第39話「ピュリアのチートな噂」
後にこの事件を『ピュリアのチートな噂』としてネットのEMO裏歴史表に深く刻まれ、人々の間で噂になった。フェイの設定の件は咲と姫で何度も意見を出し合った結果こういう設定になった。
フェイ。人口AIのNPC。
14歳になるまで城の外にでた事が無かった箱入り娘、世界を見て回りたいと思っている。
性格はおしとやかで正義感が強く割と泣き虫、困ったことがあるとすぐに涙目になる、涙腺が弱く感動系の映画を見ても泣くし怖い映画を見ても泣く。「神子の涙」はフェイの涙を王家の石に当てるとヒルドの風の力が増強される、つまりヒルドがこの世界に体現するにはフェイの涙が必要不可欠と言う事になる。「王家の石」は古くから王家の家系や神子にのみ持つことが許されると言う代物で今では伝承は迷信とされお祭りや行事でしか使う所や見たことはないと言うほど貴重なもの。フェイ自身は友達が欲しくて10年以上その思いを抱きながら城の中で過ごしてきた、だから友達と言う言葉は特別だしその最初の友達が人間ではないがヒルドが言ってくれたので号泣した。フェイと友達になると飛空艇がもらえる、という今後絶対に必要になる飛空艇を友達になるだけでくれると言う事でプレイヤーの間ではとっても嬉しいキャラクター『愛すべき萌キャラ』などと呼ばれている。
話の流れ。
風の精霊ヒルドの話を聞いた後、ケンチャが再び悪だくみをはじめ。ヒルドとフェイとフェニックスと協力してケンチャとベヒモスを倒す。と言う簡単なものになった。
大体寿命は減らさずフェイはほとんど死なないキャラとなった、それどころか友達が増える設定へと書き換えられた。咲と姫の仲が良いからか1時間ほどで決まった。これによりピュリアは比較的攻略しやすく安全な場所になったとかなってないとか…。ヒルドとフェイはこれからも冒険者達を見送る見送り人として友達を一杯作っていくだろう。
「咲~スぺブラやろうぜ~」
「……」
「ん?どうした咲?」
「お姉ちゃんどうしてそう楽観的なのかな~普通あそこまで喧嘩したらもう絶交とかなるでしょう」
「ん~私の中では寝たら次の日は仲直りだ」
「子供か!」
「まあまあ、スぺブラやるの?やらないの?私咲とスぺブラ出来ないとボッチプレイになる…」
涙目になりながら姫は頼むように懇願する、咲もまんざらでもなさそうで「う~む」とうなる。
「……いいよ」
「おっしゃー!」
そんな感じで今日も穏やかに天上院家の夜はふけてゆくのでした。
〈ピュリアのチートな噂〉
事の発端は「秘奥義の制約はきつくすれば確かに強力な秘奥義になるがクールタイムが1年とか10年とかどうなんだ?やりすぎだろう問題になる!」
「秘奥義の制約で二度とゲームをできなくなっても良いからすごい力を手に入れたいって制約したらどうなるの?」
と言った噂話から始まる。しかし誰もそれをやる勇気はなく(バカはやらず)それはやっちゃいけない暗黙の了解として知れ渡っていたのだが天上院咲/サキと言う人物が初めてそれを実行に移す。結果、運営であり姉である天上院姫/ヒメをぼこぼこにしてリアルで病院送りにする。咲は二度とEMOをできなくなるが一ヵ月後にゲームに復帰するらしい。理由はその秘奥義の制約「二度とゲームをできなくなっても良いから最強の力が欲しい」を実行した人が面白半分で300人ほど出て、大量にログアウト不能、ゲームプレイ不可能者が出たことからバージョンアップした時にその制約は上限最大一ヵ月にするからそれで運営は丸く収めようとした。
このように誰もそんな事をやろうとしなかった中やった上に、運営と関係がある上に、ゲーム自体を乗っ取っちゃうハッカーまがいのことまでやったので。『伝説の勇者咲(笑)』『咲姫様』『チート女王咲』とEMO内で言われた。っとネットのEMO裏歴史表に深く刻まれ、人々の間で噂になり、咲の思惑とは裏腹に名声は上がった。
◆
一ヵ月後とある神奈川県平塚市のゲームセンター。
