第334話「清き一票を」
西暦2035年9月1日、季節は秋。
天上院咲の住む、桜ヶ丘中学校は。生徒会選挙の演説のため、学校の教室内にあるテレビで。生徒会候補の演説を聴いていた。
『私が当選しましたら。健康危機管理ボックスを設置して、生徒の小さな声を大切にします』
『私が当選したら、デジタルボックスを設置して、インターネットでのアクシデントを半減させます』
『私が当選することになりましたら。農林水産系の食費全般を今より安くし、生徒の食費を減らします』
何とも先生のテンプレが混ざり込んだような、味気ない演説が学校内に響く。選挙は投票制。どんなに優秀な生徒だろうが、劣等生だろうが。
皆に等しく『清き一票を!』という文言が正しく正確に生徒先生の耳に響く。
学校の一大イベントであっても。咲にとっっては退屈なものだった。
理由は天上院姫が現役ゲーム会社の社長で。
何故か日本国とアメリカ国の政治家とガチ経済対策とか話あっているからだ。
ひょんなことからセミプロになった天上院咲は、そんな刺激が強すぎる劇薬のせいで。学校生活が普通の生徒よりつまらなく感じてしまった。
とはいえ、もっと退屈そうにしているのは天上院姫お姉ちゃんなわけで。今でも頭の中は夢一杯の、どうやってゲームを面白くしてやろうか? という文字通り現実逃避をしているのだった。
ある程度、生徒会候補の演説を聴いた後に。咲は姫に「誰に一票入れる?」と聞くと「入れない」と回答してきた。
「いやいやいや、いくらお姉ちゃんが現役の社長だからって、清き一票だよ? 決めませんでしたじゃ他の生徒に示しがつかないよ」
「入れる自由があるなら、入れない自由があってもいいじゃろ?」
と言うのが、やる気の無い姫の論。
「それ、普通にやる気の無い生徒の一言だよ。軽く不良になってるよ……」
と、ツッコミを入れる咲。
「良質過ぎる生徒は、返って先生からしたら毒なのだよ咲くん」
などと姫は申しており。
「ちなみに私はデジタルボックスの生徒に表を入れるよ? やっぱり、今のデジタル社会のゴミは目に入れて悪いから」
姫は「当たり障りのない奴じゃな」と返すが。「清き一票ねえ~」と……、我に返りふと後ろを振り返った。
観ると。
「天上院姫は誰に投票するんだろう?」
とか。
「私もその意見に同意して、同じ派閥に入りたい」
とか。
「姫様に従う!」
「姫様の仰せの通りに~!」
とかとかとか、まるで姫の一票で。生徒会長が決まってしまいそうな勢いだった。
流石に業を煮やした姫は。自分の行いのせいだと言うことは棚に上げて。
「お前らあ! 自分の票だろ! 自分の好きな奴に投票しろよバカ!」
と、全くもって当たり前な言葉が姫派閥の一派に飛んできた。
「まあまあ、お姉ちゃんの意見を聞いてから投票したいって意見も遅くはないでしょ?」
と、唯一の家族。妹は言う。
「はぁ~……。私は農林水産だよ。普通に食費の軽減さ。長生きしたいからな」
と、学校の社会の歯車という名の型に、見事にハマってくれたのだった。
その後も、目まぐるしく生徒会選挙の情勢は変わりに変わり。結局、姫派閥の権力が強すぎたせいで。給食費の軽減を謳った生徒会員が当選した。
姫はと言うと「やっぱり投票しなきゃよかった」と嘆いていた。ナゼ? と聞くと「生徒の自主性が損なわれるから、自分で責任を持って投票して欲しい」とのことだった。
◆
5時間後。世界政府。
西暦2035年9月1日、季節は秋。
神道社社長とオンラインで会議を始めていた。学校のお子様ごっこの生徒会長選挙とは違う。
ここからはガチ勢の政局領域だ。エンジョイ勢は居ない。
アメリカ【日本は今選挙なのかね? これでは中々外交が出来ないではないか】
日本【ご安心を、世界規模の問題に関しては首相が責任を持って実施いたします。空白は作りません】
姫【わしは速くAR技術で遊びたいんだけどなぁ】
日本【そうい言ってくれるな。今だけだ、今だけ協力してくれれば良い。その後はいつも通り遊んでくれて構わない】
姫【それって結局時間を作ってくれってことだろ~? 嫌だなあ~】
