第415話「破局した盤面」
現実世界、西暦2036年5月3日、放課後。
〈修正が出来ません。天上院咲プレイヤーの盤面が破局しました。このままの続行は不可能と思われます。続けるか、投了を選択してください。〉
「ま、負けました」
熱い、灼熱のような汗が流れ落ちた。
「勝ったのじゃ!」
第一声、〈自由の悪神〉の姉から下された審判は残酷なものだった。
「負けた……」
第一声、〈家族の善神〉の妹は力が風船のように抜け落ちてゆく。
これはゲームの話ではない。現実世界での話である。
VRMMO、で遊びたいのに。現実世界に引っ張り出されて。叩き起こされた結果がコレだ。
「負けたけど。そういえばお姉ちゃんはさっきの話で〈神々の法律〉を作ろう、って流れじゃ無かったっけ?」
「あぁ、……まあそれは後でやるよ。お前はVRMMOやりたいんだろ? VR世界で楽しく夢見心地に遊んで来ると良い」
「そうなんだけど……」
「まぁ! あとは、私達に任せろ! なのじゃ」
〈この盤面名。〈ノー・ロウズ・サーガ〉は終了しました。お片付けをしますか?〉
「はい、なのじゃ!」
「また、お姉ちゃんはそんな軽々しく……」
この破天荒な姉、天上院姫についていくだけで一苦労だった妹、天上院咲は、やっぱり悔しそうだった。
とは言え、このゲームでは何も賭けてない。プライドは賭けたかもしれないが。結局、重りは何も無いのだ。
〈世界を再構築中、再構築中……。〉
「んじゃあ、私は〈普通のゲーム〉やってるけど。……本当に大丈夫?」
「いつも通り大丈夫じゃ!」
(それって大丈夫じゃ無いって言わないか……?)
そう思いながら。言いたい思いを珍しく飲み込んで。咲はVRMMOへダイブしたのだった。
◆
〈ようこそ! エレメンタルワールド・オンライン3へ!〉
仮想世界、よくわかんない年代。
カルテットタウン、ギルド中央広場。
3年生となると、流石にチュートリアルは挟まない。すでにアバターは出来上がっているからだ。
〈ログイン完了、お帰りなさいませ咲様〉
「はぁ、やっとログインできた。ガックシ」
咲がどれぐらい壮大な苦労で普通のゲームにログインできたか。知る者はそんなに居ない……。
プレイヤーも、NPCも、自分達のやりたいことがあるのか。すれ違うばかりだ、彼女はすでに知る人ぞ知る人! に成っているのだが、今は運良く、それを存じている人は居ない……。
彼女は、データをリセットして。全ての職業レベルは1に成っているのだ。だから見た目は「廃課金してるな」みたいな装備なのだが、中身はポンコツのレベル1なのだ。
「う~ん、受付嬢とは話をしまくったしなぁ~……。んじゃとりあえず、スライムでレベル上げがてら。今の技術レベルでもチェックしますか!」
そう言って、始まりの街の戦闘可能エリアへ入って行った……。
――少女、戦闘省略中……。
〈ただのスライムを大量に倒しました、経験値が入ります。レベル2になりました。〉
「あ、そうだ。魔法剣士だけ職業レベル上げてもアレだし。探索者の職業レベルも上げて置きますか」
――少女、戦闘省略中……。
〈ただのスライムを大量に倒しました、経験値が入ります。レベル2になりました。〉
これで魔法剣士と探索者の職業レベルが3に上がった。
「ん~戦闘による技術力の判定は……。だいぶ落ち着いて剣を振るうことは出来たかな、焦ってない」
他人に振り回されなくなったと言っても良いだろう。
それくらい、場数を踏んだ証拠でもある。
「へい! ステータスナビ! 職業レベルの上限はいくつまで?」
〈……ピピピ、職業レベルはレベル10で上限になります。それ以上になりますと〈上限開放〉や〈限界突破〉の条件やアイテムを手に入れる必要があります〉
「ふむ、なるほど把握」
ちょっと前回より仕様が変わってわね。
(まあレベル100までいらないと思ったんでしょうね)
言って咲はステータス画面を開く。
◆
最長文学少女 サキ
ギルド『放課後クラブ』
メイン 魔法剣士 レベル2/上限Lv.10
サブ 探索者 レベル2/上限Lv.10
特殊効果
二刀流/正確な地図製作3/念波2/ただの心氣2/自然型の心氣/環境型の心氣/文法型の心氣/全王型の心氣
スキル
『森羅万象のワルツ4 Lv.1』『斬空剣 Lv.3』『古今無双 Lv.1』『太陽・大回転 Lv.1』『ハイ・ジャンプ Lv.5』『妖精焔 Lv.1』『雷速鼠動 Lv.2』『超天元突破・巨神殺し Lv.1』『反魂 Lv.1』『合唱・天翔る光の矢 Lv.1』『エボリューション極黒 Lv.2』『エボリューション極白 Lv.2』『エボリューション極彩 Lv.1』『鷹の目 Lv.3』
秘奥義
グリーンアイズ
装備品
業剣『黒山羊八式』(右手
星剣『ミルキーウェイ』(左手
聖服『鏡花水月』
兎靴『足跡追及』
三眼ブレスレット
アイテム
浮遊城第50層無条件通過チケット×13枚
メモ
秘奥義グリーンアイズは最大11連撃。
◆
「微妙に前回のスキルが継承されてるな~。ま、こんなもんか」
そう言って、咲は。あらかた倒した大量のスライムによるお金とか雑貨とかの報酬を拾って、袋の中へ入れて。再び〈カルテットタウン〉へ戻っていった。
〈安全圏へ入りました〉




