第348話「難易度ハード、戦の外と戦の内」
ゲーム内、イベントの外窓の観客席から。
ある意味謎々の問題集を必死で解こう、理解しようとしている人物がここに1人。
「№i、……ナンバーアイ、虚数。皮肉……。色々解ってきたけど、ここがよく解んないわね。んで、〈中央〉に居たのは真だとⅣ番で……」
「また謎々やってるの? 桃花ならもう答えは解ってるはずなのに」
「いや、それとコレとじゃ話は別な訳よ。……本当に話は別だから困るけど……んで虚数って何番? 素数だと2・3・5・7……」
「番号じゃ無い、【現実には存在しない数字がi】つまり、記号」
観客席から咲のゲームそっちのけで、別のゲームの問題を解こうとしているのは。受付嬢湘南桃花だった。
その隣に寄り添ってきたのが、毎度おなじみオーバーリミッツである。
「私、歴史の先生なんだけどな……、数学は嘘つかないと思ってたけど。そういうことじゃ無くて?」
「『想像上の数』 で、『こんな数は現実には存在しない』って言うのを数式で科学するのがこの学問ね」
色々無い頭を振り絞って理解しようとする桃花。は、結局開き直る。
「解んないけど、結局【イギリスの時計台のローマ数字】で落ち着くんでしょ?」
「名前はビッグ・ベン、1859年に作られた。名前の由来は、当時のヘビーウェイト級のボクシングチャンピオンの名前から来ているという説がある。2012年、ビッグ・ベンがある時計塔の名称を「クロック・タワー」から「エリザベス・タワー」に改称することが了承された」
「え、エリザベス・タワー?」
「そう、エリザベス塔。2012年」
「2012年って……吸血鬼大戦から2年後だから……ちょうどピンクスズちゃんが迷走してた頃じゃない」
「そうなるわね。2012年3月23日に『涯てより開く』、よ……」
何かしら解ったらしい桃花。
「はぁ、何だよそれ。つまりオカエリってことじゃない」
「まあ、当時のスズちゃん終わんなくて。『お家帰りたい』って願ってたもんね」
「いや、それ説明も無しに解んないって……、……知らない方が都合が良いらしいけど……」
桃花は、【そもそも過去に戻って誤差修正の場所を墓前の前でやったことを忘れていた】……ので。今思い出した。
解んないけれども解った桃花先生は。「んで」、と。今の豪華客船に東西南北に布陣を作った咲のゲームに目線を落とした。
「新世界は続くよどこまでも。……てことか……」
「ま、そうなるわね。どう? 少しはマシになった?」
「まだ小説と漫画の緩急が難しいけど……おおむね、はね。【心配はない、間に合っている】って解ってもねえ~」
「ふーん」
いつも焦っていたので、急ぎ足は変わらない。と言いたいのだろう。
それでも――。
世は遙かへ続くよどこまでも――。
◆
イベント、豪華客船防衛戦ゲーム内。
《〈走る海賊ゾンビの左魔眼持ち〉×無限湧きLv.50との戦闘に入りました!》
「思った以上に硬い! ぶえっくしょん!」
東陣形、天命アリス=スズは呼ばれてもいないのにクシャミをした。
「さー見せ場だ見せ場だ! せいやー!」
南陣形、牙はハルバートを使い。張り切っていた。
「ひゃっほーい! ヒャッフー!」
北陣形、シャンフロは軽業をキメて飛び跳ねていた。
「あたたたたた!」
西陣形、防御力の堅い連打おじさんが。拳に連撃をゾンビにお見舞いしていた。
◆
北陣形の海賊ゾンビ達は次々と銃と拳と剣で薙ぎ倒されてゆく。流石だ、皆ここへ来るまでにサキと同等かそれ以上の修羅場を潜ってきている。
いくらゾンビ達に〈海賊の左眼〉が付いていようがお構いなしの実力を発揮してくれている。
3人でどんどんドロップアイテムをポコポコポコポコ手に入れている。
「数の暴力に押され気味だけど、……持ち堪えられそうね」
(なんだ、3対多〈魔眼持ち〉でも。なにも問題無いじゃん)
とか軽く己達の実力を誇っていたら……。
ピーピーピー!
《〈北〉にゾンビバハムートLv.100が出現しました!》
《〈南〉にゾンビリバイヤサンLv.80が出現しました!》
「は?」
「は?」
「はぁー!?!?」
バハムート種は、明記されていないが。この世界では最も強い種族として知られている。簡単に言うと、四大精霊の上位種として存在している。
しかも、封印されしバハムートじゃ無い。普通のバハムートだ。ゾンビだけど……、で。何故かおまけのようにサキの後ろにリバイヤサンが付いてきた。……ゾンビだけど。
「ゾンビってつければ何でも出して良いと思ってるんじゃねーぞ!?」
《〈中央〉に味方としてゴッド・ジーラLv.100が出現しました!》
途端に船の真横がボコっと浮き上がる……!
「え、中央?」
「中央って言ったよね今」
「あー! これ大怪獣決戦みたいになるやつー!?!?」
「うわー! 船の底からジーラ出てきたー!?」
「揺れる揺れる!」
「ジェット・ブーツ持ってる奴は海上で戦えー!」
「少しでも数を減らすんだ!」
それと同時に、豪華客船の船内から戦闘用ロボットが出現してきた。
「皆ぁー! ロボットには乗ったか! 行くぞー!」
「なんかソレ、丸太は持ったかー! みたいなノリになってるー!?」
「こっちは走るゾンビでそれどころじゃねーよ!!」
(あ~、そうそうこんな感じだったよね。昔やったゾンビ大戦もこんなハチャメチャだったよ)
あの時は、船をほったらかして遠くの方のボスを倒そうと。前に前に出ていた立ち回りだった。
今はまだ中央に居る……。サキはどう動こうか、ここは冷静沈着に、一泊置く事に決めた。
「百鬼夜行で、視界に入る範囲なら。弱攻撃でけん制できるもんね。あの時とは違う。もっとよく観測しよう」
そうは思ったが、ここで一つ疑問が残る。
「お姉ちゃんはどうするの?」
「わし? え? 何本気出して良いの?」
まるで、今まで弱くみせてたのにーとか言わんばかりだった。
だが、ここではそんな遠慮はいらない。
「じゃあ本気出して。どうぞ」
「おっしゃ! わかった! 〈時空間忍術・神威〉!」
瞬間、空間忍術で南陣形にいるリバイヤサンの左魔眼をクナイでぶっ刺して。
「〈雷遁! 疾風迅雷!〉」
眼にも止まらぬ速さで、ゾンビリバイヤサンに雷撃を食らわせて空間転移で速退散。中央陣形にもう戻ってきた。
「南陣形の奴らに倒しやすくしておいたゾイ!」
「はんや!?」
流石に面食らったサキ。
「んじゃ、もう一つおまけ~! 口寄せの術! モルボル召喚!」
ポン! っと何とも艶めかしい2メートルほどある大きい動植物が召喚された。……味方でよかった……とサキは思った。
「さーて! あーばーれーるーぞー!」
サキは中央陣形から、東西南北全ての視野に入るゾンビを百鬼夜行で片っ端からけん制するのであった。




