第412話「ノー・ロウズ・サーガ」※ターニングポイント9
西暦2036年5月2日、放課後、天上院姉妹の私室。
咲の第一声はこうだった。
「いまさら何だけどさ、お姉ちゃんの世界観ってどうなってんの?」
「ん? 世界観、ゲームの事か? だったらギルド『世界観探索隊』として自分で調べろよ」
「そうじゃない。現実世界と仮想世界。この2つの世界で2分されてるのは、私、天上院咲の世界よ。でも、それでは説明出来ない事が多すぎる。現実世界の、リアルワールドの。家族の善神として〈自由の悪神、天上院姫の世界観〉を知っておく義務があると思うの!」
「……、んまあ。知ってる事だけで良いなら話しても良いぞ?」
「知ってる事だけ? どういう意味」
「忘れた事も多いって意味じゃ。それで良ければ、この世界のことを話そう」
「うん、お願い」
と言うわけで、姉妹による質疑応答のターンに入った。
咲は、解らない事から話し出す。
「まず、神ってなに? 神様って一体この世界ではどういう定義づけなのよ?」
「えっとー、始まりの始祖。とか言われてるが厳密には違う。それだと、世界最初の人間とか、古代人とか原始人とかになっちゃうからな。色々当たってるが、本質は〈0から1を生み出す存在〉だ」
「0から1?」
「無から有を生む。何も無い所から命を作る。真っ白な紙に鉛筆で世界を創造する。だから、古来人とか未来人とか関係ないのさ、ワシは。それが、この世界での神様の最初の定義。そのあと色々くっ付いて来たが、本質はそこじゃ」
「ふむ。じゃあ、よくお姉ちゃんが言ってる〈公園〉の定義確認。この世界は現実世界と仮想世界で区分されてるの?」
「答えはノーだ。海賊漫画と似てるが。〈確認した世界と未確認の世界〉に大きく別けられる。宇宙規模で言うと、未開拓区域とか呼ばれている場所じゃ。宇宙は広がり続けている、小さくなることは無い。っと思ってる」
「補足しておくと。未知の国は知恵の国に比例して大きくなる。とかは無い、それは〈最強無敵のその果てへ〉の世界観であって、その枠からは出ない。そこから更に確認した世界が膨張? 拡張されている」
「ファイル別けされているってわけね」
「ちょっと違うが、まあそういう意味じゃな」
「んじゃ次。夜鈴ちゃんが別の世界? で言ってたけど〈見事の先〉は無いの?」
「それはゲームのゴール地点をゲーム機がそう処理しただけで。ゲームマスター、サブマスターが、ゴール地点を変更すれば。〈見事以外のゴール〉も可能じゃ、今はまだそれ以外に良さそうなのが無いから設定してないが……」
「じゃあ、今はそこが全部の終点だけど。今後それ以外も選択できる、ってことなのね。無いだけで……」
「そういうこと、自分の手から離れなければ問題無い」
「じゃあ次、この世界の〈過去〉と〈未来〉についての定義付け! なんかメッチャややこしくなってないない?」
「……、うん。なってる……」
姉は歯切れが悪かった……。
「ちょっと思ったんだけど。……過去はこうで未来はこうで、って広がりすぎたこの世界を1から説明出来る?」
「んや、無理。かと言ってリセットするわけにもいかないしさ。リのセットな。それに0から世界を作り直すなら、それはそれでちゃんとした理由がいる」
「それ、人間が多すぎるから兵器を使って真っさらにしよう。と言ってるのと同じだよ?」
「それは生きてる人間の話だろ~……。マジで色んな所で映画化やらドラマ化やらしてるなんて知らなかったんだから……」
「まぁ、今までの事は〈子供の1人遊びだったと思ってたんだ〉。で多めにみましょう。……でも、こっから先はそうはいかない」
「そう、だから……法律が居るんだろうな。この世界にもゲームのルールとは別の」
「まあアレは勝った負けたをウンヌンカンヌンするルールだもんね」
「かと言って、神様の決めたルールを絶対厳守じゃ面白く無いし。それに、わしの肉体が死んでまた霊体だけになったら人々はどうする? この先100年後もずっとルール変えられないのか?」
「……それは現実世界? 仮想世界?」
「どっちもじゃ!」
「ん~……じゃあフェーズで区切ったら良いんじゃ無いかな? ここで一区切りって、どうせ2次元と3次元の壁なんて作らないでしょ?」
「まあ自由が良いからな!」
「じゃあ。西暦2036年5月2日、何とか・サーガって名前付けたら? それくらいの権限、神様にはあるでしょ。姫姉ちゃんがつけるべきだし」
「マルチバース・サーガ?」
「あれって2025年まで続くんでしょ? ならコッチでの名称はコウ。って決めて、区切るだけ。〈神様が法律を作らなかった局面〉それが今まで。てことルールって書くと神のゲームのルールとごっちゃになるから言わないけど。〈道徳の法律が無かったフェーズ〉。時代だと過去系になるし……まあ局面よね」
「過去行ったり未来行ったりするからな」
「で、何だっけ? フェーズ名?」
「サーガ名、前の吸血鬼大戦は、ある意味〈ジャパニーズ・サーガ〉だけどさ。デート戦争は、始まってんのか終わってんのかよく解んないし……」
「〈鈴の音ダンスホール〉から〈少女は異世界ゲームで名を上げる。〉までのサーガか~……」
「なんが! イヤ長んが!?」
「神様が法律を作らなかった局面……、〈ノー・ロウズ・サーガ〉かな~。英文だと〈No Laws Saga〉とか」
「意味は。人々が多すぎるけど、消す事が出来なくなった。だから〈神のゲーム〉じゃなくて、〈神の法律〉を作り、この世界を真の意味で統治しなくちゃならない局面に入った。だね」
「皆好き勝手にやってるからな。まぁわしも好き勝手にやってるが……」
「……んじゃ、名前も決まった事だし。今日はこの辺にしときますか」
「……、そうじゃな」
そうして、放課後は暮れていった――。




