第37話「第1次姉妹喧嘩2034◆4」
そんな永久に続いてほしい永遠の殺陣の中、二度とないほどのお祭りを味わったあとの終わりを惜しむようなそんな終焉の時、刻が迫っていた。
「これで決めるよ! 森羅万象の円舞!」
「うおおおおおお! 念波!火遁閃光火の術!」
方や二度とEMOでゲームが出来なくなっても良いという覚悟の元の一撃。
方や現実世界の体がどうなっても良いというほどの覚悟の元の一撃。
方やレベル99だがプレイヤーの力量が不安な一撃。
方やレベル1だが技術と念波のみで力量をカバーする一撃。
両方本気、両方最終決戦のつもりで戦っている、両方負けられない想いがある。
ガキン!
初撃で冒険者の剣と忍刀が当たった、両者一歩も譲らずのけぞらない、力勝負で相手を押し切った方が勝ちと言う至ってシンプルな図式となった。
0.1秒で衝撃波が場内を埋め尽くし、0.2秒で突風が後を追って爆散した、そして0.3秒で決着がつく。
瞬間静寂、咲の剣が弧を描き前へ振りぬき、姫の刀が後ろへ弾かれる、その刹那の中…姫は一瞬微笑を浮かべる…。
「あぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
咲の技、神羅万象の円舞が発動する。円舞はズバンズバンズバンと軽快に9999ダメージを弾きだし姫のHPを1にした、しかしそれ以上HPは減らない。どうやらこの技は最後の一撃を入れないとHPが全損しない仕様になっているようだった。
剣は色とりどりのライトエフェクトを纏いながら一撃一撃でその色を変えてゆく。地水火風氷雷闇光地水火風氷雷闇光の属性攻撃を9999ダメージと表記しながら姫に与え続ける。
オーバーダメージを与えながらそしてゆっくりと時がスローになりながら光属性の撃撃が当たり大きく9999ダメージ入り姫のHPを0にした。姫は大きく吹き飛び雲の王国ピュリアの最上階にドカンとぶつかり城に大きな穴を開けた。
そこには全てを出し切って真っ白な灰になった咲の姿が悠然と立っていた。
ケンチャを倒した事によりエンペラーはスタンプを手に入れ、スタンプを押した、すると始まりの街には誰がスタンプを押したか一目瞭然のスクリーンがバーにあり人々は注目した。
だがエンペラー本人は咲の事を気にかけていた、そして咲が一人でピュリアの城まで行くのを確認すると後でこっそりと後をつけていたのだった。
あとをつけて…その先で見たのは信じられない光景、咲が金色のオーラを身にまとい、目にも留まらぬ速さで姫を圧倒している姿だったのだ。
戦闘が終わりあたりには静けさだけが残った、そして咲の目の前には【ゲームオーバー】という表示だけが残され、咲は強制的にゲームからログアウトすることになる所までエンペラーは目撃する。
◆
エンペラーが1個目のスタンプを取ったと言う噂は瞬く間にEMO内、いやネット内まで巻き込み、広まり、四重奏、ルネサンス、仮面舞踏会の面々にも届いた。エンペラーとコンタクトを取れるのがこの3ギルドしか居なかったことからエンペラーは、どうやってスタンプを手に入れたのか質問攻めにあった。
エンペラーはケンチャを三日間寝ずに倒した事を話すと場は沈黙したが、エンペラーにとっては咲が何をしたのかの方が気になっていた。突然ログアウトしたサキの安否を確認する方法は無かった、電話番号は聞いてないし連絡が取れない。家も咲が知ってるだけで遊歩は咲の家を知らない、ついでに先生に咲の家の住所を聞く勇気もない。
よって安否を確認するには翌日学校へ行くしかなかったので流石にその日、近衛遊歩は学校へ行くことを決意した。
天上院家。天上院咲と天上院姫は同じ部屋で眠っていた、そして目覚める。
能力の制約通り二度とゲームを出来なくなった咲は〈シンクロギア〉を外し姉の方に近寄る、強制的にログアウトしたのでこうすることでしか会話が出来ないからだ。そうまでしてでもフェイの能力を変えたかった、そうしないと納得できなかった、次へ行けなかった。
「お姉ちゃん、約束通りフェイの設定変えてもらうよ」
そう言うが姫の方が起きない、声をかけたのでEMOの世界に居る姫にはメールでお知らせが届いてるはずなのだが。それでも返事がない、ウンともすんとも言わない、動かな。
「………ヘルメット外すよ」
そういって咲は姫のヘルメットを外す、すると驚くことに姫は大量の汗をかいていたのだ、普通〈シンクロギア〉で遊んだところで汗なんてかかない。子供がゲームのコントローラーでどんなに遊んだとしても手汗こそかくかもしれないが全身汗まみれになることはない、そして姫はぐったりしている。
「お姉ちゃん?」
「ん……おお……、咲か……おはよう」
寝ても居ないのに適当におはようと言いはぐらかす。
「お姉ちゃんどうしたのこれ……すごい汗……」
姫はゆっくりと起き上がる、が、手がおぼつかづ震えている。ガクガクガクガクと…。
「なに……咲はシステム上大丈夫な《通常通り》動いただけさ…でも私は違う…システム上大丈夫じゃない《異常》に動いただけさ…約束通り設定は変えよう…」
咲にとってはスヤスヤ眠ってられる状態でも、姫は念波を使い極限状態まで神経を使っていたことから。真夏の炎天下の熱い日差しの中、部活動などで激しい運動を続けている時と同じような状態になった。
「具体的には軽い脱水症状だ…なあに少し水を飲んだり寝れば…これぐらい…」
そういって姫は倒れた。
「……お姉ちゃん! ……お姉ちゃん!」
(これも咲のためなんだ……咲が成長するため……咲の為……咲の為……咲の為……ッ)
その後救急車を呼び親には「ゲームをやってて脱水症状になった」としか言いようがなかった、よって当然のごとく姉妹二人とも仲良くゲームは取り上げられた。
翌朝、学校で近衛遊歩/エンペラーに質問攻めにあった、主に私達姉妹喧嘩のことを散々聞かされて。そして姫同様あきれ返る、普通ゲーマーなら感情移入さえすれ設定を変えようなんて思わないからだ。これはつまり咲にしか出来ないことだ。
「そうだったのか…」
「うん、だからもう私はEMOはやらない、ていうか二度と出来ないの」
「じゃあ飛空艇ノアは僕が勝手に使っちゃうけどいいかい?燃えたけど、修理の見通しはついてるから」
「うん、いいよ」
「メインクエストも進めちゃうけどいいよな」
「やれないんだからいいよ」
「他のギルドの奴らになんていえばいいんだよ…」
「ありのまま言えばいいと思うよ、私たちは姉妹で、姉が運営で、妹がバカやったって」
「それで誰もやった事が無い秘奥義の代償マックスの全ステータスマックス状態になったって」
「笑っちゃうよね……」
「いやいや全然笑えねえよ…それならそれで本当にゲームが出来なくなっちゃうシステムのほうが可笑しいぜ、運営に訴えようぜ」
「……」
咲はただただ学校から映る窓から見える空を眺めるだけだった。




