第386話「見事の先を見たいんだ!」
先に動いたのは夜鈴だった。
そして、勝負は一瞬で終わった。
「私は……! 見事の先を見たいんだ!」
過去にばかり目が行く自分に嫌気が差す。
未来を望んだはずなのに、いつも観るのは後ろばかり。
そんな自分にはもう飽きた。
「国力2兆円消費……パワーストーン!!!!」
もの凄いエネルギーが周囲を埋め尽くす。
「くらえ! この世で最も強い力だ!」
「……、……」
戦空はその風の中に悲しさを読む。
「――〈X キャノン〉――!!!!」
――瞬間怒号――。
が、カン! と鈍い音と共にその〈世界最強の波動砲〉は上空に吹き飛ばされ。そして、弾けた。
「な……」
唖然とする夜鈴、に、今まで黙ってた戦空が言葉を紡ぐ。
「悲劇のヒロインからは卒業したみたいだな。夜鈴」
「……!」
「勝ちに来たのも立派だった」
「……!」
「だけどその力は。お前のじゃ無い。桃花先生のだ」
「……!」
「そんな虫の繭に、守られてるなら……」
(……! 来る!)
――シュ
刹那に来るのは夜鈴に対してのダメだしでは無いし。一方的な拒否でも無い。ただ誇りある者に対しての頂を見せつけるッ!!
――ドゴン!!!! と腹パン。
理屈や理由や意味を度外視して放たれる絶対必勝の一撃。
ワンパンだった。
ワンパンチOKだった。
何処かの次元の咲18もやられたことのある。絶対に負けられない意思しか感じられない一撃で。
「俺はまだ、お前に負けるわけにはいかないッ!」
観客も唖然だった。これからどれほど素晴らしい戦いが観られるのだろうと。試行錯誤したことだろう。
だが、結果は。戦空の1撃必殺KO。
否。
戦空は夜鈴の【見事の壁を討ち砕いた】のだ……、その先へ行くために。過去と決別するための明確な勝利の一撃を……。
「ソレにすがった時点で、お前は強者を捨てたんだよ。夜鈴。目の前の明るく綺麗で目立ったその場しのぎの品に。文字通り目がくらんだ。とか、そんなのだ」
横たわる夜鈴には、何も言い返せず。ただただ「チクショウ……」としか言わなかった。その言葉を、怨念を体内から吸って吐くように。反芻しかしなかった。
「今度は、ちゃんと鍛えてから来いよな。お前が弱いと思って捨てた武器の方で来てたら。まだ解らなかったぜ?」
それは、天羽々斬という名刀のことを差している……。
「……。」
夜鈴は、何も言い返せなかった。
何故か、自分に言われてるような気がしてならない咲18にも。身に染みる。響く言葉だった。
咲18は、戦空に対しての評価はこうだ。
「何だろう。何も見てないのに、ほとんど何もしてないのに。……明らかに前より強くなってる……」
そう感じずにはいられないのは何故だろう。
これが戦空。
これこそが戦空。
とにかく、ここでゲームマスターは第1試合終了のホイッスルを鳴らした。
◆観客席
咲18は想いを巡らせる、自分の中で考えを整理する。
「やっぱり、2人の戦いって。理屈じゃ無いんだな。……心で戦ってるんだな……って思った。戦空くんも強くなってるけど。それ以上に、夜鈴ちゃんが弱くなってた」
誰にも聞こえない言葉でそう空に言う。
そんな描写や仕草はあったっけ? と思うかもしれない。雰囲気の中にあった? でも、全体をフカンして観ると。全体像が見えてくる。その幾千億のルートという線の急所のツボを突いた。
ちょっと突いた。
そんな優しさ溢れる一撃だった。……と咲18は思う……。
桃花さんは何も言わなくなるし、言葉だけ。上っ面な綺麗な言葉だけ。舞台裏で喋るようなトーンで、解説で並べてる。
実況のほうおう座さんは、必死に論理並べて語ってるけど。何も響かない。
一杯数字出して。一杯言葉を並べて。一杯並べた常識を、ことごとく超えてゆく。
「戦空……」
咲18には、不安や恐怖では無く。光、憧れを感じ始めていた。
「中身の無さそうな。空っぽの人なのに、どうしてこう惹かれるんだろう……」
わからない。咲18にはわからない。
「ただ、本物の強者は。そんな強さを持ってるんだなって、解って良かった。来て良かった!」
咲18は学習して成長した。それが戦空に届くかどうかは……まだわからない。
そして、同様に。そんな想いは咲17にも響いた。
◆実況席
ほうおう座は場を切り替える。
『と! とにかく! お後がつかえてます! 順番待ちがあるので! このまま次へ行っちゃいましょう! サクサクッとね! えー続いてー。第2試合! ジャンプ選手VSレジェンドマン選手ー! こっちもワケの解んないカードですよお~!』
湘南桃花も自分の名を呼ばれてキョドッたが、数分後、持ち直す。
『まあワケが解んないという意味では同意ですけどね~』
『ではでは、選手入場です~! どうぞ~!』
そして、ゴツゴツゴツ! ゴツい足音と共に現れたのは。
西コーナーのジャンプと、東コーナのレジェンドマンが入場して来た2人の漢だった。




