第349話「難易度ハード、西陣形」
第11話 豪華客船、難易度ハード、西陣形。
◆
サキは豪華客船の中央の頂上から全体を見下ろして、やはり全部は把握できないことを悟った。それと同時に……。
「……うん、まあ当たり前だけど通常より体力使うね。この右眼」
HPが減ってるのか、MPが減ってるのか、微妙な疲労感だが。ステータス的にはMPが減少し続けている。そんなに強力な魔眼では無いので徐々にだが少しずつ減っているのが見て取れる。MPだけでは無く〈疲労値〉があったらそっちが主に減少している所だろうか。そう考えると隠しステータスなのだろうか? などの考えを巡らせながら……。
「さて、では何処行くか決めなきゃね。けん制ばっかりしてもしょうがないし」
幸い、空中戦。上空のゾンビバハムートはゴッド・ジーラが相手をしてくれているみたいで助かった。あんなのまともに相手を出来るはずも無く。怪獣大決戦はよそでやって欲しいと思う昨今である。
「さて、では西陣形に行ってみますかね」
北は、ゾンビの数は多くても実力派ぞろいで安定して観てられる。ここは【安心していいだろう】。
東は、蒼葉くんの極大魔法が今大炸裂したのでしばらくの間は持ち堪えてくれるでしょう。魔術回路がそこら中に組まれたので、ゾンビの大群の動きがスロウになっている。
南も、不安材料はあるものの長年の連携、カッコハテナもあるし。特段心配はしていない。あと、お姉ちゃんが先制攻撃をしリバイヤサンの左魔眼を潰したので。危険度としては下がったほうだ。
一番実力が未知数なのは西陣形だ、ここらで交流を深めておくのもアリだろう。というか、今のうちだけかもしれないし。そうでないかもしれない。
そういうことで、サキはいったん。〈幻想の右眼〉を解除。両目とも通常状態に戻して。豪華客船の西側へと向かった。
ちなみにお姉ちゃんは。モルボルを出してからその葉っぱの受肉をプニプニと堪能している、何やってんだ?
サキは西陣形へ移動を開始する。移動しながら、その途中で経過ログを確認する。
「現在貯まったログ数は8542ログか……。もうだいぶ行ってるわね。残り8458ログ……ちょうど半分か……」
西陣形に行って、一悶着やったら。もう残り7000ログは切るだろう。そうなってくると……。
「全部の陣形を廻る余裕は無さそうね、これ」
そうなってくると、西陣形でゾンビ相手に実戦をやって。ゴッド・ジーラが良いところを見せて。タイムアップで終わり。という未来が、見えなくも無い。
「下手したら今回かその次のアクションログで終わりそうね~。やれやれ、眼のデータを取るためだけのイベントにしてはちょっとログ数が少なかったかしら?」
どちらかというと、昔の感覚より今の感覚の方が。動きがスムーズになった分、ログを多く消費するようになった。という結果の表れかもしれない。
などと考えている内に、西陣形へ着いた。
◆
「よ! おじさん! 初めまして!」
「おぉ! 初めまして、いや~生サキちゃんか! 初めて拝むよ!」
ちょっとその「拝む」という表現には照れくささを感じる。
「え、えへへへ。ごめんね~こっちもこっちでバタバタしちゃってて……!」
おじさんの連撃は会話中も止まらない。
「いいってことよ! それより一緒に戦える事を光栄に思うぜ~」
「あはは、そうですね。んじゃ戦いますか!」
《サキは西陣形で、〈走る海賊ゾンビの左魔眼持ち〉×無限湧きLv.50との戦闘に入りました!》
西陣形には7人の放課後クラブ親衛隊がいる、その内の1人がおじさん。それ以外の人物は知らないけど、少なくとも放課後クラブを好いてくれている人達だ。
あんまり人数が多いと、まとめるのに苦労するが。今はそうは言ってられない。
右眼の練習のためにこのイベントを開いたわけだから、閉じたところ悪いが、もう一度開眼する。
「〈幻想の右眼〉!」
視界が夕焼け色に染まる。
群がるゾンビ海賊達におじさんが押され気味だったので、おじさんの背後に〈後鬼〉を長時間永続させて召喚させる。
「こんな感じかな!」
そしてここで初めてサキは剣を抜く。
「〈エボリューション・極黒〉からの!〈森羅万象のワルツ〉ッ!!」
8属性8連撃が、ステータスマックスでゾンビ達、西陣形の四方の陣。全てを薙ぎ倒した。
《〈海賊の目〉×50個手に入れました!》
自動ドロップで近くに落ちたそれらを回収する。
「流石だぜサキちゃん!」
「まあこれぐらいしか取り柄が無いもんでね!」
視界に入る全てのゾンビを〈百鬼夜行〉で360度、ぐるりと回って。けん制する。
ところが、〈エボリューション・極黒〉〈森羅万象のワルツ〉〈幻想の右眼〉のコンボ攻撃は。予想以上にMPを消費した。
(消費スピードが速い!)
と、思った瞬間。プシュー! と、全ての能力がMP切れでスッカラカンになってしまった。
どうやら、これら3つのスキルとアビリティを使うと一気にMPが1回で無くなってしまうようだ。
「しまった!」
『グオワアアアア!』
あわや、ゾンビに襲われそうになったその時。おじさんの連撃で、それをバッタバッタと剛拳で打ち倒す!
「ほら嬢ちゃん! MP回復ポーション!」
投げ飛ばされたポーションをナイスキャッチで口に運ぶ。
「ありがとう! ゴクゴク! プッハー!」
「いいってことよー! 大将!」
と、一泊置いてから。通常攻撃5発で曲線を描き軽くいなす。
(〈絶対破壊〉を使う相手は居なさそうだから。使わなそうね今回は。MP消費も尋常じゃなかったし)
とはいえ〈百鬼夜行〉の連続使用や開眼のオンオフ切り替えも難しい。一呼吸置くときにはオフにしておきたいのは山々だ。
(力んだ時にオンにして、脱力したときにオフにする。その流れを、戦いながら体で覚える!)
そうして構えて、ログを確認する。
「1147ログ消費。……残り7311ログ……」
もう10000ログは消費し終わった。残り約7000ログ……。
イベントは峠を越えて、下り坂。後半戦へと雪崩れ込む――。




