が有るように言うのは詐欺だ。
「……、まあ他の人がソレをどう思うかは置いておいて。ゲーム内通貨のGは解るよ? でも現実世界の円とドルとユーロと元とも紐付けるの? それ」
これ以上、ドルもユーロもましてや元にまで波及するのはゴメンだった咲。
「……、ん~ドルとユーロと元はぶっちゃけ生活に割りとマジで影響してないから、直接的に影響している円だけかな、ここは」
「なるほど、つまりFXはしないと、日本国内だけね」
小さな島国限定の、更に村の中だけ限定という風に見えなくも無い。
「あ、で。それはソレとしてギルド本部出来たぞ。【放課後クラブギルド本部『仮想物々交換所「天」』】じゃ!」
ギルドの拠点部屋は欲しいなとは思っていた咲だが、なぜ仮想物々交換所が付属で付いているのかも謎だった。
「……、なにそれ聞いてない」
「担当は咲な!」
「それも聞いてない!?」
「マジレスするとゲーム内の資金源が無い。モンスターを狩ったところで、咲、お前の空母とか飛空挺2隻のロボットをメンテナンスや格納する空間はお金が無いと出来ない」
それは解る、解るが……。
「店をやるとは聞いてない!!!!」
とはいえ、お金やスキルや素材やその他色々なものを物々交換する場所を設置する、という姉の手腕は流石だった……。
長く使いそうな場所にソレを置く事さえ除けばまあまあ立派だ……。
簡単に言うと、お金が無いなら銀行を作れば良いじゃない!
という精神である。
豆知識
単語◇天
分類◇仮想通貨_物々交換所_お金や通貨
解説◇ゲームマスター天上院姫が考えた2つ目の仮想通貨。発行する? 刷れる? 個数に上限をプレイヤーに与えてレア度、価値をコントロールしてゲーム内通貨の安定化を図ろうというのが目的。つまりシステム的には疑似金貨を模範としている。ゲーム内通貨のGと、現実世界の円としか交換は出来ず。ドル・ユーロ・元とは直接的な交換は出来ない。この天は、放課後クラブギルド本部・仮想物々交換所【天】でしか発行されておらず。所持上限を上げるのも下げるのも、物々交換に用いるのも、取扱場所はこの【天】でしか現在していない。なお、現金をデジタル通貨にすることは容易くても、デジタル通貨を現実世界の現金にするのは至難の業だということもここに補足しておく。




