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少女は異世界ゲームで名を揚げる。~ギルド『放課後クラブ』はエンジョイプレイを満喫するようです~  作者: ゆめみじ18
第17章「第3回EM大会」西暦2035年7月22日

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第331話「7月21日LEVEL12」

 ゲーム運営長、猿山坂尾はテンパっていた。

 どうやら上限レベルでトラブったらしい。


「というか、レベルのシステム設定は、ゲーム運営長の会議レベルで。先に決めておいてくれないかね? そんな細かな数字に割ける時間は無いのだが」


 日本国代表、今泉善次郎の言葉だった。運営長もこれには苦虫をかみ潰す。


「おっしゃる通りでございます。今、急遽。何が問題だったか。設定変更を見直し、レベルやパラメーターの調整を……」

 天上院姫社長も、人ごとじゃ無いが他人事のように呆れる。


「おいおい大丈夫か? 数字を決めたいのは結構だが。わしらが決めねばならんのはもっと大事な数字のはずだぞ?」


 凪ノ唄夜鈴が判らないので話に突っ込む。


「決めなければならない数字って?」


「例えば予算とかじゃな。ステータス管理も、運営が生きていく支払いの管理計算が出来てないと、生きていけんしな」


 夜鈴は納得する。

「あぁ、つまり時給の計算ね。出来高制は知らないけどさ……あとは出資とか?」


 湘南桃花がジョン・サーガへと投げかける。


「ところで、私の実験にかけられた出資が1億ドルだったっけ? あれってこのゲームの運営費にあてていいの? 何か話の前後から察するに。1億ドルの出資って嘘じゃ無さそうに思えるんだけど……マジなの?」


「話が先に進まないので。本気だと釘を刺しておこう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それで動いてくれ」


 1億ドルとは、日本円にして110億円である。あくまで目安だが。

 桃花はそれを聞いて「じゃあ3億円だけもらっとくわ」と謙虚に答えた。全然謙虚じゃ無いが。姫社長に話をふる。


「残り107億円でゲーム作って、姫ちゃん」


「おいおい、お前マスターどころか出資者になっちゃったのか? というか、アメリカは100億円くれたのに。日本は0円ボランティアのまま押し通る気なのか? 堅実に勇気も無い、当たり障りの無いつまんない政治家よ」


 無責任であるが故に言いたい放題な挑発である。

 日本はそのような挑発行為には乗らない。


「我々日本は、成果に見合った対価を必ず払う。それだけさ」


「お堅いねえ~」


 桃花が軌道修正に入る。


「あ、で業務運営長の舞姫さん。1年に1億円を支払えるような感じでゲーム作ってみて。10年間は利益出なくても私が面倒を見る。それで運営・開発陣には働きかけて計算してちょうだい。それが、現実世界の上限レベル」


 大盤振る舞いも良いところだった。ボランティアで成果が出なくても100億円あげると言っているようなものである。


「かしこまりました」


 姫も姫で、お金巡りの事には無頓着だが。桃花の度胸にも感心した。というか呆れていた。


「お前もお前でゲームに命かけてるんだな」


「初めからかけてるわよ。というか、3億円はもらっとくって言ったじゃない。人生を平均的なサラリーマンの収益あったら。それ以外は趣味に全部賭けるっていう大馬鹿なだけよ」


「本気で貯金0に円になった覚悟で。最高の成果を出した人間は違うね~」


「他人事のように言うわね……」


「じゃって、他人事じゃし~」


 最高人工知能、シアンは「おいおい、喧嘩は会議の終わった後でやってくれたまえ」となだめる。


 三ツ矢と不動武が、ひそひそ話で声を出す。


「これ、何の集まりだったっけ? 同窓会?」


「ゲームのバージョンアップの話だったと思うよ。出資者がいるせいで話がおかしな方向へ行ってるけど」


「だよな、ゲーム内の話に行かねえ……」


 姫は善次郎に食いかかる。


「え、で。日本はマジで出資してくれないの~?」


「なら。湘南桃花の出費額を3億円までカバーする。姫社長、キミの挑発には乗らないが。桃花くんの人生を悪魔のゲームで無駄にさせる行為は断じて許さん! それだけは私が保証しよう。これは真面目な話だ」


