第512話「王VS民⑨運営管理室」★
フェーズ2を開始して仮想世界で5分後。
部屋は暗く、液晶モニターの光だけが明るく照らしていた。
運営Aと運営長は、この奇妙な盤上の局面を読み違えなかった。
「運営長、この局面って……」
「そうだな、ギルド『脳筋漢ズ』はイベント『鈴の音ダンスホール』を再現してる。時間が作れたから再現が可能になったのかは解らないが……でもこれは……」
「当時運営陣が解らなかった所もプレイヤーが再現して解りやすくしている?」
「それもあるんだが、先読みをしたとしても、最果ての軍勢のバイタルが自分の陣営を〈待機〉させてる……、感じとして1分間? 10分間? 動かない気だ」
「鈴の音ダンスホール編は結構プレイヤーの間では有名ですよね? ということは対策はかなり練られているはず……なのに動かずにバイタルとジャンプは〈止まった〉……? 一目散に最適解へ走り抜けたい場面だろうに、何故止まる……?」
「ゲームマスター姫様の指示を待ってるとか? または彼女に展開を委ねてるから1回休みを、革命軍の一部はしたってことッスか……? なぜ? 最適解が解ってるのに……?」
「何か軽めな長考かと思ったらそれも違う、革命軍の指揮官は重めの、深い長考に入った。何か間違えたくない駒の動きがあるって言うのか? どこに……?」
「フェーズ2の開始直前で時間はたっぷりあるのに、終局までの流れも〈有る〉のに、ここで止めた……何故?」
「というかイベント『王VS民』なのにいつの間にか『鈴の音ダンスホール』にイベント上書きされてますね……エリアイベントの中でエリアイベントが発生してる、どうします? プレイヤーが作ったこの盤面」
「姫様からしたらラッキー、咲ちゃんからしたらナニコレ? で、特に桜愛夜鈴にとっては同じ盤面の関係上動きやすいのは確かだが……、動きますかね? 夜鈴ちゃん」
「そりゃあ俺ら運営陣はハッピーエンドルート知ってるから夜鈴嬢という名の駒をメインに動かさなきゃダメだろ……でなきゃあの時の再現じゃ無くなる……」
「ここまでずっと静観してましたが何かアクション起こしますか? ウチら運営陣も……」
「そうだな、……もし仮に、鈴の音ダンスホール編の完全再現だとしたらかなり長いイベントが必要だ。合わせるなら、あの時と今、何が足りない?」
「夜鈴嬢ちゃん側だけを観たら、イベントアイテム〈天羽々斬〉がありませんね、魔法無効化のやつ、あと野球ッス……、あーあと〈赤い短剣〉と〈蒼いドラゴン〉ッスね」
「……、まぁ野球はとりあえず置いておいて。他の3つは革命軍の陣形にイベントポップさせても良いだろ、それで動いてくれ」
「了解ッス~~~~、ホイできた、ポチッとな」
《エリアアナウンス。革命軍の陣営内に、〈天羽々斬〉〈赤い短剣〉〈蒼いドラゴン〉が出現しました。》
「ところで、姫様は今何してる?」
「鈴の音のイベントそっちのけで、国王軍を裏切って敵に成ろうと衣装チェンジしてますね……w どうやら妹咲ちゃんと戦いたいみたいですw ラスボス用の衣装チェンジ! とか言ってます」
「笑い事じゃ無いぞお前! そんなイベント鈴の音には無いぞ!」
「王VS民のイベントとしては正しいはずッスよ?」
「まあエリアイベント2つ同時進行だとそうなるか……」
「お、動き出しましたよ? 夜鈴ちゃん例の天剣を取りに、境界線を突破しました、革命軍陣地内です」
《プレイヤー夜鈴が天羽々斬を入手しました!》
「ふむ、予定調和はこれで終わりか……」
「ここからの展開は未知の領域ッスね」
互いの互いの思惑が交錯する、
果たして勝者はどちらの陣営になるのか。
そして誰が笑顔でゲームクリアするのか。




