第430話「夜明け前の攻防戦」残り60時間
仮想世界、西暦2036年9月2日04時00分。
防衛成功まで、残り60時間。
イベント開始から12時間が経過した。
攻略組最前線――。浜辺ステージ。深夜。
キンキンカアン! キンキンカアン!
シン・ゴッドジーラのHPゲージは12本あり、その内のこの12時間で2本削れた……。あと10本残っている。途中で大多数が寝落ちしたとは言え。総力戦の攻撃でゲージ2本しか減らせていない。
しかも、シン・ゴッドジーラはまだちょっと凍ったまま。まるでラジオ体操をするような動きしか見せていない……。
イベントは、仕事、学校、ニートだけど眠い。の3区分で寝落ちしたプレイヤーが大多数だった。
無理も無い、朝の4時である、休憩だって、メシだって食いたい。この時間だと流石にイカレタメンバーしか居ない……。
イベントに参加したプレイヤーでも、「最終決戦までに寝溜めする」というプレイヤーも居た。
細かな無限湧きする野生のモンスターをただただ狩って、シン・ゴッドジーラに攻撃し続けてもう12時間……。
正直、イカレタメンバーでも疲れる……。
咲はと言うと、スレッドの応援なんかを視ながら何とか起きていて。眼を開けながら剣を振るっているだけだった。Aボタン連打だけ、みたいな感じである。それほど集中力も限界だし、神経も衰弱していった。
かと思ったら、ジーラの麻痺状態の電流が、まるで〈静電気〉みたいにプレイヤーに襲いかかり。レベル100のプレイヤーのHPを半分減らして行く……。冗談じゃ無い!?
「30分の防衛戦でもメッチャ疲れるのに、12時間は流石にやり過ぎ……!」
「そりゃ寝ながら戦いましょう! が〈通常プレイ〉だからなw この時間は〈異常者〉しかいねーよw」
咲とシャンフロは交互に苦笑しながらそれでも手を休めない、凍ったシン・ゴッドジーラに攻撃し続けている。30分リピートBGMも既に36回は聞いている……。
キツイ……、単純労働よりキツイ……。
「本格的に盛り上がるのは次のターン、更に6時間後の朝10時だろうぜ。どうする、いったん転移門で戻るか?」
ギルド中央広場で、疲労と体力と装備を調えて。朝10時に備えようぜ? と言われている。
ちなみに死に戻り場所も地図の真ん中。ギルド中央広場である。
「さ、流石にギブ……次のターン……6時間だけ寝かせて……」
「おう! こっちは任せろ」
そう言って、咲はシャンフロに言い、ログアウトして。6時間後にタイマーをセットして。疲労困憊の体力の中、眠りについた……。
シャンフロはというと、ほぼ1人で狩り続けている……。もう攻撃パターンも完全に覚えて、眼を瞑っても相手の攻撃を避けられるようになった。
と、その時……。
「キシャアアアアゴオオオウウウウンンン!!!!」
「お?」
ついに6割方凍っていた体が、完全に砕けて。前進を始めた。見つめる先は1つ、ギルド中央広場である。
ついに歩き始めるシン・ゴッドジーラ。その一歩でマグニチュード3ほどの地震をズシン! ドシン! と発生させながら……。
「ここからが本番か……」
(俺がくたばるのが先か、お前がくたばるのが先か……)
「グルルルル!!!!」
「魅せてもらおうじゃねーか、お前の本気をよ……!」
シン・ゴッドジーラの〈ラジオ体操〉は終わりを迎え、今度は〈ウオーキング〉の始まりである。
――日の出だ、太陽がいよいよ登り始める……。
それから6時間後――、天上院咲は眼を覚ます。
午前10時。第3ラウンドの開始だ、起きた後にまず第1に眼を見開いて凝視したのは。あの巨体をほぼ1人で押さえ込むシャンフロだった……。
だが、既にシン・ゴッドジーラは〈ウオーキング〉を終えて。ギルド中央広場の眼前まで迫っていた。プレイヤー達は、巨大な魔法障壁を100重ほど展開させて。ジーラの〈ひっかき〉攻撃を耐えるのに精一杯だった。
たぶん、ジーラにとっては〈連続ふつうのひっかき!〉攻撃なのだろう……。
攻撃モーションは凄くゆっくりだが、1回のひっかきで。魔法障壁が50枚割れて、突破されている……。
そして、次のモーションが来る前に。プレイヤー達は50枚分の魔法障壁を張り直す……。その繰り返してギリギリ防衛には成功していた。
アクティブプレイヤーがだんだん戻ってきてくれたとは言え、ピンチ中のピンチだった。
「どっちが化物かわかりゃしねぇ……」
咲は素直にそう思った。
シン・ゴッドジーラの体が赤く燃えてゆく……、どうやらやっと。〈体が温まった〉ようだ……。
と、そこで。シン・ゴッドジーラは反転。海辺の方へ戻っていった……。どうやら喉が渇いたらしい……。防衛に疲れ切ったプレイヤーを尻目に、ジーラは海へ帰って行った……。仕切り直しである。
シン・ゴッドジーラのHPバーを視ると……。12本中2本半、減っていた……。
「お疲れ様、シャンフロ」
「おう、咲。やっとか……俺。この後の展開、映画見たから知ってる……」
「ん?」
「海から再び帰ってきたら、ジーラの身長2倍になってるぞ。身長200mだ」
「つまり?」
「このままノロノロトカゲを海辺へ戻すと、HP上限が2倍に跳ね上がる。……何とか阻止しねーとな」
「ひえ……。それって12本のHPバーが24本になるって事ですか!?」
「このまま放置すればな……ッ!」
咲は、冷ややかな言葉しか出てこなかった。




