第449話「大感謝祭戦◇起」
《豊穣の神に祈りを、真剣勝負をいざここに捧げる。》
「ささっとやっちゃう?」
「緊張してきた……」
「まだ心の準備が」
「やっと強い奴と戦えるのか! ウチわくわくしてきたぞ!」
一軍は何故か自信が無さそうな声色だった。
桃花は弱い事を良いことに、勝っても負けても無責任な他人事だし。
咲はミラーディメンションのことで頭が一杯で緊張してるし。
和季は指揮が凄いらしいけど普通の人間のように緊張してるし。
何故か戦空だけ乗り気だし……。
《制限時間は2分間。》
《基本何でもありの立ってた方の多い方が勝ちのチーム戦です。》
「……、やっぱ戦空かな、要注意人物は、イヤ桃花先生も……」
「この年で挑戦者か、血が滾ってきたな!」
「さあ咲、今の実力を見せてもらうぞ!」
「今度はどんなイタズラしようかなあ~! くぎゅくぎゅ!」
双矢、レジェンドマン、姫、キャビネットもそれぞれ一言喋ってから。闘技場内に姿を現す。
異色の4対4のチーム戦、長くは持たないからこそ映える火花の如く。一瞬咲いて速攻で散る真剣勝負に思いを馳せるのは観客席も一緒だ。
《では、始めて下さい。3・2・1……スタート!》
プアーーーー!!!!
開始の巻き貝が笛を鳴らした。
――瞬間、刹那の攻防。
やはり最初のスタートダッシュに優れているのは、戦闘の王者、戦空だった。
地面を思いっきり蹴り上げ迷いの無く前進する。そして標的にしたのは二軍、自称ラスボスの姫、今回の機会に因縁の勇者VS魔王をやろうとしたのだろう。
が、ここで情報無しのイレギュラーが神速のスピードで戦空の影から現れる。アストラル体に距離など関係無い。キャビネットが戦空に対して先制攻撃をかました!
『――速い!?』
コレを目で追えたのは2人、一軍、桃花と和季だ、咲は目でも感知でも超反応でも気づけない。
コンマ0.01秒の刹那を見切れる動体視力はもはや人間の域を超えていた。
が、この動作を。一回休憩してお昼ご飯を食べて更にトイレ行ってからゆっくり座椅子に腰掛けられるほどのヒマがあるのがこの2人。人間としての頂点、湘南桃花と真城和季だ。
桃花は反応できたが、何も出来ない。何故なら人間だから、が、勇敢なる者の1人となるために鍛え上げられた最果ての軍勢、その頂点たる存在に出来ない事など何も無い。
和季は時間と距離の概念も無視して、遠近法そっちのけで捕まえては投げ捕まえては投げた。
――そして時は動き出す!
ドン! バシュ! ニュ! シャキン! バシ! シュバン――!
「この! ご主人様邪魔するんじゃねーでくぎゅ!」
「悪かったな! 今回はお前の敵だ!」
キャビネットは十分な距離を取り、空中に浮遊している。ジャンプしても届かない距離だ。
桃花は、人間としてしっかり迷い、戦空はお構いなしに姫の懐まで入った。姫はそれでもジャストパリィを狙っている。
このレベルのパーティーとなるとスキルで〈神眼〉を持ってないプレイヤーの方が珍しかった。
スキル〈神眼〉を持ってるのは。
一軍。湘南桃花、真城和季、天上院咲は神格化のオンオフの切り替えがOFF状態だったので感知出来なかった。
持ってないのは、信条戦空だけ。代わりに彼には〈超反応〉がある、カウンター技のスキルだ。
二軍。レジェンドマン、姫、キャビネットはスキル〈神眼〉を持っている。
双矢は代わりに内的な目では無く外的な目〈風を読む目〉がある。
続いて、スキル〈射程距離無視〉を持っているのは。
一軍。真城和季。
二軍。キャビネット、レジェンドマン。
流石、最果ての軍勢の1位と2位。このギルドだけ出来ることがおかしかった。
それを視ていたレジャンドマンは和季にターゲットを決める。
並みじゃ、今の攻防で何が起きたかも。目で見ることも、肌で感じることも、脳が理解する時間のも無かった。
レジェンドマンは言う。
「双矢、戦空を頼む。私は和季を止める」
「解った」
「前提を書き換え、結論を予測する!」
戦空にタゲが2人行ったのに気づいて、桃花がそのフォローに入るように走り出す。最も防御が手薄でマズイのは戦空だった。
そして、この時。目でも追えず、肌で感じられず、脳が理解すら追いつかない存在が1人居た。
まだ神格化も、何もしていない普通の人間、天上院咲だった。
「え、何が起こったの……!?」
彼女はまだ、理解出来ない。
二軍に最も後回しにされた存在だった。
そして姫がジャストパリィに成功し、双矢が追撃に成功し。連携攻撃でトドメを
刺そうとした瞬間、桃花が姫の攻撃をジャストパリィ仕返した。
「何!?」
姫に大きな隙が出来たその瞬間、桃花先生は生徒咲に向かって叫ぶ。
「咲! エボリューション・極白!」
言われた瞬間、咲はモーションをキャンセルして〈エボリューション・極白〉を発動する。
――瞬間、気配という名の存在が感知不可能なまでに、データが無くなった。
ただ1人、アストラル体のキャビネットだけがそれを感知、追跡出来た。
《残り1分30秒……。》




