第420話「帰還者学校2」
お昼ご飯を食べ終わりそうになったそのあたりで……。
「お姉ちゃん、もう一声!」
「……、何だよもう一声って……」
何かネタを欲しそうに、いや、しつこい追っかけ記者が、めっちゃ大事なスクープ。いわゆる特ダネが欲しそうに咲は言う。
「別に推理小説じゃ無いけど。フーダニット・ハウダニット・ホワイダニットを知りたいの。私が」
「……、〈誰が殺ったのか〉〈どう殺ったのか〉〈なぜ殺ったのか〉か……。」
「別に私は。警察でも弁護士でも裁判官でも無い。逮捕とか、連行したいとかじゃ無い。ただ、妹として、知っておきたいの」
どんどん定食がマズく成りそうな話題に広がって行く……。
姫の箸が止まった……。
代わりに口がパカパカと動く……。
「知っての通り。人間の天上院姫では無く、神様の天上院姫が犯人だ」
「うん、殺し合いをしろ。って皆をゲームの世界に閉じ込めた人だよね」
「……、この世界線ではな。細かいことは省くぞ?」
「うん、これで〈誰が殺したのか〉は埋まる」
「〈どう殺したのか〉も、さっき話したからここでは省く。ノートに自覚無く書いたら、それが叶ったんだ」
「うん、何か複雑な心境だよね……」
「で、〈なぜ殺したのか〉が知りたいんだろ? 私自身は殺したと思ってなかった所から始まるわけで」
「そこの3次元的な理由はさっき聞いたから、2次元的な理由が私は聞きたい。それが〈もう一声〉ってわけです……」
「……はぁ……、じゃあ〈例えば〉。の話しで良いか? ご存じの通り、ワシは念じたか、描いたか、打ったか。しか知らんからな」
「うん、……」
「じゃあ。例えば、ゲーム開発が成功して、デスゲームが出来て、皆の阿鼻叫喚になる所を〈鑑賞〉することが成功目的だとしてだ。それをしたくなった時の動機だろ?」
「うん……」
「う~ん……。ていうか、こんなことこの食堂で話す事か……?」
話しをそらされた。
「ここだから、帰還者学校だから話すの!」
「ん~……。確か野望を持ったのが〈ヒルド〉の前だったからぁ~……」
(知らない単語が出てきた、ヒルドって何ぞ?)
「チョッパー、ドクターヒルルク」
「ん?」
「たぶん、たぶんだぞ?」
「うん、そんな焦らさなくても……」
「――人に忘れられたくなかったんだと思う――。」
「……」
「人に覚えていてもらいたい。人気になりたいとかじゃない。勿論、生活のためとか仕事のためとか給料がいいから、じゃない。自分が死んだとき、沢山の人がその名前、行動、意思をただ知っていて欲しい。葬儀に一杯人が来て欲しいはオマケかもしれないが。歴史に名を残すとか。そんな感じの……たぶんだぞ?」
咲は話しを無理くり繋げる。
「人に忘れられたくないから。沢山の人が殺し合いをするゲームを作った……?」
「ま、エンターテイメントを作る動機としてはマルだけど。現実世界でやられると、狂気のマッドサイエンティストだな」
眼を瞑りながら他人事のように言う姫、はどこか懐かしそうに微笑んだ。
「無名のまま死ぬ人を視て、その名を忘れまいと、我武者羅に手とペンを動かして。自分の残せるものを残せるだけ残して。……まぁその後どうなったかは知らん」
咲は、それはもう赤子を視る聖母のように微笑む。
「そっか、その人、寂しかったんだね」
「あぁ、そうだな。忘れてたけど。……ただ昔の自分にツッコミを入れるとなると……」
「ん?」
満足していた雰囲気に、何やら妙なボディーブローを咲は食らった。
「1000人に覚えてもらう目標は気高くて良いが、たった1人に覚えてもらう、でも十分に価値があることだぞ。って言ってやりたいかな。〈その1人に知ってもらう〉って事が、どれだけ貴重で重要で特別な価値なのか、そいつは解っていない」
「……ふむ」
言って、咲を見つめる姫。
「え!? わ、私!?」
「2次元でも3次元でもどっちでもいいが。今回は『理解者』の話しじゃない。『忘却』の話しさ。そんだけ」
「う、うん!」
何故か2人には固い絆が結ばれた気がした。
そうして――。
数時間後。2人の姉妹は、お爺ちゃん先生にお礼をしたあと。
帰還者学校を後に、外へ出た――。




