第406話「掲げる誇り」★
現実世界、 西暦2036年4月18日。
真城和季は、学校の図書館で宿題を一通り終えてから帰宅の途についていた。
疲れたのでウトウトと、まどろみの深い眠りの中に落ちて。うっかり転生でもしようとしていたところに……。
ピピピ、っと。自宅に居てくつろいでいた真城和季に対して、普通のスマートホンがけたたましく鳴った。
「もしもし?」
『どうも、天上院咲です』
和季は若干驚愕する。咲に対してプライベート用の電話番号を教えた覚えは無いからだ。
「? 何でお前が電話番号知ってるんだよ!?」
『私はお姉ちゃんから聞いて、お姉ちゃんはキャビネットから聞いたって言ってたよ?』
なんというタライ回しでしょう。立派にキャビネットが影ながら・裏側からイタズラをしているではありませんか。
「あのヤロー!? またか!! また勝手にィー!?」
自分の知らないところで変な騒ぎが広がっていないか? と心配しつつ、想定される範囲で最悪のシナリオを思い浮かべた後に。
それでも咲は、気にも止めずに和季に用件を聞く。
『それで、何? 私に用事なんて……』
確かに咲に対して言いたいことはあったが、言いたい何て一言も発していないのに。妄想の中だけで事が転ぶ世界1位の和季。
物事が気持ちいいくらい良く転ぶので、和季は自分の持ってるジョブ欄を観ながら、仕方なく話す体でこう切り返す。
「あ~……お前、メインジョブを〈海賊〉にする気は無いか?」
『――いらない――ッ』
――即答。
「速ぇよ! てかまだ理由も何も言ってねーだろ!? 何で海賊ってー話になるかってーと……」
『――それだったら、お姉ちゃんの方が〈忍者〉より〈海賊〉の方が向いてるよ』
未来視したのか、感情予測したのかは別として。咲はあるがままに視た結論として、思考を回転させて、歯車が噛み合うように話を切り出す。
『え、わし……?』
それは、咲自分自身では無く。咲の隣にいた姫お姉ちゃんにこそ合っているという提案だった。
が、主語や本題が抜け落ちている会話が続く。
『その論法で行くと私は〈海軍〉がいい、でも私はメインジョブを〈魔法剣士〉以外にする気は無い(〈世界観学者〉はサブジョブだけど』
「……」
それは、明確に真城和季の提案を蹴って。むしろその性質の逆を突くジョブの方がマシだという言葉だった。
更に咲は、彼女の意見として、もう一つの案件に切り出す。
『それより真城くんは、〈信ルート教〉だっけ? そのシンボルマーク、速く作りなよ』
「え? 何でだ……?」
今までほぼ独り? で生きてきた真城にとって。虚を突くような返答が帰ってきたからだ。
『これから戦う相手のマークも解んないようじゃ〈つまんないから〉です!』
それは、明確な敵視。友達と書いてライバルと読むかもしれないが。世界1位と戦わない未来をあまり予測できない咲からの発言。
「え……?」
『それに、私達。ギルド『放課後クラブ』と話をつけたきゃ……さ』
何故か一拍の間を置いてから、咲は和季に言い放った。
『〈掲げる誇り〉ぐらい決めてからかかってきなさい!!』
「……」
『以上! んじゃ!』
『なのじゃー!』
咲と姫の通話が木魂する。
まるで世界1位の〈信ルート教〉よりも、〈放課後クラブ〉の方が格上に視られているような言い放ち方。よっぽど自分に自信が付いたのだろう。最長文学少女の称号はダテじゃないと言いたげだった。
――プツ
そう言って、咲は電話を切った。
真城和季は、含み笑いをしてから。猫背になり、お腹の底からこみ上げてくる笑いを堪えきれなかった。
「……ははは、ったく。調子に乗って笑ってるな、あいつらw」
そう言って、見えない相手の声のトーンから。ニヤリと笑う咲と姫の顔を思い浮かべる。
そう言って一呼吸置いてから……。
「……、誇りか……。――んじゃ。作るか、ギルド『信ルート教』のシンボルマーク」
決意を新たに、男は思考を歩かせて進む……。
「掲げるモノは何かな? とりあえずバツ印は確定で~~……」
◆
真城の電話の向こう側、天上院姉妹は私室で勿論起きている。勉強机と椅子に腰掛け、隣横にはVR機『テンジョウ』がスリープ状態で休眠していた。
それから咲が姫に対して……。
「……、今回の事件ってお姉ちゃん的にはどう言う名称にする?」
「〈続・鈴の音ダンスホール〉で良いんじゃないかな? 〈吸血鬼大戦〉〈デート戦争〉〈続・鈴の音ダンスホール〉って感じで」
「まあ、〈天の姉妹喧嘩〉はどう言われるかは解んないけど……これから先変わるかもしれないけど。そんな感じだろうね……」
姉妹は姉妹で、他の人に解るような解らないような微妙なニュアンスで。鑑賞戦を始めていた……。
「で、ここまで聞いてて湘南桃花先生はどう思います?」
と咲が、話を横で聞いていた桃花先生が「う~ん……」という面持ちで一言言った。
「ふ く ざ つ … …。かな~~~~って!!!!」
何とも歯切れが悪い桃花の感想だった。
――後に、歴史に語られる事となる物語と。
――決して語られる事の無い物語が、――終幕した。




