第414話「秘十席群の部屋」■
西暦2036年5月3日、仮想空間。ギルド中央広場、ギルド受付嬢前。
湘南桃花は天上院咲を案内していた。
「ねぇ、そろそろゲームして良い? 何か6話分ぐらいずっとゲームと関係ない話をしてるんだけど?」
無理もない、天上院咲は家族の善神として。〈この世の本当のこと〉を話され続けていた。VRMMOとは関係の無い真実。で、最後にトドメ? 〆としての重要人物を湘南桃花は紹介しようと言うのだ。
「結構前から名前だけは出てるんだけどね、本当の紹介がまだだったなって。大丈夫、コレが最後よ。終わったらゲームしてて良いわ」
「よかった、これが最後か……」
若干もうすぐノルマ達成か、と落ち着いた天上院咲だったが。今度の相手は〈秘密の鍵〉が無いと入れないらしい。
「その人って誰?」
「秘十席群、豪華客船ミルヴォワールですれ違った人。サブマスターよ」
「……、いやそれ伏線にならないって。めっちゃ昔過ぎるよ。で、どの部屋に居るの?」
「不思議な不思議な〈ドアの世界〉の中の映画館です。あそこって一杯イスがあるからね」
言って、そこら辺にある。ドア口に、湘南桃花は人差し指を認証させる。
〈指紋認証が適用されました、お帰りなさいませ。桃花様〉
「指紋認証ね……」
「まあ、見た目は指紋認証だけど。彼の部屋の世界は。右手で創造した世界と繋がってるって意味よ」
「要するに?」
「つまり漫画の世界」
「はぁ……正直者ですね」
「どうも、ほれ。ついたわ」
〈ドアの世界、映画館広間〉
言って、ドアを開けると。そこは大画面の映画館と、無数のイスとポップコーンとドリンクが並べられた大広間だった。
「よ! 群! 今は何の映画視てんの?」
「……、無印版アベンジャーズ」
それが、秘十席群。その人だった。
咲は話を戻す。
「彼はどんな人なんですか?」
「文字通り、裏で糸を引いている黒幕みたいな?」
群は、訝かしげに顔を引きつらせる。
「おい~その言い方は無いだろ。折角裏で色々と調整してやってるのに……」
「……、どっち道〈裏〉なんですね……」
「コッチでは雑談部屋とか舞台裏って呼んでる。それがココです」
映画館で今まで打ち合わせしてたんかい……。とツッコミたくなる咲。
「観客が誰もいないでっかい映画館に3~5人でいつも打ち合わせしてる」
ここで、桃花は群のことを説明する。
「彼はね、実は私なのよ!」
「……、はい?」
「お互い、自分のことを自分だと思ってるから。恋愛感情のまるで無い幼なじみ。みたいになってるの。五感もリンクしてるから、彼がクシャミするときは私もクシャミする。……みたいな?」
「……ん~。うちのお姉ちゃんとどう違うんですか?」
「私、湘南桃花が活躍してる裏で。〈反転世界〉で活躍してる相棒みたいな? 何なら〈被ってる〉のよ、ココ、重大なネタバレだから」
「はぁ……、で。何で教えたかったんです?」
「あなたのお姉ちゃん。ミュウ=星明幸=天上院姫がゲームマスターなら。サブマスターは湘南桃花と秘十席群はサブマスターって立ち位置なわけ。だから説明して置く必要があるかなって」
「でも、私とは直接会ってませんでしたよね?」
群が喋る。
「裏ではたまに話してたぞ。お前が〈配役〉を演じられるか調整する感じで、まさに演劇の調整役みたいな」
「ほほー、……でも私にそんな記憶無いですよ?」
「それはお前は今、キャラクターで裏の役者じゃ無いから。ほらややこしくなった!」
咲は?マークになった。
「私も裏の世界に居た? 記憶が無い? どういうことです?」
「舞台裏で咲はキャラクターを演じようとしているように。今は逆。キャラクターが舞台裏に入り込んだ形だ。だから今混乱してる」
「……、何を言ってるのか解らない……」
「それは〈ココ〉が表舞台だからさ。だから本来、俺は顔を出さない」
何とか理解しようと努める咲、に群が補足する。
「咲がこの映画館、表の世界から出たら。に元通り戻りココは裏の世界になる。逆に、今入って来たから〈表の世界〉になってる」
「ん?」
「ま、要するにスポットライトの当たらない下っ端が。頑張る部屋、さ」
「そこのサブマスターなんですね。よくわからないけど解りました?」
湘南桃花が右手をあげて大らかに喋る。
「ここはVR空間じゃ無いから。マジで咲ちゃんと関係ないけど〈こんな世界もあるんだな〉程度で留めといて。とりあえず、今回は挨拶です」
「えっと~……、よろしくお願いします?」
「はいよろしく。んじゃ、表舞台に戻って良いよ」
というわけで。〈裏の世界〉のドアを閉めて、再びVR世界に戻ってきた咲と桃花でした。
……。
「不思議な体験だった……」
「まあ、今まで話さなかった理由も。これで察して欲しいかなって」
「ん~……、解りました」
「んじゃ、VRゲーム。遊んでていいよ」
「よかった! ありがとうございます!」
そう言って、ようやく咲は。VRMMOの世界、EWO3の世界にダイブすることが出来たのであった。
豆知識
単語◇裏の世界
分類◇世界・空間_舞台裏_メタ世界
解説◇ここで起こる事は、現実世界の更に上の現実世界。つまり作者の世界と同様の広がりを見せている。表舞台が華やかなように、裏舞台ではその過酷さは厳しいものである。最近はずいぶん丸くなったらしいが……。ある意味、「夢しかない世界」の対局「夢がない世界」かもしれない。




