第402話「アース018.211」
フルダイブ中……、EWO3内。
ギルド中央広場の喫茶店。ゲーム内でご飯を食べながら、咲と姫の雑談が始まった。
「しまった、黒山羊さんのボスを倒すことに夢中で何も話せなかった……」
「あ~何だっけ? 信ルート教? ソレって何? 何かのクエスト?」
「……ん~。どうしよっかなあ~~~~咲としてはさ。現実世界の悪い宗教団体が絡んでるって言ったら、いい顔しないよね?」
パスタを頬張りながら話す咲。
「ほむほむ、ごっくん。ゲームの世界観ならわかるけど、現実世界にソレ持ち込むのはよした方が良いと思うなあ~。それにそっちのルート行くとお姉ちゃん病院送りにするよ?」
恥も恥じらいもなく普通に要約すると「そのルートやってみ? お姉ちゃん殴り飛ばすから」と言われる、脅される姫。さすがに「ハハハ」と乾いた笑顔で誤魔化すしかない姫。
「……あ~。おk、じゃあ現実改変しよう」
「パクパク。……そんなこともできるの?」
「まあ、仮にも全ての神様を名乗ってたくらいだし……。自覚が無かっただけでできるんじゃねーの?」
何とも曖昧である姫姉様。でも咲と色々冒険してある程度の自信はあるらしい。
「ふーん。で、具体的には何を変えるの? またマルチバース017に飛ばすの? ここマルチバース018のはずなのに……」
「まーだから。今回はマルチバース018の細部を変える。簡単に言うと小数点単位だな」
「……また複雑になるの?」
カチャカチャとステータス画面をいじり始める天上院姫。
「なるべく複雑にしないつもりで進行するから、誤字誤爆しにように数字を使うぞ。えっとね、〈アース018.1〉が、信ルート教が現実世界で悪さしている世界線。んで、〈アース018.2〉が信ルート教がVRMMOで悪さをしている世界線な。つまり、信ルート教の信者が〈0.1だと人間〉、〈0.2だとAI〉って改変されてる世界線だ」
〈アース018.1〉では、信ルート教の信者は現実世界の人間。
〈アース018.2〉では、信ルート教の信者は仮想世界の人口AI。
「んで、わしらは〈アース018.2〉のルートへ行く。これから時間の流れが行く。これでいいか?」
それを聞いて咲は疑問に思う。
「聞くけど、その〈アース018.1〉のルートはどうなるの? 自然放置?」
「まあ本来ならチョン切りたいし、目にも視たくない気持ちもあるが……。生憎世界はそういう風にできてはいない。【咲が観測した事件は戻れないし変えられない】。で、あるならば自然放置の様子見が妥当だろう。最果ての軍勢が記録しちゃってるんだ、今後も残ると思った方が良い」
(警察さんって大変だなあ~)
「ま、起こってしまった事件はどうしようもない、私達は〈アース018.2〉を選択したとして。じゃあ未来の話をしよう」
「うん」
「ずばり、〈アース017〉で亡くなった人物の国葬を〈やる〉か〈やらない〉かのルート選択だ。これは選択できる」
「……、ふむ……」
「もうちょっと細かく言うぞ」
〈アース018.21〉は、信ルート教の信者は仮想世界の人口AI。咲が〈アース017〉の事件を観測して。総理大臣級の人物の国葬が【行われる】ルート。
〈アース018.22〉は、信ルート教の信者は仮想世界の人口AI。咲が〈アース017〉の事件を観測して。総理大臣級の人物の国葬が【行わない】ルート。
姫と咲は交互に話す。
「まあ、普通に自然の流れだったら国葬はするだろうな。お仕事した時間最長の総理だし」
「まあ、そうだろうねえ~」
「……、てことで。これから先、現実改変するアースは。 〈アース018.21〉になるが、問題無いかな咲くぅ~ん」
半ば狂気のマッドサイエンティスト風な口調を真似て言う姫。
「うん、問題無いよ。一番頑張った時間が長い人だもん。そうあるべきだし」
「んじゃもう一つ追加するぞ」
「ん?」
「これから先の未来。世界1位、真城和季に会う・会わない。のルートだ。〈会う〉なら1、〈会わない〉なら2。……もちろん会うだろ?」
「そりゃあね。会ってみたいよ。だから〈1〉で」
「つーわけで、今から大きく動く時代の流れの数字は。〈アース018.211〉だ。んじゃ『現実改変』、ポチッとな!」
《ゲームマスター姫様から現実改変の要請が、世界樹クロニクルに打ち込まれました。内容の場所は、〈アース018.211〉。信ルート教の信者は仮想世界の人口AI。咲が〈アース017〉の事件を観測して。総理大臣級の人間の国葬が行われる。この先の未来、世界1位の真城和季に出会うルート。に書き換わりました。》
《変更中……変更中……。》
《世界が書き換わりました!》
咲は阿呆鳥のように呆ける。
「え、これで現実世界も変わっちゃったの?」
「知るか。ログアウトして現実世界でも観てみるがいいさ」
「……まあ、じゃあうん。そうする」
そう言って、ひとまず姉妹共々ログアウトすることに決めた……が!
その時、緊急地震速報バリに〈何か〉が来た。
《号外号外! 速報速報!!》
「なんじゃ今からログアウトしようと思ってた時にィ!? しかもコレ正規ルートの情報新聞じゃないだろ!? 違法だろ!?」
「自由の悪神が何を言ってらっしゃる……。ま、また騒がしい日々の始まりか……」
姫と咲が交互に、そのデジタル新聞の情報を交換する……。
「!……。お姉ちゃんの目から見て、どう思う?」
「……、【なるほど解った】……。つまり、いつも通り、テキトウに動いても大丈夫ってことじゃよ」
デジタル新聞の方を視てみると、そりゃあもう色々な情報に目が行った。刮目されたとはこういうことなのだろう。
「で、色々と目移りしそうな情報から。まず、どこから行く?」
と言ったのはゲームマスター姫。彼女には、遅れも乱れもない。
新聞の内容は世界1位、真城和季がまた何か良くわからない部門で1位になった情報だった。
「真城和季と、どっちで会う? どっちを選ぶ? 現実世界のアウェー、仮想世界のホーム」
「ん~。とりあえず、隣のクラスに居るんでしょ? だったら……アウェーで〈おご挨拶〉しにいくわ! 3年3組だったわね!」
「そうこなくちゃ!」
冒険の匂いのする方へ、咲は翅を拡げた。




