第335話「V&Rシスターズ」※ターニングポイント7
現実世界、西暦2035年9月1日、神道社会議室。
そこには日本の政治家今泉善次郎と天上院姫と天上院咲が居た。善次朗は咲に語りかける。
「もう察しがついてると思うが。天上院姫くんは普通の人間じゃない」
「バーチャルの神、リアルの神。その融合体が君の姉だ」
天上院咲は淡々と衝撃の事実を突きつけられる。
「薄々は気づいていました。リアリティじゃなくてリアルの神様なんだって」
心当たりがありすぎる、不自然な点が多すぎるため。それしか咲は言葉に出来なかった。
「それだけだったなら超人保護法とかで守れば良いのだが……。ヒーローに憧れているのならそれでよかった……だが違う。君のお姉ちゃんはこの国・この地球・この宇宙・この世界で最強のヴィランだ」
「つまり?」
今泉善次朗は真剣に言う。
「想像してみろ、神様が作った悪のAI兵器がたくさん敵国に渡り市民が虐殺される……」
「悪の唯一神に並び立つモノはいない……」
「誰がそれを止める?」
姫はぼそりと話を紡ぐ。
「もう隠しきれない。家族にも話した、秘密は作りたくない」
いつもの「のじゃ」の語尾も抜けていた。
「私は、おとぎ話の魔王として君臨し続ける。だから咲、お前はそれを倒す勇者になってほしい。大きな孤独を味わうことになるが……」
意外過ぎる姫からの言葉だった。
咲はあまり嬉しそうではない声色で続ける。
「その神様化すると、何が出来るようになるの?」
「全知全能、不老不死、時空間転移 何でも融合。とにかく何でも出来る。この世界の創造神なんだ。むしろ出来ないことがあっちゃ困る。力はスーパーマン以上になるかもしれない。超インフレじゃ」
「なるほど、調律の勇者になってってことね」
「だがリスクがないわけでは無い。寿命も時空の概念も無くなるし。それに圧倒的な孤独、寂しさと戦うことになる。もう普通の人生を送れなくなる。中学生活もただじゃおくれないだろう。ただのエンジョイ勢から特別なエンジョイ勢にジョブチェンジじゃ。それでもやるか」
単的に直球で咲が答える。
「やる」
何故か本人はその覚悟はもう出来ていた。
「家族だもん、苦しくて辛いのなら。私もその寂しさを共有したい」
「……良いんだな?」
「それこそ本当に今さらよ、さあやるならちゃっちゃとやっちゃって!」
「じゃあちょこっとチクッとするぞ」
そう言って、姫は自身の神様としての力を半分。咲に分け与えた。
「う! うわあああああああああああああああ!」
それは全然チクッとでは済まなかった。記憶とか感覚が森羅万象の記憶を読み解くように。
そして、……完了した。
創造神の二柱、天上院咲の誕生である。
「ようこそ、超人達の世界へ」
今泉善次朗は祝福する。
「おめでとう。これから君たちは《バーチャル&リアルシスターズ》と名乗るといい」
「V&Rシスターズ……」
「ふむ、良い響きじゃな」
今泉善次朗
「それじゃあ、最初のミッションだ。悪の組織が『エレメンタル・メダル』という兵器を手に入れて。日本の東京で悪さをしている。懲らしめてみろ」
「げ、いきなり実戦ですか」
「でなきゃシスターズを結成した意味が無いからな」
というわけで、現実世界でハイファンタジーなバトルが始まる予感がした。
◆
V&Rシスターズは東京へ向かった。
「あのエレメンタル・メダルって元々わしのなんじゃよなあ~。それがなんかよくわからん内に奪われて。勝手に使われてた」
「なんで管理してなかったの?」
「知らなかったから判らなかったんだって」
ただの盗人は元気よく犯罪を行っていた。
「ひゃっはー! 世界の人口を半分にしてやるぜー」
そうこうしていると、光り輝く後光と共に。V&Rシスターズは舞い降りた。
