第359話「VS増勢ディアボロウニ」
圧倒される上級プレイヤーの数に、恐れ戦いているのは咲だ。
その咲に対してGM姫は、ドコまでも他人事のように続ける。
「さて、じっとしてても何も好転しないから。そろそろ始めるぞ。準備は出来てるか? 咲」
言われてから気づく。今はまだレベル1の〈学者〉だった。
「そうだった!」
咲はステータス画面をタップして、戦闘用の熟練されたレベル101の〈魔法剣士〉へと職業を変える。……変えなきゃこれから挑む相手に対しては敵わないからだ。
花形の騎士に衣装チェンジする咲。
「制限時間は?」
姉に聞く。
「30分な。1800秒、コレは今から受けるプレイヤー全員そうだ。約1800秒」
それを聞きながら、咲はクエスト画面を開き……説明を聞く。
《ルール説明。二獣王〈増勢ディアボロウニ〉との戦闘まで残り30秒です。〈静電気の海岸エリア〉を1人でも出たら負け。外部観戦は可能。プレイログ・録画は可能。ライブ配信は禁止。プレイヤーが全滅しても負け。ディアボロウニの親玉を倒したら勝ち。タイムリミットは30分。リスポーン地点はディアボロウニから100メートル離れたところからやり直し。3つのリスポーン地点という名の拠点を破壊されても負け。拠点再設置はあり。参加プレイヤーの合計人数はAランク冒険者、約100人強。回復アイテムあり、スキルあり、秘奥義あり、休憩地点設置あり、飛行あり、ロボットはあり。制度はリアルタイム制。死亡したら一分間の硬直状態のペナルティ。途中ログアウトは再戦権を失います。マナー違反、イエローカード〈警告〉は1回までOK。2回目は戦闘から退場。途中からの外部乱入は無し。……前情報は以上となります。》
5、4、3、2、1、――ピー!!!!
《二獣王〈増勢ディアボロウニ〉が出現しました!》
「さて、じゃ。万全の準備もしたし。様子見もしたし。足並みもそろってるし。二獣王、倒させて貰うわよ!!」
――こうして、イベントという名の。戦争が始まった……ッ!
◆
「フライングをしている奴は無し、ふむ。良い滑り出しじゃな」
流石にココまで連帯感があると清々しいと思う姫。これなら力の強弱、力む所、脱力する所がはっきりとする。
「ま、こっからは高みの見物じゃな」
――1800、1790、1780――。
ピ、ピ、ピ。……とカウントダウンが始まった。
『キュピー!?』
ウニがこちら側を視認した、どうやら敵だと察知したらしい。
「前情報はあったんだ! 一気にたたみ掛けるぞ!」
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』
駆け抜ける冒険者達、狙うは獣王ディアボロウニだ。
「後衛はリスポーン地点の拠点の防御を固めろ! タダで終わるとは思えん! 十分に強化してくれ!」
『はい!』
疾風怒濤の速さでウニに向かうのはサキだ。
『キュピー!』
ウニは針一本を戦車の大砲のように発射した。
――――ドゴン!
という超反動をものともしない超振動をあたりに響き渡る。
あの針が攻撃と増殖の役割を持つ。今のが着弾して10匹増えた。
今はまだ視認で親玉だと判るが、攻撃態勢になると。体が金色に光る。それだけが唯一の目印なのだ。数が増えればどこに親玉が居るかさえ分からなくなる。
「強いと解ってるなら、初めっから全力よ! 〈森羅万象のワルツ3〉! 全力のォー! 18連撃!!」
サキは〈斬空剣〉をヒットした状況をトリガーにして、〈森羅万象のワルツ3〉を発動させた。
一撃目。〈斬空剣〉のヒット時で相手が浮く。
間撃目。その隙をついて。〈エボリューション・極黒〉を発動させる。
ニ撃目。〈古今無双〉地・水属性の剣撃で、四連撃を発動。
三撃目。〈太陽・大回転〉火・風属性の剣劇で、四連撃を発動。
間撃目。〈エボリューション・極白〉を発動。サキ自身の気配を遮断させる。
四撃目。〈雷速鼠動〉を発動。時計回りに氷・雷属性の電光石火を六連撃発動。
五撃目。〈超天元突破・巨神殺し〉を発動。一点突破の闇属性、牙突一連撃をお見舞いする。
終撃目。〈森羅万象のワルツ3〉を発動。光属性の下段から上段へのアッパーカットの一連撃で。トドメを刺す!
18連撃は、見事。全て命中した。が……。
「やった! 18連撃全部成功! 敵のHPは……ッ!?」
――二獣王〈増勢ディアボロウニ〉のHPは10分の1しか減っていなかった。
「そんな……! 私の最大火力が、10分の1?」
『ギュビー!』
――瞬間、威嚇。そう、ただのいかく。
その衝撃波でサキはおろか、周辺10メートル以内にいたプレーヤーが衝撃波で後ろへと、強制的に吹き飛んだ。
驚くのは、そのただの威嚇だけで。あのイフリート同様。HPが1だけ残り、全損している事だった。
同様に、さっき増殖したディアボロウニが10ヵ所で一斉に威嚇をする。
『ギュビビビビビー!』
ドゴゴゴン! と大音量で発生するその衝撃波で吹き飛びHP1になるプレイヤー続出。
誰かが言った。
「マズい! 間合いの中へ入れ! 攻撃させてヘイトを! タゲを取れ! 一定距離に敵が居ないと。種を飛ばすぞ!!」
まるで、スイカのタネでも吐き出すかのように。
『ギュビー!』
その10匹のウニは種を吐き出してしまった。
その種は大玉花火のように炸裂し……!
あっという間に、100匹のディアボロウニの地獄絵図が完成してしまった――。
誰かが言った。
「サキ大将! お前は親玉からターゲット外すな!」
「絶対にタゲ外すなよ! ザコはこっちでやっとくから! お前は大将を!」
サキは、湘南桃花から聞いた「あんた達、『念』の修行してないでしょ?」という言葉を思い出していた。
(エボリューション・極黒を眼だけに集中させてタゲを取る! 相手にそのオーラを電動させて、繋ぐ! そうすれば強制的に通話状態になって……!?)
相手のタゲを消させない! そこまでは良かった。
だが……ゾクリ! と鳥肌が立った。
相手のオーラがケタ違い。いや測定不能なくらい底が見えなかった。
『ギュビー!』
ディアボロウニは〈神速〉を使い、翻弄しようとする。眼の射程範囲から逃れた所で、サキの〈マーキング〉は完璧に決まった。見えなくなっても相手を見つけられる。
問題だったのは……。
(なにコイツ、ステータスを開示されているようなものなのに……、全く天井が見えない!)
その存在感は海のように穏やかで……とても深かった。
とか悠長に敵を分析していたら。フィールドマップはすでに……。
「え!?」
増勢ディアボロウニ×1000 という数字だけが眼に飛び込んできた。
豆知識28◇#念によるターゲット取り
分類◇#システム外スキル #念 #オーラ #EWO2 #第20章
解説◇単にシステムが追ってくれるのでは無く。視界で見えない。マップ上で見えなくても。相手を補足する術。感覚的に「ここに居るんだな」というのの強化版「ここに居る!」とはっきり認識を実感できる。加えて今回は〈エボリューション・極黒〉での補則なのでハッキリわかる。が、消費MPが尋常じゃ無く減るので。眼だけにオーラを集中させていることで、最小限の消耗にしている。




