第508話「王VS民⑤時間の夢眼」
たった今ログインした天上院咲は、誰か居ないかと天空の城ピュリアを探し歩く。
「あ! いた戦空! 何やってんのさ!」
「何って咲、お前を守ってる」
「んん?」
意味が解らない言葉に、咲はノドを詰まらせる。
トッププレイヤー、ギルド『四重奏』の信条戦空はスキル〈時間の夢眼〉を発動した。
「こういう時の為に、時間の夢眼を取っておいて良かったぜ。能力が風だけじゃこの先の戦いは無理そうだしな……」
「ん? 何の話?」
その眼で視たことを、何と伝えようとするか悩む戦空だったが。やはり彼の性格は彼であり。やはり単純なアウトプットが帰って来る。
「スキル〈時間の夢眼〉で、これから起きるであろう一ヶ月先の未来まで観てる」
未来視、しかも超長時間の未来視である。
これには古来視も含まれる。それらを熟知した上で彼は行動出来る。これが強み。
「え! 未来の現実が視れるの!?」
「違う、可能性の未来が見える、まだ現実じゃないし、実現してない」
まさに後手、究極の後出しジャンケンだ。
咲は困惑する。
「……、どういうことだってばよ?」
「ん~、将棋で言うと。相手が確実に指す手、今回だったら31手先まで見れたって感じだな。現実世界で約30日先、仮想世界の20分先、つまりだいたいフェーズ1の未来と過去を観れた」
「……、するとどうなるんだってばよ?」
「その通りに動いても良いし、何だったら変えても良いって事だよ。上書き。書き換えると言っても良い」
まだ、事態を飲み込めない咲。
「仮に書き換えたら、どうなるのよさ?」
「そうだな、とりあえず今回は問題無さそうだし。咲、お前は1分間そこで止まってろ。桃花先生があくびをする」
……、意味が解らなかった。
「……1分待ったけど、やっぱり意味が解らないんだけど……?」
――すると、強い衝撃波の波動が。
ほぼ戦闘イベントの全フィールドを駆け巡った。
《湘南桃花が全王型の心氣、優先度+1の普通のあくびをしました!》
《最果ての軍勢20名が全滅しました!》
繰り返すが、一度戦闘不能になったらこのイベントでは再参加は出来ない。
つまり退場したわけだ。
咲は唖然とする。
「……えーっと、ここまで読み切ったのは解ったけど。あくびってのはまだ解らないわね……」
「可能性の世界線が少し分岐したが。……まあ問題無い分岐だったな、ちょっとウチもこの眼にはまだ慣れてない。出来ればフェーズ1終了の残り18分そこで立っててくれないか? そうすれば誤差が修正される」
「もし動いたら?」
「かなり分岐するだろうな、ウチの未来視と。アース018以外のどっかのアースに行っちゃうだろうな」
アース017には行ったことがある咲なので、そのめんどさは一応解る。
日本国首相が暗殺されるレベルで解る……。
そのリスクを冒してまで、咲は冒険する度量も心の準備も持っていなかった。
「わかった、じゃあフェーズ1終了時まで戦空と一緒に居る」
ソレを聞いた戦空は、〈デルタストームⅡ〉を展開、侵入してくる飛竜達を攪乱した。
……そして時が経ち、フェーズ1終了。
あっちこっちで、ドカンドカンと凄い音が鳴ったが、桃花先生ほどじゃなかった。
《運営メンテンナンス、現実世界の3日間、休憩してください。》
とのこと……。
んで、咲はいったんログアウト。
休憩時間を3日間挟んで、再びログアウトすることになる。
3日後。
西暦2037年5月10日。
特に、何にもやってないけど何かドッと疲れを体験したようで、全く体験してない咲は。フェーズ2の開始の音と共に今度こそ動き出そうとしていた。
ログインと共に、咲は戦空の元へ行く。
「ここまで読んでたの?」
「そうだな、咲が今、ウチに話しかける所までは読んでた。ここから先は知らん」
人知を超えた、超人達の宴はまだ半分も終わっていなかった。




