第444話「A極論とピムル理論⑥第Y0階層」
てくてく歩いていた姉妹は、いったん歩みを止める。
「長話しすぎて歩くの飽きてきたな、一回〈カルテットタウン〉まで戻るか?」
「あーうん、特に村も見つからなさそうだし良いよ。どうせ口で喋るだけでしょ?」
「んじゃ、パッと戻ろう」
〈カルテットタウン〉、2A〈プレイヤー街〉には人っ子1人おず、このだだっ広い空間に居ながらもたった2人だけだった。
咲と姫は2人でお茶をする、今回は珍しく2人とも麦茶だ……。
「静かだね」
「ま、αテストのプレイヤーは2人だけだからな。運営の報告によると、やっぱり何か何人か入って来たみたいだが……こっちじゃ非表示じゃ。話しかけても解んねーよ、こっちでは見えねーから」
「あー……、じゃあ同じサーバー内には居るんだ。……ブロックやミュート機能みたいな感じで」
話がそれたので元に戻す。
「で、どっから話す? 〈世界線〉〈メタ世界〉〈概念世界〉もしくは〈世界座標〉か?」
「全部世界って入ってるじゃん……」
「そもそも、この話は世界観の位置、座標がハッキリ定まらないから。ピムル理論はXYZ軸を作って、世界線がどのような位置に居るかを測る理論だ。コレにより神様の位置も測るのが目的」
「あー、最初に言ってた神様ってドコに居る? て話ね……」
「昔なら亀とか魚とか、魚群探知機とかの例で言えれば良かったんだがなあ~、ゴッドジーラは水生生物なのに進化して陸上も歩くし……、そのうち空でも飛びそうだよな」
「やー、そこは陸上で良いんじゃない? 無理に飛ばなくても、ロマンが欠ける」
麦茶を飲む姉。
「話を戻すと、まず世界線っていう時間の流れを1本の糸とする概念があるとするじゃん? こいつは右にも左にも流れを変える。過去にも未来にも流れを変える、この線だけ見るとな」
「ごめん、噛み砕いて説明してるんだろうけど、既に意味が解らん」
「で、この世界線を一点の点として捉えた場合、世界のどこの位置に居るのかな? て~のが〈世界座標〉な、例えば〈スターダストスペースゼロ〉という、『星々が死んだ後に行き着く星の墓場』は、この世界では世界の中心。つまり世界座標X1Y1Z1の位置にある、これが基準点」
「基準点……。あ、もしかして第Y0階層は、階層、つまり0レイヤーだから、例えば、お絵かきするレイヤーも0ってことは。白紙以下だし、お絵かき出来なくない? お絵かきする紙が0の場所に〈スターダストスペースゼロ〉はあるの? 何があるの? 紙がない机??」
上じゃなくて下の方に考えが振り切れてしまった妹の咲。
「話わかってるじゃないか……」
「いやまあ、お姉ちゃんがXYZで解りやすく位置を教えてくれたからさ……」
「私自身はY0は有ると思うんだけどな、……考えて無かったから他の運営陣と審議する」
「おい!?」
《運営陣達と審議中……》
ゲームマスター姫が結論を言う。
「結論、第Y0階層は無いものは無いので、よってこの場合無いとして扱われる」
「……だよね、机ってお姉ちゃんの創作物外のものになるし。創造の範囲を超えるのは論外、て事になるもんね」
「賢すぎて逆に驚いたぞ、我が妹よ」
「えっへん!」
「いやまあ、……やっぱ教えてみないと解らないもんだなあ~」
人に教える難しさを痛感するGM姫であった。
「そうだな、この世界全体で見ても、創造神以外が作った世界を私の世界と呼べないように。逆に、創造神が作って無いし他者も作って無いものは〈無い〉だろうな。論外だ、つまり、第Y0階層=論外な、良い意味で」
咲が補足する。
「土地でいうなら、私有地の外側だから公共の道路とか、他者の土地とかそんな感じだもんね」
「賢いな……うん、そう。第Y0階層は私の土地では無い、のは明かだし、かと言って神や人間が所有できる土地とも限らない。よって、カオスな〈自然な土地〉になるだろうな」
「それ、新天地って言うのかな?」
「逆だな、なさ過ぎて何にも無い土地。第Y0階層だけで小説一本書けそうだな」
「あはは……」
愛想笑いをする咲、困り果てたGM姫。
……、と言うところで。一杯目の麦茶が飲み終わった。