「ふん! あ~あ~良かったな~桃花~お前がバカ~真面目で~」


「あんたも少しは自重しなさいよ~!」


 三ツ矢が桃花と姫を「だから喧嘩するなって! 子供か!」となだめる。


「は~。しょうがない。ゲームのバージョンアップのオーケーを出す会議なのに。その内容がまとまってないんじゃ話にならん。猿山、1時間でまとめるのじゃ~~~~!」


「は! はいいいいいいいいいいいいいいい~!」


 猿山はゲーム開発の会議室へ直行した。

 姫社長は号令を取る。


「はい、んじゃ1時間後。時間を改めて開催する。それまで各自休憩~~~~!」

 ――カンカンと何のかは判らないが(つぶて)を鳴らした。


 ◆


 ゲーム運営会議室。

 ゲーム運営長、猿山坂尾は怒っていた。

「いったい何があったのかね!? 会議で私は赤っ恥をかいたではないか!?」


 と、返したのだが運営Aからは「運営長の恥より作品の質ッすよ」とのこと。


「で? どこでつまずいたんだね!?」


「簡単に言うと。このゲームにレベル100もいらない。130なんてもってのほか。このゲームに最適なのは最大レベル6か12のどちらかだ! で、運営内でももめてて~」


「れ! れれれレベル12が最大!? ちゃんと理由を言ってくれ! でなきゃ私は上司になんて説明すれば良いんだ! 『何となく』じゃダメだぞ!」


 中間管理職の板挟みに会い、困っている運営長であった。「何となく」であのメンツを納得させられないのはごもっともである。


 運営Aは運営長に長~く説明する。

「まず、このゲームはトランプなんですよ。数字が大きい方が勝ち。何なら13番からジョーカーまであれば完全にこのゲームは動く。レベル100もいらない。ましてや上限130とかバカのやることです。桁が1個大きい分制御不能だし。それが何万人と遊ぶ。無理です。ここは王道に13枚とジョーカーだけで良いです」


「さっき上限レベル12まででいいって言ったじゃないかね!? 13とジョーカーは何処へ行った!?」


「それでだけじゃ無いっす。時計の時間も12時まで。将棋の駒なら20枚対20枚ですが。このゲーム。EWO2は『時間と空間』、ていう全然昔から変わらない絶対数字があるんす。これをずらすとそもそもEWO2じゃなくなる」


 運営長は。「た、確かに社長は時間には厳しいからな」とそこは納得できた。今は『空間』を作るのにお熱だが……。


「だから全体的に観て、このゲームは世界基準の数字を基準にした方が良い。で、6だと少なすぎるし12だと多すぎるんじゃないか? という議論になってたわけです。どうします運営長、6と12。どっちの数字を選びます? 我々では決められません。最終的な意思決定は運営長にあるんですから」


