第362話「天上院咲の寝不足」
西暦2035年9月14日、現実世界。夜。
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天上院咲は体の痛みと共に目が覚める。
この痛みを、咲はもう知っている。天災ゴッドジーラに〈成った時〉と同じ痛みだ。
即ち、人間が、自衛隊が、巨大不明生物に攻撃を仕掛けている。操ろうとしている。【という日本の映画の話だ】。
なので、咲は。今、ココで起こった事を。【偽らないことにした】。現実世界で起こったことを偽らないことにした。
四重奏との戦いは、まだ始まっていない。にも関わらず、妄想で【寝たときにシュミレーションしていると言うことは】、仮想世界で【本当に戦っていることを意味する】。
――誰が?
【誰かが。私の代わりをして】
――何故?
【姫に危害が及ぶから】
――どうして?
おそらく【戦争の阻止だろう】そのけん制、警告。【本物の警告だ】遊びじゃない。
――どのように?
ちょうどリスクが居たから【逆撃を使っている】可能性は十分にある。
――違うところは?
【小さな存在に気づくことが出来る】……とかだ。
よって、放課後クラブVS四重奏のバトルを望まない人が居る。あるいは【人じゃない誰かが】望んでいないから攻撃している。
なぜ? それは教えてくれない。おそらく【都合が悪いから】……。
「ん~……」
物語としては駄作になるだろう。つまらなくなるだろう。しかし、それよりも【健康を一番】に考えた場合その限りではない。
「ということは」
天上院咲は更に思考する……。天上院咲は天上院姫に、明確にノーと言う。
「お姉ちゃん。放課後クラブVS四重奏はやっぱやらない」
「ふむ……そうか。一応理由を聞いて良いか?」
ここでもやはり、偽らないことにした。
「2001年9月のアメリカ同時多発テロ事件と同じ事はしない。全ての空が繋がってるなら、同じ失敗はしない」
明確な理由と動機はそこにあった。たまたま咲の時に当たった必然かもしれない。しかし、現に咲の時に、体の異変が起きている以上。眼を背けるワケにはいかない。
【自分で何とかするにはこうするしかなかった】、という理由。
「……そうか」
「一応聞くけど、仮想世界でダメージを受けたら。痛みは伴うの? 現実世界で痛いと実感できるの?」
「? うんや、そんな【設定はしていなし】。するつもりもない、どっかのメモ帳に書いたかもしれないが、咲の物語に組み込んだ記憶は無い」
「なら。【部外者がお姉ちゃんのゲームに土足で踏み込んでる以上、このイベントは願い下げだわ】、やる気が失せた」
それは姉のゲームへの明確な違反。――咲の明確な怒り。
「そんな卑怯で、姑息で、お姉ちゃんが純粋に私を楽しませようとして作ってるゲームに。ご都合主義を混ぜた世界を、私は許せない」
「ふむ、――わかった」
《イベント中止のお知らせ。何者かがご都合主義でイベントを妨害したので。閉幕イベントは中止とさせて頂きます。》
それは世界が望んでいるのか、誰かが望んでいるのかはわからない。
しかしそれは、天上院姉妹にとっては不都合で、面白く無くて。閉まらなくて。何より誇りも、約束も、誓いも、名誉も傷つける。最低な悪手だった。