ここにはお金を100円入れて格闘ゲームを楽しめる典型的なゲーム機がある、台が大きくて座るタイプ。プレイヤーは半仮眠状態でダイブし一定のストーリーモードをクリアしたらゲームは終了する。その間に台の反対側でお金を入れられたら乱入モードに入りプレイヤー同士で対戦することが出来る、負ければその場でプレイは打ち切り。負けた方は台から去るか、お金を入れてもう一度勝った相手と乱入モードに入るかを選べる。EMOはアーケードゲームとしても広く普及している、というより元はこちらの格闘ゲームの方が最初だ、ゲーム名はエレメンタルマスター、略称はEM。EMOの装備はこのゲーム機EMには持ってくることが出来ない、ゲームに設定されている40のキャラクターを一人選んで操作する。そんな中で一人の小学生くらいの女の子が楽しそうに〈シンクロギア〉をつけて遊んでいた。
そこへ二人組の男性が反対側の台に一人座る、太っちょで大柄なジ〇イアンみたいな中学生だ、そして横に小柄なス〇夫みたいな男性。相手はお金を入れ乱入モードに突入する、そして折角一人で楽しんでいた小学生女子をぼこぼこにした。
「へへへざまーみやがれ!相手が悪かったな」
「へへへお嬢ちゃんここは俺らの台だよお子様は帰った帰った」
汚い笑い声をまき散らす男子二人、女の子は折角一人で楽しく遊んでたのに涙目である。
そして圧倒的な実力差を見せつけて小学生女子の使っていたキャラは負けた。
「ギャハハハハ」
「弱ぇえー!」
汚い笑い声は尚も続く、負けた女の子は涙を目いっぱいに溜め逃げるようにその場を去る、と言う所で自分より少し多ききめの中学生女子の足に顔が当たった。
「大丈夫?仇はとってあげるからね」
そういって少女はジ〇イアン型の男の子の反対側の台に回り込み座る。
「おお? 嬢ちゃんやる気か?」
「観ない顔だね初心者かな?やめといた方がいいよこのお方はこのゲームセンターで一番強いんだ」
「よせよ照れるじゃねえか、まあそうなんだけどなガッハッハッハ!」
「………」
そういってる間に少女はキャラクターを選択する、選択キャラは魔法剣士の中でもEMOでも基本設定に近い女性キャラクターだ。あまりにも一般的な強さBランクのレッテルをネット内で貼られているキャラを選択したのでジ〇イアン型の男子はどんなプレイをするのか見当がつかないが、いつも通り大型ないかにもパワーファイターな男性キャラでゲームをプレイする。
レディ……ゴオ! ゲーム内にログインした二人の世界は雲の王国ピュリアの闘技場とうり二つだった。
「いっくぜーけちょんけちょんにしてやるー!」
「………」
少女の目は今まで見えなかったが、ここにきて髪から少女の眼球が目に入った。
「念波!眼力!」
突如として大男の方の動きが止まった、少女の気迫はシンクロギアを通して相手のシンクロギアにデータとして伝わったと言う事だろう。現実世界の男中学生の体から鳥肌が立つ、そして…。
「か……は……」
現実世界の男性が白目をむいてゲーム台に倒れ込んでしまった。
「わ、わ……何!? 何が起きたんだ!? お…お前何者だ!?」
ス〇夫みたいな男性が悲鳴を上げる
少女はゲーム台からスクッっと立ち上がると…。
「サキよ、それと…年上なんだから下の子には優しくしなさい」
とだけ言い、小学生の女の子の方を向き頭を撫でる。
「もう大丈夫だからね、何かあったらお姉さんが現れてやっつけちゃうから」
「……うん……」
「サキ…サキだって…あ! 思い出したぞ! まさかあのネットで有名な伝説の勇者咲(笑)!」
そして少女はゲームセンターを去ってしまった、後には屍となって倒れている男と驚愕の顔をしている男性と希望に満ち溢れている小学生女子だけがたたずんでいた。少女は青空を見る、まったりゆったりと動く雲は今日も今日とてゆっくり動く、そして少女は雲に向かって手をかざし……。
「念波! 掌波!」
と現実世界で唱える……が……何も起ころない……。
「はぁ………やっぱ現実世界じゃ出ないか………」
ガックシと顔を下げて残念がる少女。
「まあいいや、今日も最終決戦のつもりで行こう!」
◆
少女は異世界ゲームで名が上がった。