第392話「セミファイナル 戦空VSレジェンドマン」
【10分間立っていたらレジェンドマンは負けて良いよ】
それがレジェンドマンとミュウとの約束だった。
◆
警備員達が観客席に居た、野次馬共をどける……。
この神聖な決闘に、邪魔者も。姑息な策略も許されない。
ただ、彼ら同士の真の実力をぶつけ合うのみ……。
故に、2人は試合開始前から〈ゾーン〉に入っていた。
雑念というノイズは彼らには一切入らないように、自分で環境をシャットアウトする……。
純粋なる力と力の勝負。
だらこそ、鏡の向こうで悪さをしている者も。影や鏡で反射させようとする不埒ものも。ハッキリ言って邪魔だ。
男と男の真剣勝負に水を差すなど、言語道断。
故に、〈その時〉を。ただひたすらに〈待つ〉、純粋な100%の力を発揮出来るコンディションまで、待つ……。
2人が、瞑想し。精神を研ぎ澄まし、何の音も自身の耳に入らなくなったところで……。
2人は試合会場に入場した。
実況と解説は、場外乱闘の一部始終を見ていたが。それに気を取られ過ぎたらこの試合を汚してしまう。
第3回エレメンタルマスター公式トーナメント大会、セミファイナル。大切な、大切な試合。
場外乱闘の政治的キャスティング臭など無粋の極み。
別に無視したいワケではない。ただただ邪魔。
場外で誰かが死のうが、ハッキリ言って邪魔。
この試合を正しく実況・解説をするために。全神経を研ぎ澄ませる……。
余計な不純物は一切入れない。入念にフィルターをかけ、ホコリを取る作業に専念する。
それが決闘だ。
観客はアクシデントを観に来たわけでは無い。
ただただこの決闘を純粋に楽しみに見に来たのだ。
そして、心が瞑想を終えたあとに。……ようやく、来る。
その時まで、待つ。待って待って待って。自分の実力を100%発揮出来る時まで、待つ。
だから、邪魔者は引っ込んでろ。
2人は、両目を閉じて。ずっと瞑想している。
津波が、波に変わるまで待つ。波が波紋になるまで待つ。波紋が全く揺れず。揺らがぬ意思になるまで待つ。
レジェンドマンから先に口を開く。
「では、始めようか」
信条戦空はただ短く、一言。
「おう!」
ゲームマスター舞姫から忠告が響く。
『ただいま、場外乱闘がありましたが。このセミファイナルとファイナルバトルに限っては。試合中に何かあったら場合、試合時間は無制限に止まります。試合会場全てが静寂に満ちたとき、再開し。時間が動きます。以上、何人たりとも両界を犯させない、不可侵領域で、2人の崇高で誇り高く。純然たる実力勝負を。ここに開催いたします! 以上、小物は引っ込んでろ!』
ゲームマスターも流石に激おこぷんぷん丸のようである。
『では、初めて下さい!』
「「オス!!!!」」
2人だけの純然たる真剣勝負が、ここに幕を開けた。
――カァン!!!!
信条戦空 国力 5兆4000億円
レジェンドマン 国力 8兆円
戦空は、その魔法という名の初手を、ハナッから捨てる!
「全身強化! 5兆円!」
『え!?』
「なるほど、ではこちらも。全身強化! 5兆円!」
ざわざわざわ!
《試合開始から4分が経過しました》
元から時間が無いのに〈余計なことに時間を食ったので〉更に時間が減る。だがコレばっかりはしょうがないことだった。
――シュ!!!!
2つの力と力が弾けて消えた……!
『消えた?』
『いえ、超高速で戦っているだけです』
『完全にドラゴンボ○ルの世界ですね……』
その迫力は鬼気迫るものが有った。大花火を大音量で打ち上げられ、爆発したような空気の振動。地響きが鳴る。
『さあ! 初手で有るだけ出し惜しみせず国力を使う戦空選手! これが切れたら完全にガス欠! 残り4000億円で戦わねばなりません!』
『対するレジェンドマンは国力という魔法を残り3兆円残す形となります。4000億円で3兆円を削り取るのは至難の業でしょう!』
ドン!
そうして2人は、刹那の空間の中から再び姿を現し。〈戻ってきた〉そこには驚くべき数字が表示されていた。
『何とレジェンドマン選手の残り国力1兆円になってます! あの刹那の攻防の間に、魔法を追加で使用しなければならない〈何か〉があったのかあああああああ!?!?』
『尋常ならざる攻撃を受けて、レジェンドマン選手。足に来てるみたいですね、体全体にも疲労感が漂っています』
『それでも、戦空選手は全く気を緩めず! この闘争を楽しんでるような笑みです!』
あんまり喋らない戦空は、ここで口を開く。
「追加の魔法で凍らせようとしたみたいだけど……、生憎ウチはそんなのに縛られる気はさらさら無い!」
「く……! 何て運の良い奴だ!」
幸運だけでここまで出来るものなのか? いや違う、この幸運は戦空が日頃から鍛えていたからこその……。
――必然。
《試合開始から6分が経過しました》
『さーて追い込まれたぞーレジェンドマン選手ー!』
『残り4分、……いや。あと2手でケリつけるつもりの空気ですね』
信条戦空 国力 4000億円
レジェンドマン 国力 1兆円
『再確認ですが、国力はマジックポイントですので体力ではありません!』
『見た感じ、体力はレジェンドマン劣勢! このまま終わってしまうのかあー!?』
「いくぞ! こっからがケンカだ!」
「あァ! そのケンカを、私も待ち望んでいた――!」
《試合開始から7分が経過しました》
あと3分……恐らく次の1手でセミファイナルのケリがつく……、決着がつく……ッ!




