第404話「羅針盤コード」
ゲーム名は『羅針盤コード』
盤上のゲームのルールを作りながらゲームは進行する。お互い初めてなので、攻め手と受け手はなるべく短いターン制が望ましい。
・一応ルールはターン制の雰囲気ゲームである。
・神のゲーム、盤上の駒進行は。「羅針盤コード」を発動キーとして、その後は自国語数字で発音すれば良い。
・将棋の盤上に0や零は無いのと、ローマ数字にゼロ番は無いから。0が無い。なので、そこには明確な理由がある。
・羅針盤コードは魔術や科学では無い、人が努力で編み出した〈技術〉だ。
・数回実戦形式で試してみたが、駒の〈規模感〉が解らなかったので。大±、中±、小±、と。規模感を明記する必要性に迫られた。それぞれ大が国レベル、中が街レベル、小が家レベルだ。
「始まりの刻よ今ここに、夏は自然の恵みを豊かにする。羅針盤コード咲『無垢なる風。中+5Ⅰ三Α』」
ルールがある程度固まってから。天上院咲は何かの呪文を唱えた、それは単なるゲームスタートの合図。始まりの黎明を告げる発声と共に。しかし実体は飾りだけで、その場で何かが起こるわけでも無かった。
そしてゲームは独りでは遊べない、咲の反対側の対戦相手。真城和季はそれに呼応するかのように受け手を選択する。
「天候を満つる所に我はあり、黄泉の彼岸花開くところに汝あり。羅針盤コード和季『揺らがぬ者達。中+5Ⅷ三Δ』」
今回発動している呪文は、独自色の強い技術であることは確かなので。EWO3のゲームの中では使う可能性はあるかもしれない。
「てかさ、盤上の駒を進めるのに。いちいち演唱呪文を言うのめんどくない? 羅針盤コードから先まではわかるけど……」
あるいは現実世界でも使える技術とする。その理由が、123などの番号だけだと現実社会で多数の誤爆は散見されたからだ。おもに世の中はアラビア文字溢れていてとても正確に現状把握が難しい観点もあった。
まず演唱呪文を言う。演唱呪文なので長いと威力は増し、短いと威力は低い。呪文の長さである程度の威力は測れる。キーワードと羅針盤コードがセットでないと発動しない。そのあと念じた字面を数字で言う。……とか言っていたら。
「演唱呪文じゃ無い、演唱技術だ。もしくは魔法」
「どっちも同じ意味でしょ!」
「じゃあ。羅針盤コード、名前、テーマ。規模感、数字。でいいよ。先手後手って言うのも変だし、仮想空間の異世界バトルの時に現実的じゃない……」
「もう、ほんとテキトウ……」
「ものを創作するってのは、いつだって初めは何も無い。独りで作るんだよ、そうじゃなきゃいけない」
なので、この技術は。改めて。
羅針盤コード、名前、テーマ、規模感、数字。
の、4区分で構成されている。これは、羅針盤コードにアラビア数字、ローマ数字、漢数字、ギリシア数字の4つの数字を組み合わせて使える。そんな軽い交互のやりとりを始めてから、本格的に盤上のゲームが始まった。
「ま、攻略組上級者は。ローマ数字か漢数字しか使わなさそうだな。何せ今まで不動だ……変化しないってのは数字としてそれだけ価値ある羅針盤だし」
姫は至極当たり前な事を言う。ルールが変わらない、不変的なゲームというのはそれだけで価値がある。
「なら、南を使わせてもらうね。羅針盤コード咲『南を意味する者。大-2Ⅸ六Η』」
咲が盤上を制する方位陣を示す。
「ふむ、ここで使うか……」
「いや、雰囲気だけだし……」
和季も咲も雰囲気だけは一人前だ。
「じゃあ、ちょっと取って置きを出してみようか。羅針盤コード和季『Xメン。中-14ⅧΓ』」
「受けられたからには攻めなきゃね……。羅針盤コード咲『Yヴィラン。中+Δ三四Θ』」
2人とも大きく出た、盤面上だと駒を少しズラしただけだからその大きさは3年3組の中ではいまいちピンと来ない……。
「なあ、これちゃんとゲーム出来てんのか?」
「できれるよ、うん。きっとできてるくぎゅう!」
