第416話「中国のゲームマスター2」
西暦2036年5月4日
〈ログアウトしました。〉
天上院咲は早々にゲームからログアウトした、そしてその横には。世界の調整をしている天上院姫の姿があった。
「お? お早い帰りだったな? どうした?」
「いや……、私は2030年代に生きてるからこうなっちゃうんだけどさ……。私から視たら過去の人達の手助け、何か出来ないかな……って……」
「過去って、それって2020年代の人達についてか?」
「……うん。心配で心配でしょうがないのよ」
「んま~解らんでも無いが。……でもそれって生真面目な思考・思想だぞ? 裏を返せば〈私の時代早く来ないかな?〉と、言っているようにも聞こえる。それに」
「それに?」
「タイムトラベルはめんどくさい」
「まぁ、それは色んな映画や物語を見れば解るけどさ……」
「ん、無理くりやるのは構わないけどさ。正直、2020年代に無理矢理入り込むより。知らない誰かを主人公にした方が、手っ取り早いぞ?」
咲が言いたいのはつまり。過去だったら今に、未来だったら今に。意識が引っ張られてしまうと言う事なのだろう。
「む~困ったなあ~。〈過去に戻りたい〉って言うのはまあ出来ない事も無い。シュタゲとか、アベンジャーズとか。でも2020年代って言うと、咲が赤ん坊か、生まれて無い年代だ……。戻った所で意味は無い」
「神様視点で、お母さんの年代を覗くとか?」
「出来んことは無いけど、ちょっと面倒くさいなあ~。それだったら新作書くし……」
(新作ってなんぞ?)
「かと言ってこの作品はSF、すこしファンタジーだ、小固いぐらいの世界観設定の方が丁度良い。夢の世界のおとぎの国、ならまだ解るが。そういう感じでも無い」
「む~手づまりか……」
そう姫は言ってから。
「まぁ、過去が宝物のように煌びやかに見えるのは確かだが。隣の芝生は青い、みたいな感じで。自分の庭を手入れした方が良いと思うぞ?」
「そっか~……うん、わかった」
◆
と言うか、ここのところゲームが出来ない。と嘆いてはいるが、実際には現実を視ろと社会的観点から言われているようにも見えなくも無い。
「……じゃあ社会科見学でもしますかねぇ……」
心の向くまま気の向くまま。鍵が導く心のままに。神道社をぶらりと歩いてみるのも良いかもしれない……。
とはいえ、この前。真城和季という世界一位のプレイヤーと〈神のゲーム〉なるものをしたら、中国が台湾を包囲して軍事演習、……かっこ演習というのは言葉だけでマジモンの威嚇をやったりしたから。下手に「神のゲームやろうぜ!」なんて言えないのである。
「まぁ、ああいうのを視た後じゃ。ヤレと言われてもやらないが……」
台湾の次は本気で日本も射程範囲になってるわけで、台湾がマジで戦場になったらもう人ごとじゃ無い。ロシアもやんごとなきことを、幻影だろうが無かろうが、〈そういう意図で〉やってるのであれば。やはり注意するべきであろう。
そういう、政治的メッセージもちゃんと受け取りつつ。
(少なくともゲームマスターとサブマスターチームは、無自覚に怯んだでしょうね)
とは言うものの、何もアクションをしないとなればそれはそれでつまらない。
(かと言って、どの国もロケット撃ちたいときは撃つだろうし。実験の回数は精度を高めるためにも必要だ。となると今のターンは……)
「対話か~~、……」
知ってる範囲だと、日本国の首相〈今泉善次朗〉とアメリカ合衆国大統領〈ジョン・サーガ〉との政治的コネクションはあるものの……。あの時にアクションを起こしたのはアメリカと中国なわけで……。
「じゃあ中国か……」
いち小娘として、中国のゲームマスター。希一十と話をしてみる感じで調整してみますかね。と、腹をくくってみた。
彼とは過去に1度だけ対話してみたが、まぁ超弩級の悪、ってわけでは無さそうだし。何より、EWO3の中国ゲームサーバーとか運営陣のトップだ。畑はこちら側にある。まぁその時、現実世界でどんな大きなリアクションをしてたかは知らないが……。少なくとも、政治色が強い相手より、ゲーム色が強い相手の方が話しやすいだろう。……ちなみに中国の政治的トップ、主席は、まだ咲は知らない。
「そんなことで、現実世界で中国のゲームマスター、希一十さんの電話番号教えて。お姉ちゃん」
「ん、別にいいけど。わしもついていこうか?」
「……、お願いします。何かあったらどうせ呼ぶし。……だったら今から来てもらった方が良いし……」
というわけで、次のターンは〈外交努力〉のターンに入った――。




