第336話「カオスの世界と理解者」
天上院咲という私が。
超人化してからというもの。その不安定さに頭を悩ませた。
具体的には。……頭痛になったり、世界の外側を知ったり。世界の裏側を知ったり……。
とても身が持たない。というか、体が1つでは足りないということが良くわかる。
置き去りにした体にいきなりリンク・アクセスしたりするのも日常茶飯事。
鏡の向こう側の自分が勝手に動いたり。
なに不自由なく浮遊しているときでも、〈外の目〉がソレを、アストラル体を理論立てて説明しようと。頑張ったり。(これは正直余計なお世話だが
……、かと言って記憶の中の時間が大事というのも解る。
そのための犠牲を知る必要は無い、と断じることは今の私達には出来ない。
R18指定やR18Gのような、規制しなければ目も記憶も耐えられないようなのも何度も観た。
王様になったり、貧民になったり、動物を見たり聞いたり……。
勿論、全てを覚えているわけでは無い。
ただ、寄り添う。
何に?
世界と。
世界と寄り添う。
故に、見るし、忘れるし、思い出すし、調べるし。
何でもアリということは、何でもナシ通じますですピス。とか、いきなり言われてキョどったりとか。
刺激があるか無いかで言うと。アリすぎる……。
姫お姉ちゃんという名の神様としての、内側からの葛藤。
外側からの、神様を信じるものからの圧倒的な信仰の。祈りの姿勢・行動・実行力。
心が安まる時が無い……。お姉ちゃんに言わせれば、だいぶマシになったらしいけど……。
記憶を遡り。一番自由だった頃の記憶も見て取れた。
しかし、今の私から見ると。孤独やアホを通り越してタダの懺悔にしか見えなかった。
うさぎ小屋だった……。
愛を形作るラブレターであっても。
本当のところは、見当違いの勘違いの的外れ……。
それが虚しく虚空に線を引く。
ただ、その成果物に私がどれだけ言葉を並べても勝てなかったのは……。
まあ。「確かにな……」と思えるほどには〈世界は弱かった〉……。
お姉ちゃんと同じ土俵に立つということは……そういうことなのだ。
◆
天上院家、自宅。
「ん……」
天上院咲は、現実世界へ目が覚める。神々の世界、新世界、よくわからないカオスの世界から、何十年経ったか解らないような無数の世界を旅した。人知を超えた世界から、心を取り戻し。体に戻したわけだ。
無論、こんなことはVR機械では出来ない。
咲はVR機を付けずにただ眠っていただけだった。
「夢……?」
と、錯覚するほどに。あるいは夢以上に厄介で、不都合なものを見た気がした。
自分の上には神しか居ない。
自分の上には上司が居る。
その〈どちらでも無い世界〉を「羨ましいな」とも思ったが。
他人ははソレを「孤独……」と言う。
「そんな悲劇の少女ぶってたら、またどっかのツンツン頭に熱血の説教を食らうぞwww」
そんな風に、現人神。天上院姫は微笑んでいた。
「ようこそ、【こちら側の世界へ】。楽しめたか?」
「まあ、【計画】を立てて事を運ぶのが大事なんだな。ってことは解った」
「さっすが、家族の善神咲さま。家族の助言を信じられるようになったんじゃな!」
「まぁ、平たく言うと……そうなる」
秦然と、そういう……。
もう、《計画》という単語に。悪意の憑きものは取れてしまっていた。
「自分が何を言ってるのか、わかるか?」
「……、わかるけど。……説明するのがめんどくさい」
「そうじゃろそうじゃろ。ま、そういうわけで。同族というか……ワシにも〈こちら側の世界で〉理解者が得られたと言うわけじゃな!」
めでたしめでたし、とでも言いたそうな姫お姉ちゃんだった。
「……、これで。お姉ちゃんと一緒にいられる」
「そうだな、ありがとう」
心からの感謝だった。
ちなみに。
「コレは難易度エクストラ?」
「うんや、難易度ハードくらいじゃな。お主が今、経験したのは。過去の歴史だ。未知の世界の、まだ見ぬ世界の冒険では無い」
姉は、何ともニコやかな冗舌で楽しんでいた。
よほど仲間が出来たことが嬉しいらしい。
「ま、こっちの世界では普通にVRゲーム楽しんでな! エンジョイ勢ヤエザキ様!」
そこは迷わず。
「うん、そうする」
むしろ、望む所だった。