姫もキャビネットも、新しい、面白そうな見せ物に興味津々である。
が、3年3組のクラスメイトにとっては何をやってるのかさっぱり解らない。
〈将棋のようなもの〉を指してる、程度の認識しか湧かない……。
人類の歴史がある以上、盤面にも適当に力めば必ず。反対・反転側に弱点がある。今回は〈ゴーレム〉という単語を悪魔的に制した方が一歩有利なのかもしれない……。そんな読みをした咲は……。
「じゃあ、羅針盤コード咲『スズゴーレム静止。小+ΓΙ2Η』」
どうやら咲は盤上の駒ゴーレムが危険と判断し、一時静止の指示を出す。
「う~む、この駒は取れないな……」
攻撃も防御も出来ない、歴史を知ってる以上、絶妙な采配を迫られた和季だった。
「大事な想い出だもんね」
「だな、だから壊せない」
何故か阿吽の呼吸で解る2人、何故か感傷に浸っている2人……とりあえず、ゴーレムは咲が主導権を先に握ったようだ。
「じゃあココは。玉座を動かして陣形固めますかね……。羅針盤コード和季『玉座を固める王族。中+一Ⅴ8Α』」
ゴーレムの射程範囲に居る駒を捨て駒にして、陣形を固めるように駒を動かした。
「じゃあXメンの駒、持ち駒に取っちゃうけど良い?」
「お好きに」
「ラッキー! 羅針盤コード咲『Xを捕縛するゴーレム。小+Ι二9七』」
そうして、1つの駒を盤上から退場させて。次なる予備弾頭とする咲は準備に勤しむことにした……。
「むむむ、羅針盤コード和季『デルタストリーム。大+4Ⅳ四Δ』……かな」
和季はフィールドを謎の乱気流にして防御陣形を更に固めた……。
姫は感心しながら頷く。キャビネットは解説に勤しむ。
「ふーん、なるほど。こういうゲームねえ~……」
「麻雀の牌1つじゃ何も解らないけど。テーマと役に意味を持たせるとゲームっぽく進行できるね!」
「問題は役も自分で探さないといけないし。36の羅針盤の一覧表が無いと何も解らない所かな……」
「やっぱり雰囲気しかわからないね!」
「じゃあ、折角の持ち駒っていう。弾だから着弾させてみますか。羅針盤コード咲『突撃! 隣の晩ご飯!。大+5Ⅷ九Β』でどうだ!」
パチン! と玉座へ向けて駒を飛ばした咲。
数秒の間を持って、時間稼ぎをした和季は。息を吸って、深呼吸の往復を繰り返した。
「……ん~。ま、今回はこの辺でいいだろ。〈参りました〉」
「おろ? いいの? この駒で玉座倒しちゃって? 勝っちゃうよ?」
「何も全てに全勝してるから世界一位じゃない。今回は前座、次に会う日を楽しみにしてるよ」
「お、……ありがとうございました!」
そう言って、今回の戦は閉幕となった。
和季の玉将は咲に取られた。
……、咲は最後に和季に向かって観賞戦に入った。
「ちょっと待って、いちいち羅針盤って言うのめんどくさい。コード、名前、テーマ。規模感、数字2文字が良い。数字4つだと複雑すぎる……今回は良いけどさ」
「そっか……。じゃあ最後に、まとめて閉めにしよう」
言って、世界一位真城和季は最後の言葉で締めくくる。
「盤外コード和季『この盤面を終局とさせる。大-、9五』。何なら国連が出てきて制しても可能・許可とする。ここで競り合ってもまた俺がストレスでバタピー食べまくるぞ?」
「太る宣言されても……」
と、咲は呆れて小さく呟いた。
あとついでに、羅針盤コードの亜種。場外乱闘用の『盤外コード』なるものも作ってしまった……。
「んじゃ、お疲れ様でした」
「おお、お疲れ様でした」
咲と姫は和季とキャビネットと別れを告げて、3年3組の教室から出た。
今回廃止されたルール。
・演唱呪文の破棄。駒が動かしずらくて邪魔。
・羅針盤コードの羅針盤は言わなくて良い、コードだけ。盤外コードという亜種もある。
・コードの数字は4つでは無く、2つで十分。複雑すぎた。
・規模感という名の空間範囲は明記しとかないと、理想と現実のギャップが凄いので明記。