日本【では各国の主張を聞いて行こうか】
アメリカ【中国はそのまま放っておくのか? あまり中国に守られ続ける神道社というのもイメージが悪いんじゃないのか?】
中国【聞き捨てならないな、まるで我々が守るのが役不足みたいではないか】
ロシア【こちらにも被害が出ている。何とかならんのか?】
姫【具体的な被害って?】
ロシア【氷関係だよ、曇った言い方で済まないがコレで理解してくれたまえ】
欧州連合【それより、こちらはどう動けば良い?】
姫【お前ら……わしが現人神だからって頼りすぎなんじゃないか?】
アメリカ【そんな力を知らなかった頃とは違う。どうしても頼ってしまうのは許して欲しい】
中国【むしろ今までは頼らずに各々進んで行ったわけだからな。やはり指針は欲しいのだよ】
姫【とはいえ、環境問題とか世界平和とか大きすぎてやり気が起きん。災害・貧困・経済。どこら辺を話せば良いんじゃ?】
中国【じゃあ君の好きそうな『超人登録法』についてとかどうかね?】
姫【それ、名簿を作るだけで大変そうなんじゃが】
ロシア【たしか、意思決定の方法論がない。で終わらなかったっけ?】
アメリカ【一番意思決定をしてるのは姫くんだろう。君がやったらどうかね?】
姫【断っても最終的に話をふられるのは、もうわかったから。了解したよ。でも私はいつも通りやるぞ? あと、どうせ私は徐々に過去を知っていくとは思うが。当時を知らなかったのは、事実で揺らがないんだ。そこら辺のアフターフォローはよろしく頼むぞ。知らんものは知らんのだから】
アメリカ【あぁ、それで構わない。汝らは選べる、我らは知っている。それでいいんだ】
姫【は~。んじゃもう切るぞ。またなんかあったら連絡な~】
そう言ってプツンとディスプレイは閉じられた。
◇
9月3日、放課後。
咲と姫はゲームをするために外出していた。
今度のゲームはAR、外で遊ぶゲームに挑戦と言うことらしい。
「さて、こっからは現実の堅苦しい話は抜きにして。夢の国の冒険だぞい!」
「わー!」
パチパチパチと拍手をする咲、今回も。
クローズドβテストということで。2人だけで遊ぶ、2人しか持っていないゲームとなる。
今流行りの、でもなく。流行を作る側の難しい所だ。
最初は2人しか居ない……。
「ゲームの名前は! コンビニウォークARじゃー!」
「ほうほう~!」
説明すると長くなるが。簡単に言うと『外で遊ぶゲーム』である。したがって、舞台は自然と日本の神奈川県の平塚市になる。
現実世界なので勿論、空は飛べないし。
仮想世界の剣と魔法でもない無い。
「とはいえ~自宅周辺で遊ぶと身バレするな。しょうがない、駅周辺を拠点にして遊ぼう。んじゃ移動」
「了解!」
というわけで、平塚駅に陣取った咲と姫。
駅は人でごった返している。
ここからゲームのチュートリアルが始まる。
「VRゲームは言うなれば神経回路を使った、映画『マ○リックス』が源流だからなあ~。ARを大流行させるには、AR映画作って。大ヒットさせて、皆が真似したがって、そして大きなARゲームって言うジャンルを確立させなきゃならないから。先は長いなあ~」
姫は準備運動をしながら、いきなりVRゲームの歴史の授業が始まった。運動をしていたのは、普通のゲームと違って全身の体を動かすからだ。
「流行を作るには、それと同等か。それ以上の労力を費やさなきゃいけないってことなの?」
「ま、ぶっちゃけそうじゃ。企画の文章も絵もスポンサーもいない。桃花はまぁ例外じゃが、桃花を納得させるだけの『見せ物』もまだ無い。じゃから、こっからは本当に手探りじゃ」
「先は長いって事だね」
「とはいえ、世界樹『クロニクル』とはリンクしてるから。そこだけは安心材料じゃな。一応ジャンルはゲーム。位置情報ゲーム。コントローラーを片手に持ったた簡単な運動。他には。値段が高いってのがある、一般に流通してないんじゃ。だから、共感も得にくいし。まだ異世界のほうが共感されるのは納得がいく」
まずはデバイスの話からしなければならない。
使用する機械は……。と、細かな説明が始まった。




