第41話「ジェットブーツ」
天上院咲はあてもなく、道なき道を歩いていたら浜辺に出ていた。
浜辺には店があり、何やら『ジェットブーツ屋』と書いてあった。不思議に思った咲はその店の中に入る。
「外の看板に書いてあった『ジェットブーツ』て何ですか?」
「へいいらっしゃい! ここには水陸両用に移動できる靴を売ってるんだぜ!」
なるほど、陸もそうだが海も移動時間が短縮できる代物らしい。
「論より証拠、履いてみな」
店員にそう言われ、言われるがままに履いてみた。靴から風が迸り宙に浮く。なるほどホバークラフトみたいだった。
「へーナニコレ楽しい」
気分はスケート、摩擦ゼロで移動できる。何だか冒険中に手に入る自転車というか移動すピートが速くなる代物っぽかった。
「海でも使ってみな、気持ちいいぜ。これがまたか最高なんだ!」
「じゃあお言葉に甘えて」
言うと、咲は海岸の浜辺に来た。ブオーとジェットブーツのエンジンが唸りを上げて、徐々に宙に浮く。バランス感覚を養うのが難しい、何しろ摩擦が減るのだ。
「えっと体の上体を前に傾けて……」
あとはスキーの要領だった。一歩進むとスイーっと進み、二歩進むとスイーっと進み。3歩目には力いっぱい地面・海面を強く蹴るとボゴオ! と海上を爆進した。
「何これ面白い! 思ったより操作簡単だ」
すぐさま咲は海上でバク転、宙返り、ダブルアクセルを決め込んだ。海には足がたまに入ってしまうが力を入れて海面を蹴ればまた起き上がれた。
「はっはっは! 姉ちゃん筋が良いね。初心者は大抵海の中に潜って海中散歩しちまうのに」
「なんていうかノリが念波と似てるからかしらね、念波はポリゴン操作だから陸海空何処だろうとポリゴン蹴れれば乗れるし」
NPC相手に、念波とかいうシステム外スキルの事を言っても解るはずが無かった。
「よ、は、ほ! うん、いい感じだね。おじさんコレちょうだい」
「毎度あり! お代は……」
▼咲は『ジェットブーツ』を手に入れた!
そうコマンドが表示されると、とそこそこの値段でジェットブーツを買うことが出来た。
「これで海のモンスターとでもじゃれ合って。というか戦闘して、経験値稼いでみるか」
というわけで、早速海上でモンスターと遭遇した。
▼フィッシュスライムが現れた!
咲はジェットブーツを使ってクルクルと円を描きながら徐々に距離を詰めてゆき、フェザーソード【改+5】で斬りかかった。
パシュン! ガシュン! ジュバン! と小気味よいダメージ音の後にフィッシュスライムはポリゴン状に爆発四散した。特に違和感もなくジェットブーツを乗りこなせた。通常の2倍の移動速度で水陸両用、咲は良い買い物をしたと思った。
「うん、良い調子! このまま海上を走ろう!」
そう言って夕日をバックに。ホップステップジャンプを決め込みながら、モンスターを倒しつつ目的地を目指すのであった。
「観えた! 豪華客船ミルヴォワール!」
先に観えたのは船というよりそれに浮いてる飛空艇だった。正確には〈飛空艇ノア〉だった。私達が雲の王国ピュリアで手に入れた乗り物、件、拠点という名の家。もはや自分たちギルド『放課後クラブ』の私物だ。豪華客船ミルヴォワールの後ろに、浮遊した状態でロープでくっ付いている。
「妹とエンペラーくんは先についてたって訳か」
そう言うと、とりあえず豪華客船の方ではなくて飛空艇の方へ入ってゆく。家の中へ入ってゆくと「おせーぞ」とか「どこからログインしたんだ」と妹のヒメは語り掛けてきた。
「もうすぐこの船は出発するぞ」
「心残りは無いか? これから船の長旅になるぞ」
「うん、良いよ。大丈夫!」
そう言い終わると、間髪言えれずにブオーっと船の汽笛の音がした。
……いよいよ出発、長く陸を離れることになるかもしれないが。それでも今は船と海で起こる冒険の方が咲の胸を心踊らせる代物だった。