第350話「難易度ハード、イベント終了」
ゾンビ達の猛攻が止まらない――。
「ぜい! ……ぜえ、ぜいん……!」
MPは回復したが、今度は体力、HPが悲鳴をあげていた。
わかったこと、10000ログで十分体力切れを起こす。
そこへおじさんが声をかけてくる。
「何だ? もうへばったのか、別にイベント失敗でもいいぞ? 他のプレイヤーが何というかわからんがな」
サキはまだ頑張った方だろう、マルチタスクだ。眼の事情を話せばわかってくれる。
しかし、1個人の事情で皆のイベントを失敗にさせるのも忍びない。
何より、前回の豪華客船より。色んな意味で弱くなった事を示しているようにも感じて。それはそれで嫌だった。
「ん~、かと言って動ける体力も無いし……」
HPの話では無く、現実世界の肉体の話だ。精神力が枯渇しているとも言う。
動けないもんは動けない……。それはそういうゲームだ。遊びだ。
おじさんも、他の親衛隊も。うま~く状況修正してカバーしてくれている。上空も難なく攻防は問題無く機能している。
機能していないのはサキ自身のほうだった。
目の前には無限湧きのゾンビ……。
終わるか、休むか。
並の人間なら、未開の地のイベントで10000ログの情報収集をして帰ってきてくれたのなら。それこそ上出来だろう。
しかし、……未開の地のイベントで10000ログの情報収集をして死にました。
だと、それはそれで後味が悪い……。
サキは、念のためにお姉ちゃんに通信網を使って聞く。
『お姉ちゃん、イベント失敗ペナルティってある?』
『あるぞ』
なんとどっこい、あるんだこれが。
『全体責任で、全員の習得アイテムが半分になって終わる』
今、サキはまともに戦った中だと。〈海賊の眼〉×50個を入手しているので。イベント失敗をしたら半分の25個になって終わる。しかも、それがどれだけ重要なアイテム素材かと言うことも知らずに。だ……。
『とりあえず。失敗ペナなしだと思ってたよ……』
『まあ、今までそんな失敗無かったからな。サキは』
前進しか知らない、サキならではの失態である。
『お姉ちゃん』
『なんじゃ?』
『それはそれでプレイヤー達の阿鼻叫喚な叫びを聞けて楽しそう』
『鬼畜かお前は』
ちなみに。
『ちなみに個人的なデスペナルティもあるぞ、イベント中限定だが』
『どんなの?』
『自身が1回死ぬ度に、全てのステータスが半分になる』
『鬼か! 悪魔か! 社畜か! それ再復帰させる気ねーじゃねーか!』
『まあ、難易度ハードだし?』
ぐうの音も出ない言葉が返って来た。
『ウグッ!』
つまり、一回死ねば。もう、まともなプレイングは絶望的と言うことだ。せいぜい一回も死んでないプレイヤーを死なせまいと、盾に成ることしか出来ないだろう。
『関係ないが、課金すればステータスは元に戻る』
ここでまさかの課金要素。
『お姉ちゃんもテキトウだねえ……』
今は大将、サキが西陣形に来たから。〈海賊の眼〉は西を視認している形だ。そのせいもあってか、ただでさえ弱そうな西に。ゾンビが集中砲火を放ってくる。
そこへおじさんが。
「嬢ちゃん、ここは一回中央に帰って体制を立て直しな! はっきり言って邪魔だ!」
「うぐ! 無双するつもりだったのに!」
もっと自分が〈眼〉に慣れていればこうは成らなかっただろう。しかし、無茶な動きは無茶な動きだ。リタイヤが嫌なら、撤退するしか無い。
「じゃあ、この場は任せた! 頑張れおじさん!」
「あいよおぉおおおおおー!」
こうして、サキはゾンビ達の〈眼〉を一心に背負いながら。ある意味囮と成るべく。中央へと戻った。
◆
「状況は?」
「ん~状況も何もサキ以外は皆、絶好調かな~……見渡す限りは」
どうやら、へばってるのはサキだけだったようだ。
「後半戦だし、テントでも張って寝るか?」
「中央だからってそんな悠長な事してたら、勝てる戦も勝てないよ……」
「……、それもそうか」
そして今までの経験も踏まえて……。
「んじゃ今度は北陣形に行ってみるわ、シャンフロさんと話してみる」
「ケンカするなよ~」
「しないよ! それとエンペラーとグリゴロスの様子も観てくる。お姉ちゃんは行く?」
「な~んか今までのサガかな~……行く気がしない」
話をしている時間も惜しい。
「むう、じゃあ行ってくる!」
そうして、HPを持ってる道具でてきとうに回復。
早速、北陣形に足を運ぶサキであった。
◆
「状況は?」
「見ての通りゾンビばっかりだよ!」
「なあなあ上の方のバハムートの眼、あれレアものだったりしないか? 取ってきたいんだけど」
「それ今回の目的じゃねえ! 今回は防衛が目的!」
それもそうだった、なら。豪華客船の沈没がバットエンドなわけだ。
「どれぐらい倒しましたか?」
「こっちは200! あっちは220! 俺は300!」
「私は50……、完全にお荷物な件について」
と、その時。ゴッドジーラが。
グゴゴゴっと口に向かって、エネルギーを貯め込んでいる。
バハムートはソレを〈破局〉で薙ぎ倒そうとするが効かず……。
――ピカア!
――轟音。
全てを焼き尽くす業火を吐いた。
破壊光線はバハムートに見事当たって命中。
ゾンビバハムートは粉々に砕け散った……。
敵の大将がやられて、海賊ゾンビ達は退散していった……。
《防衛戦イベントクリア!》
《西暦2035年9月6日、18時30分。イベント時間30分、ゾンビ撃破合計数5124。合計ログ数約12000!》
《各種報酬は、自身のマイルームでお受け取り下さい!》
「あぁ、何だかんだでイベント終わったのね……」
個人的にはあと5000ログ稼ぎたかったという過去の想いもあるのだが。……結果は結果だ、受け入れよう。
プレイヤー達は豪華客船ミルヴォワールから、リミテッドデータログ・オンラインのホームルームへ転移した。
「ということは、次は報酬受け取りターンか!」
と内心ワクワクしながらマイルームへ足を運ぶサキであった。




