第378話「ももかバックボーン」
※湘南桃花視点※
私は普通が好きだ。
私は等身大が好きだ。ハードルを上げすぎず下げすぎず、素のままの自分で世界を冒険をしたい。だから飾らない。無闇やたらにキャラを作り込まない。ネタの風呂敷は思いっきり広げるし、削るべき所は思いっきり削る。創作者? いいや違う、どこまで行っても人間で、どうしようも無く人間で。
……何にでも成れるし、何にも成れない。無色透明、何色にでも成れる。それが今の私だ。
今は、……ね。ただし昔は違う。緑色だって他者が付けた色だし……忘れたけど。桃色、ピンクだって名前の雰囲気からそう呼ばれてるだけだし。忘れたけど。
最初のイメージこそ白色のうさぎさんだったが。最初の種は変なヒゲのうさぎだったが。それは成り行きでしか無い。超自然現象や魔法を使わない、科学や人間にしか出来ない範囲で頑張りたい。超人・超獣だらけのあの世界で。
【あの世界で人間として生き残りたいと思ったのが私だ】
残酷だけれど美しい、神々が恋したあの幻想的な世界で。私は人間として生き残りたい。じゃあ、最初の色は何色かって? ……金色で良いんじゃ無いかな?
人間として事件を解撤したいって言うのもそうだし。受け売りだし、感化されたわけだし。バカで無能で虚勢だけで、それでも夢に向かってひたむきで。
それで死んでも後悔はない。夢のために生きて、夢のために死ぬ。それでいいじゃ無いか、生きた証をこの世に残す。全て出し切って、全力で生きて、後悔も無く、夢に挑戦して死ぬ。……カッコいいじゃないか。……でも、残された人の事やあとに続く人達の事を考えられなかったのは私の後悔かな。
……だから死地へ行けなかったんだと思う。……たぶん。
それが出来ればよかったんだけど、私はそこまで利口じゃ無かった。お利口じゃ無かった。
何も考えないで体を動かした方が強いのは知ってる。反復練習を重ねた上でこそ本番で本能のままに動けるのを知ってる。
例えばピアノ、例えばエレクトーン、例えば大太鼓。
1日休めば、取り戻すのに3日はかかる。だから1日も休んじゃいけない。それが身に染みた原点。
そこから編み出された論文が。絵なら最低1日1本線を引く。だし、小説なら最低1日1文字キーボードを叩く。だと思う……。
現実世界で学年平均点以下の私だからこそ、私は天才じゃ無いって思えた。凡人が凡人のまま必死こいて足掻く、雑草魂こそ憧れた。
だからこその、ゆっくり確実に一歩ずつ……。これは他の全員にも言える事だ。遺伝子レベルでこの世界の全員に染み渡っている。
逆に言えば。他者よりも下がりたくも無いし、上がりたくも無いのかもしれない。たぶん、めんどくさいから。
そういう事だと思う。
今……、なんで私がこんな事に? ……とか何で私が選ばれた? とか、思わないわけでは無い。どうしてこうなった? ってなるのも当然だ。
ただ、全てを観て、全てを知った上で【皆が】私を選んだろう……。たぶん、無知だったけど、共感とか、死に物狂いとか。本物の天才に追いつきたいとか。
月2万5000円くらいのうさぎ小屋のような世界で、必死にもがき苦しんで。最高に読者を楽しませたいとか。自分が面白ければそれでいいんだとか。色々な事を考えて手を動かしたけれど。
何が原因で私が私になったのかなんて。……結局原因が多すぎて【ありすぎてわからん】が本音だと思う……。
あれもそれもこれもどれも、大きな事件では無いけれど。それら一つ一つが繋ぎ合わさって今の私。良い意味でも悪い意味でも。『絶対の信念』の化身になったんだと思う。
信じて、やり切ると念じて。想いの強さが力に変わると信じて。誰も居ない独り部屋で、もがき苦しんで、死に物狂いで頑張って頑張って頑張って、死んだように寝る……。
極限の緊張の中から産まれる集中力とかは、きっとそんな色々なものの副産物なんだと思う。
……よくわからないけど、私が空を拒んだのは。何だったんだろう? わからない。
自分の視点になってわかった、大きな大きなエピソードは私には無いけれど、きっと虚空の彼方へ忘れ去られてしまったけれど。日々の積み重ねこそが私なんだと思う。だから面白く無いし目立たないし、つまらないし、刺激的じゃない。
豪華絢爛なびっくりドッキリエピソードはきっと私を守るきっと殻。甲羅かな……。その硬い箱の中身を開けたって何にも入ってやしない。きっと本質はそこじゃ無い。じゃあどこに自分がある? わからない。
わからない、わからない、わからない。
細かな、か細い積み重ねがありすぎて……。結局それが。
【ありすぎてわからん】
ってことになるんだと思う。
点で観ちゃいけないんだよ、線でもダメ、面で観るんだよ。全体を、その面一つ一つに、私は隠れてる。
……、こんなお話で良いかな?
咲ちゃん、君の冒険が少しでも色鮮やかに成ることを祈ってるよ。