「えーえっとー世界政府だー大人しく投降しろー!」
「嫌なコッター! お前も消えちゃえー!」
そして指パッチンをしたその空間で……。姫は腕を前に掲げて領域展開をした。咲と姫と盗人の間の空間だけが次元隔離され。盗人の精神は崩壊した。
「NED!? あが、あががが。俺は、ただの囮だったのか……!?」
神格化した2人は無傷だったが、ただの人間にはエナルギーが強すぎて制御できず、そのまま気絶した。
もう、盗人は人間ではなく。灰になり。風になり。
あとには、メダルしか残っていなかった。
「返してもらうぞ。エレメンタル・メダル」
言って、メダルは元あった姫の元へと渡った。
「私、何もすることなかった……」
一件落着、全て終わった。
だが、始まりの問題はここからだった。
◆
「で、ここからが本番だ。わしは私が悪のラスボスとして倒されるのが夢なんだ」
「……!」
咲はその言葉に衝撃を受ける。わかっていた、わかっていたつもりだった。
「わしが最後の敵なんだよ。これから私は物だって盗むし。人だって殺す。世界だっておもちゃみたいに壊す……その最後の抑止力が。勇者が。咲、お前なんだよ。それが私の夢だから」
「わかった。私、勇者になる! 最後にお姉ちゃんを倒すのは私だから。今決めたよ!」
「あぁ、それでいい。んじゃ、今日はお家でご飯でも食べるか」
「うん、今後の話はその後だね」
こうして、天上院姉妹の不思議な関係が始まった。
◆
夕食中の家族としては異質な会話が弾んでいた。
「まずはヴィラン連合を作らなきゃなあ~わし、ヴィランの人脈無いからさあ~」
「そんなこと言ったら私だってヒーロー連合の人脈無いよ。アベンジャーズは知ってるけど。会ったことない」
「悪と正義はなんかいつも喧嘩ばっかりしてるし、実際そうやって仲違いするもんだと思ってたが。いざ自分が魔王だと言っても。私達の日常は変わらないな」
「エンジョイプレイヤーだもん、悪いことしようが良いことをしようが。寝て次の日には元通り。それが家族でしょ?」
「なんか違う気がするが、まあいいか」
◆
西暦2035年9月2日、世界政府。
アメリカ【ついに来たか……、ゲームの世界で夢見心地に遊んでいればいいものを。今度は現実世界を侵食し始めるぞ】
日本【ご安心を、既に日本政府が完全に2人の力を制御出来ています】
中国【日本が制御出来ているというのはコントロールという意味だろう? つまり日本が核弾頭を手に入れたのも同じ。我が国にとっては世界の均衡が崩れかねない】
ロシア【日本は威力も制御も効く核弾頭を小娘2人の手に委ねるのか? 感情で揺れ動く娘がボタン一つで最強の核弾頭を撃てる。その中で家庭の幸せが保証されている? 何かの間違いだろ】
中国【それは現在最強の『最果ての軍勢』より強い権限なのかね? だとしたらそれはかなり危険なものじゃないか!】
アメリカ【やはり我々、世界政府が管理。ないし保護すべきだ! 考えてもみろ! 学校のイザコザで軽く核弾頭のボタンを押されるものだ! そんな理不尽なことはないだろ!】
日本【ご安心を、すでに日本政府が完全に制御しており……】
アメリカ【世界最強の正義と悪が家族だからという理由で、同じ屋根の下などと夢物語だ! 速く隔離したまえ!】
ロシア【放っておけばいずれ何億人も死ぬ可能性がある! それを判っていて何もしないとはどういうことだ! 誰かが管理すべきだ。家族の間で問題が無いという次元の話じゃ無い!】
アメリカ【聞くが、その姉妹2人には安全装置は無いのかね? いくらアメリカが銃社会と言っても安全装置ぐらいは整えてもらわねば困る!】
中国【超人は世界中で確認されている。誰かが指揮をを取らねばならない。その中でルールを決め、厳守してもらわねば。遅かれ速かれ世界が滅んでしまうでは無いか!】
