第51話「とりあえず歌ってみた」
「さーきー! 歌おうぜー! じゃなかったライブ観にいこうぜー!」
豪華客船ミルヴォワールの船内の個室で、メガネをかけて本を読みながらくつろいでいたら、隣の天上院姫こと姉がやってきた。咲は思い出そうと思っても出来ないアイドルの名前を思い出そうとする、でも思い出せなかった。
「あーそういえばアイドルさん居たね、名前何だっけ?」
「忘れた」
「おい運営」
「そんなん調べれば思い出せるだろ、えっとーピッポパ」
そして、姫のステータスバーを咲はのぞき込む。
「あーそうだくるみちゃんだよ、くるみちゃん」
「くるみちゃんってリアルアイドルだっけ? バーチャルだっけ?」
「バーチャルアイドルだな、つまりNPC。生身の人間じゃない」
「あーそっか」
「また変に思い入れ、感情移入しすぎるなよ。また私が病院送りになってしまう」
困った顔をしながら姫は言う、咲も反省はしているが一ヶ月前の出来事なので軽く流すことにした。口を3の時にして。
「はいはい、わかってますよ~」
◆
「はわはわはわ久しぶりー!」
ネットアイドルくるみちゃんとご対面した、咲と姫。3人とも笑顔だ。
「久しぶりー、たぶん2・3ヶ月ぶり?」
「3年ぶりぐらいな気がするな」
一番最初の1億円のクリア賞金が提示されて、詳細を聞く前に歌い出して失敗をしてしまったあの時だ。イフリート戦の後、雲の王国ピュリア前の出来事。
「あれから歌の方は上達したのか?」
「はわわわ、上達してないよ~変わらないよ~」
「あはは、そこは上達しとこうよ~」
女子3人組のキャッキャした話の中に黒一点、エンペラーがやってきた。エンペラーとネットアイドルくるみちゃんは初めての対面である。
「なんだお前ら、3人でユニットでも組むのか?」
咲は驚く、歌おうとは言っていたが。自分が歌うとは思ってもみなかった。ライブを聴いて観てるだけだと思っていたからだ。咲は驚く、姫はノリノリ、くるみは本気。
「え! 何でそんな話になるの!?」
「1人ずつ歌うのも変だからユニット組んで歌おう!」
「はわわ! じゃあ歌詞を作らなきゃダネ!」
そこで、姫は咲の語尾に不満を持った。
「わらわは、のじゃロリで通ってる。くるみもはわわがいい感じに効いている! なのに咲! お前という奴は言葉にアクセントがない!」
「はい? 何の話をしているの!」
「歌詞の話だよ~言葉は強い武器だよ~歌だと」
そんなこと言われても、咲は「最終決戦のつもりでいくよ!」と戦闘の時のみ本気になることを目的としていたので。1場面1場面に個性を出すような存在ではないのだ。
「わらわが個性がでていると思ったセリフナンバーワンは、語尾にくぎゅうを入れた女の子じゃな! あの子はやばかった!」
どこで見つけたんだそんな語尾の白い小熊。と思った咲、だが自分はちょっとふつうすぎるかな? 一般人よりなのかな? と自分をあくまで一般人Aのふりをしている気構えはあった。
「う~ん、歌詞の中に語尾か~」
「そう、咲らしい語尾」
「最終決戦のつもりで! て先頭だよね」
「う~ん」




