第388話「第3試合 武VS咲」
第3試合 武VS咲
戦闘を開始して1分が経過した。
咲17は息と汗絶え絶えである。
「ダメだ……何の攻撃も通用しない……」
弾かれたり、跳ね返されたり、透き通ったり。
相手の出方に合わせて属性を変える。まさに変幻自在だった。
「最長文学少女、咲。プレイヤーの中で一番芸達者なキミが、まさかこれで終わるはずあるまい? 何か対策はあるんだろ?」
「……? 対策? いや無いけど……」
「……」
「?」
「では聞くが。世界最強の僕を相手に、何の〈研究〉も〈対策〉もせずに乗り込んできたと?」
「……、あ~はいそうですけど」
「は~、呆れた。ならキミの実力はそれまでだ!」
「あー! 待って! まだ思いつかないけど今から思いつくから!」
「――知は未知に!」
ギュン! と〈何か〉に、地面磁石が咲の服をくっ付かせる。
「あー! 待って何やってるの!?」
「――神は信者が居なければ消える存在!」
ギュイン! と、家族の善神という権能も霧散してしまった。
「わ! 神力が風船みたいに空気が抜けてく……!」
「今のキミは、全能神じゃない。ただの、非力な少女だ」
「あんただって! ただの人間でしょ! でやああああ!」
「――位置入れ替え」
トリック、咲の位置と武の位置をスリ替えた。
「わ!」
そして、後ろの背中からズドン!
〈何かの〉衝撃に耐えられず、咲17は吹き飛び倒れた。
「安心しろ。空気ピストルだ。あいにくキミと違って国力が少なくてな。攻撃100。1兆円」
「わわわわ! 全身防御100! 10兆円!」
ドキュン!
空気ピストルは防げた。
「た、助かっ!?」
咲のシックスセンスが反応した。幻影に隠れていた手を掴んだ。
「捕まえた」
「無駄だ」
ボフン! と忍者特有の煙幕が場を包む。
その勢いで手を離してしまった。
「ケホ! ケホ!」
煙の向こうから何か声がする。
そして何か飛んできた。
「キミにはこれがお似合いだ」
ボフン! 何かが咲の体を覆う。
「!? これは……!」
「モルボルの毒袋。そのまま毒に溺れてゲームオーバーさ」
〈石化・混乱・バーサク・睡眠・毒・暗闇・沈黙・麻痺・ヘヴィ・バインド・スロウ・ストップ。にかかりました!〉
(ダメだ、何もかんがえふいsぅでぃうあぃうえbふ!?)
「頼みの綱の経験も。神力も。万物の流転の運命の前には無力だ。キミは言葉の揚げ足取りが上手いようだが」
「ういおうぇrh;ふぉういw」
空気ピストルを構え直す、武。
「攻撃100。国力1兆円」
「;おりhf;おいうぇrh;rをいh!?!?」
「――大自然の摂理には、無力だ!――」
ドキュン!
「――ピ――! 勝者! 武選手!」
ゲームマスターがホイッスルを鳴らす。
◆実況解説席
ほうおう座と湘南桃花がマイクを取る。
『あーっとやっぱりダメだった咲選手ー!?』
『いつものその場しのぎで、のらりくらりとやってきたけど。……今回は長年から伝わる熟練の論理。叡智に絡め取られましたね……』
『てか無策で挑んだんかい! 咲選手ゥー!?』
『まあ、無敵理論と本人の情報量の少なさから探し当てろ。は難しいですけど……。それにしても〈あるもので何とかしよう〉で通じる相手じゃ無かったのは納得ですね……』
『ガチ勢なら、当たり前のように対策を考えるんでしょうが。流石エンジョイ勢、……雰囲気で勝とうとしてましたね』
『雰囲気……てことは……。警戒していた最初の1分で勝機を掴んでたらもしかしたら勝ててた?』
『いやーどうでしょ? 素人が拳銃を一分でテキトウに撃つのと。それを知ってプロがゼロ距離で拳銃を撃つような感じですから……。やっぱ情報不足で無理だったんじゃ無いですかねえ~?』
例えがいまいちだが、言ってることは解らなくも無い。
『というわけで! 皆の予想通り。不動武選手の勝利です!』
『ちょっと流石にエンジョイ勢にはこのトーナメントはキツかったか……』
『まあ、だからこそのエンジョイなんでしょうけど』
◆観客席
「あー私が負けちゃったー!?」
咲18が咲17の負ける所を観てしまった。オーバーリミッツもこれには同情する。
「まあ、無策じゃしょうがないよ……。てゆーか、これだけの舞台でノープランなあんたも凄いよ……」
「あれ? もしかして誉められてる?」
「……、いや、全然褒めてないっす……」




