第405話「ダークインワンダーランド」
西暦2036年4月15日。
春風と太陽が心地良い昼下がり。盤上の戦い終わって小休憩出来たので、姫は咲に今後の予定を話す。
「うん、世界1位にも咲は勝てたし。世界制覇って事でめでたしめでたし~!」
「うん? なんでそうなった? というか「また遊ぼうね」ってことで3年3組から出ただけのはずだけど……和季くんだって前座だって言って終わったよ?」
何とも歯切れの悪い、消化不足な返答が帰ってきたこの姉妹。
「いや、その。私にやるべきこと。……というかやっておかなきゃならないこと。というかやんなきゃいけないことが見つかったというか……(汗」
姫は額に冷や汗と共に、どう説明するべきかと困惑の顔を滲ませている。
「?」
「えっとね、ズバリ! 悪役が書けない問題ですよ! かたき役が! ずっと! これが本気で深刻! 何をやっても警察が悪の芽を1日で摘み取っちゃうの! 全然育たないの! 悪の芽が育たないの!」
何を言ってるんだこの愛すべき姉は? とかは思うが口にはしない妹の咲。
「イヤそりゃ摘むでしょ……害悪な芽とか……普通は。治安維持とかゴミ掃除とか毎日やるのが基本だし……」
「それじゃ! エンターテイメントとしてダメなんだよ! お前もここまでついてきて解っただろ! すっげー消化不良なんだよ! 盛り上がりに欠けるんだよ! 総理大臣系のお人様が銃でやられたら私の精神がショックで寝込むし! オ○ム真理教だか旧統○教会だか、なんとか組合とか旧ソ○エト連邦だか何だか知らないが! 全ての闇をちゃんとこの手で! 手中でコントロール出来なきゃいけないんじゃよ! 私はラスボスが夢なの! こんなのじゃタダの中ボスなの! だから鍛え直す!」
時間軸の流れ的にはマルチバースの回想で時間関係のコントロールは数字で出来た。ポ○モンのゲームで悪役プレイをして鍛えるのもまた良い。しかし、それはあくまで練習台だ。本番でしか得られない経験値というのもある。……、というかそもそも〈悪の花園〉を無視して自然放置してきた。というのもあるかもしれない……。
悪にもカリスマ的な統率者が必要と言うことなのか……?
「あー……なるほど。今回は、姫お姉ちゃんが自分の実力不足を嘆いて。改めて鍛え直すって話ね。じゃあ今度はお姉ちゃんが主人公かな? ……で、どうやって?」
「エレメンタルワールドのゲーム区域に、無法地帯区域を設置する! 名前は〈ダークインワンダーランド〉じゃ!」
「直訳すると、不思議の国の闇……? なんともメルヘンチックで刺激的な名前ね。つまり新しいエリアか……」
と言うわけで、エレメンタルワールド・オンライン3 バージョン3.1のお時間だ。
今回のバージョンで実装されるのは主に3つ。
1つ、新・技術職に〈羅針盤コード〉が実装される。これは魔法も科学も必要とされない、技術職業の魔法みたいな位置付けだ。
2つ、D4エリアに新エリア〈ダークインワンダーランド〉という、害悪歓迎! 無法地帯歓迎! の実装である。こちらは簡単に言うと〈悪いことが出来るエリア〉みたいな感じだ。
3つ、その他色々とこのタイミングでバージョンアップ可能。
〈ダークインワンダーランド〉……場所はD4エリアの山岳地帯、斜め左下のエリアに氷山が隣にあるから。気候は割かし寒いかもしれない。おとぎの国の闇の姿。ピ○キオが、子供達と一緒にタダで酒飲んだりタバコ吸ったり豪邸を破壊して遊んでたら、ロバに姿を変えられてしまって、大人達に子供ロバは出荷されてしまうと言う、ダークでアレな世界だ。
「ということで、次からは。ワシが悪役令嬢プレイするね。たぶん咲にやれって言っても無理だから最初に言っておく」
「まあ私じゃ無理でしょうねえ~……せいぜい正義のツッコミ役に徹することにして、見守ってますわ……!」
そんなこんなで、明日はEWO3のバージョンアップをする運びとなって夜が更けて……。
翌日の放課後、いつも通りまた家族ゲンカにならないようにしっかりと勉強も済ませてから。VRMMOゲームにフルダイブすることとなった。
《ログインしました! エレメンタルワールド・オンライン3へようこそ! めんどくさいのでチュートリアルスキップ! 新エリア〈ダークインワンダーランド〉へダイレクトジャンプでございますよー!》
というわけで、天上院姉妹はいきなり最低最悪な場所からのスタートとなる。
――ズドドドドド!
拳銃の銃声とタバコの硝煙とアルコール刺すような匂いの、常夏で昼で陽気な西部劇みたいな場所に降り立った。あっちこっちでプレイヤー同士で喧嘩してる……いや、NPC両者喧嘩してる。ここでは喧嘩が酒の肴のようだ。あと祭り? のついでに、野次馬がお金をスられたり。銀行強盗したり。獣人奴隷女なんかが売られている。現実世界じゃドン引きだが、ゲームの世界じゃ奴隷女なんてハーレム要員の1個人に過ぎず。そこまで驚かなくなった咲は、やっぱりゲームに大分毒された・慣れたのかもしれない。
「うむ! 活気のあって良い事じゃ!」
「ふむ、経済が上手く廻ってるかは花々疑問だけどね」
とりあえずこの街、〈ダークインワンダーランド〉を練り歩き、散策する所から始めた……。




