第42話「セミプロ」
話は戻って、豪華客船ミルヴォワールにログインする1日前の話。
「セミプロ?」
「そう、セミプロ」
「ミーンミーンて鳴くあのセミ?」
「そうそう夏の森の風物詩~、てちゃうわ! なんでやねん」
姫がノリツッコミを始めてしまった、どうやら本職ではないけれどもその職に準じた待遇を受けられている職業のようである。
「要するに姉である姫の職業を手伝えと」
「手伝えっていうか、咲はもう念波できるじゃん? アレって本来本職のための技だから、それを一般人が使うのはマズイって話なのよ」
「それ、伝授してから言う?」
「他にも理由はある。しまった! これは運営しか知られちゃいけないんだった!? てあるじゃん? あれやるぐらいだったら仲間に引き込んじゃおうという話です」
姫は手によるジェスチャーを交えながら困ったポーズを繰り返す。
「ん~、他には何か得点無いの?」
「えっと~。プレイヤーの個人情報丸わかり、念波によるデータ修正の作業、アイテムガチャ無料、ゴールド無制限」
さらっと凄い事を連発して言われている実感はあまりないが、その内容は1プレイヤーの範囲を超えている事だけは解った。
「あと少額だが給料がでる。お小遣い程度だが」
「あ、それ良いね。遊べる上にお金も出るとは。でも良いの? 何か試験とか無いの?」
「あたしの顔パスでゴリ押す」
「おい」
「元々片足突っ込んでるようなものだから大丈夫大丈夫!」
「ふーん、まあお姉ちゃんが良いならそれで良いけど」
そう言うと、天上院咲は了承した。
◆
というわけで、咲は試しに。自分である天上院咲、姫。エンペラーこと近衛遊歩の名前やプレイ時間、出身地、課金額などを勝手に調べた。
「完璧に他のプレイヤーから観たらチートですね、ありがとうございます」
ゲームにおいて、お金と時間を持て余している主婦が最強。という前提が音を立てて崩れ落ちてゆく瞬間であった。 咲はものは試しとばかりに、エンドコンテンツである最強武器を注文する。
「え~ナビさんナビさん、この世界で一番強い剣をください」
《運営権限でアクセスしますか?》
「はい」
▼咲はアルテマソードを手に入れた!
こんな簡単に、と咲は思った。
「これ売るといくらするんだろう? 裏サイトでの売却値段は~、げ!100万円!? リアルマネーでしょこれー。入手にかかる時間は約2000時間、ん~。やめやめこのアイテム削除、私にはいらない」
そういうと咲は機械的にメニューボタンをポチ、ポチ、ポチ、と押し。伝説の超絶レアな剣、アルテマソードは粉々に砕け散っりポリゴンの欠片となって消えた。
「今のシーン、攻略組ガチ勢が観たら泣くのかな? まぁいいや」
生憎、咲はエンジョイ勢なのでこういうのには無頓着だった。