ロシア【日本やその姉妹にとっては軽い事でも。我々には保証も何も無いんだ。車の免許証も保証書も無い! 日本は有事の時その責任を全て取ってくれるのかね!?】
日本【おっしゃる通りでございます】
アメリカ【これは圧力にみえるかもしれないが、世界にとっても安全保証は必要なんだ、わかってくれ】
日本【わかりました、ではこのことをV&Rシスターズに伝えます】
中国【まずその姉妹の身柄の確保。次に安全装置と。万が一撃った場合どうするかだ。頼んだよ!】
◆
今泉善次朗は頭を抱えていた。
「と、言うことが私の上から下りて来た」
姫は「じゃろうな」と言い。咲は「あちゃあ~」と困惑していた。何より姉妹同士の仲の良さは2人とも身を持って知っている。
「まあ、銃を撃つ前にセーフティが欲しい。ってのは判らないでも無いけどな」
姫は社会的な圧力と捉えた。
「どうする咲? 今のところ何でもかんでも自由だ。姉妹で守るルールとか作るか?」
「同じステージで戦うって言ったでしょ? お姉ちゃんの好きにしていいよ」
「そんなこと言ったっけ?」と思った姫だったが。「まあいいや」と軽く流す。
「要するに能力を使うときに制限を付ければ良いんじゃろ? 人間同士の。能力の発動条件に、とかじゃなく。例えば、1億円の特殊能力を使ったら日本は相手国に1億円を必ず払うと保証書を作って欲しいとか……そんな感じの」
「そう、それだ。金の問題だけで済めば良いのだが。要するにそういうことだ」
咲が口を挟む。
「じゃあ、『自動車保険』程度の料金を払うのが良いのかしら?」
善次朗は苦虫を噛みつぶす。
「マジレスすると『ミサイル保険』と同等の支払いだな。だが君たちの教育費以上になることは無いだろう。それ以上は国が払うとかだな」
「堅っ苦しいな~。いったいわしらは1回能力を使うたびにいくら払えば良いんじゃ?」
「日本国は皆で1億6000万円払う。君たち2人は……、まあ軽く見積もっても1万6000円だろうな」
「たっか!」
「何で私達は自由に使える能力をそんなに払わなければならないんですか?」
咲は話の前後を無視して言い出す。
「君ら学生とは言え一応プロだろ? それに世界最強の能力が1発1万6000円だと言ったのは格安だと思うがな」
つまり話はこうだ。
日本人の天上院姉妹は日本国に守られているので。
能力を使うと相手国に1億6000万円払い。
V&Rシスターズは1人1万6000円払って欲しい。
各国は保険のために、それで抑止力にしたいと言っているのだ。
「もし相手が異世界人だったら?」
「異世界人でも同じだ。原始人だろうと発展人だろうが、同じだ。金で解決する話では無いだろうが。そういう制限を設けないとダメだ。少なくとも能力使い放題の撃ち放題では各国が納得しない」
咲と姫は何となくOKを出した。しかし善次朗は書類へのサインをお願いする。
「やっぱ契約しないとダメなのか?」
「してくれ、君たちへのアフターケアにも繋がる。これは法廷でも有効になるはずだ」
「まるで法廷に立つこと前提の話ね……」
こういうことで、V&Rシスターズは日本国と契約書にサインをして。この一件は落着となった。
◆
咲は庶民的な感覚でぼやく。一応社会人としての体だが……。
「うわ~1発1万6000円かあ~。5発撃ったら1ヶ月分の給料超えちゃうよお~」
セミプロである咲の給料は8万円である。
姫は社長なのであまり痛くないが、それでも制限をかけられたのは確かに重荷、負荷には繋がっていた。
「私達2人が喧嘩したら一杯お金が飛ぶな」
「そうだね、前だって口喧嘩だけで治めらられたんだもん。いけるって!」
それだけはやめておこうと堅く誓う2人であった。