 なるほど、真剣にゲーム運営陣がもめてたのは理解できた。そしてここは、社長の意思をくみ取る場面。


「な……、【長くゲームが出来る方】はどちらの数字かね?」


「それなら12です。時計的にもぐるっと1週するし、トランプなら13番の次はジョーカー。最弱が勝つ逆転劇が遊べます」


 ならもう、決めるべき数字は決まってる。

 運営長は声を荒げて言った。それはもう社長へ届くような声で。


「レベル上限は12だ!」


 ◆


 神道社総合委員会、会議室。


 ゲーム運営長は言った。言い切った。

「と、というわけで私はレベル100の上限を()()()()。上限レベルは12で行くべきだと考えます!」


 社長、天上院姫は言った。

「それはお前の意思か? 運営長」


 返答を間違えれば自分の首が飛ぶ。

「私は! 私は! 自分の部下を信じるだけです!」


 勇猛果敢な返答だった。

 姫社長はほっぺたを膨れるが。ただ「何となく」で通らない会議だというのも十分承知の上だ。


「ま、変えちゃいけない理由がちゃんと立派にあるのなら。それでいいか。では全てのプレイヤーにそのレベル上限にすると告知しても良いんだよな? SGE。最上級ゲームマスター実行を使っちゃうが良いかい? 他のメンバーの意見は?」


 何だかんだガヤガヤ騒いだが。12は時計の天文学的な数字だ。そう簡単にその理論を覆す論破は。お持ちでは無かった。


「ちょっと待って~!」


 2代目マスター、湘南桃花が手を上げた。


「ここで決定したら。レベル12で。もうほぼ変えられないんだよね? だったら、名前を豪華にしたい。ズバリ! 上限レベルは『LEVEL12』まで! とか」


 姫がきょとんとする。

「『レベル12』を『LEVEL12』に? わざわざ文字数を大きくするのか?」


 湘南桃花は食い下がる。そこに何の意味も無い、ただの字面。格好良さ。雰囲気の問題だった。


「豪華にしたい! 決定で良いから外連味という名の味付けをしたい!」


 結構軽くない変更点に、動揺する社長。レベル、と言うたびにLEVELにしなければならないのは。結構重い変更点だ。だが、豪華で目立つ。は同意見。


「ま、豪華にする分にはいいか」


 ということで多数決に入った。


「では、多数決!」


《多数決に入りました。賛成8、反対3。以上により可決されました。》


 神道社社長、天上院姫は号令を出す。

「では、コレより。EWO2の【上限LEVEL12】だと。最上級ゲームマスター達の実行をここに決定するぞい!」


《スーパーラティブ・ゲームマスター・エクセキューションを発動しました》


 ◆


 会議終了後。姫社長は解散したあとの中、桃花に言い寄る。なんだかんだで仲は良いのだ。この2人は。


「何か最後に変なのを盛ったな」


「いいじゃん、格好いいよ」


 湘南桃花にとってはその見た目こそが大事であって。システムの機能性の羅列は二の次であった。それは漫画に例えると。フキダシの中の文字よりも絵の方が大事。のような見栄えを意識した回答だった。


 他のメンバーは見た目より性能を重視していたが、桃花にとって見た目の重要性は先んじるべきものがある。観てもらわなければ意味が無い。そんな執念にも似た。LEVEL表記だった。


「あんたこそ、軽くオーケーしてよかったの? LEVEL12」


「軽くは無いさ。皆がみんな、うんうん唸って。考えた末の結果なら。私のゲームマスター権限より重いのは道理じゃないかね桃花っち?」


 妙に茶目っ気のある雰囲気で返された答えは。可愛らしく、愛くるしい仕草で桃花の心をくすぐった。


 キュン。というか、ピク。というような心の反応。


「あ、そういえば明日からイベントね。何やるんだったっけ? 面白そうなイベントだといいな~」


 などと、エンジョイしようとしていた桃花に対して。姫が返してきた返答は。


「第3回エレメンタルマスター大会じゃ」


 だったので、ちょっと所ではない面を食らった。

 その事の重大さに湘南桃花の瞳孔は開くが、同時に呆れもする。


「会議の内容にしたほうが良かったんじゃない?」


 何にせよ、あとの祭りであった。



 ゲーム運営会議室。

 ゲーム運営長、猿山坂尾は喜んでいた。


「いやー良かった良かった。会議で怒られずにすんだ! それもコレもお前ら社員が皆優秀で何よりだよ!」


 そんなことを話していたが、運営Aが「ところで」となんだか嫌な返答が帰ってきそうだった。


「何を基準にレベルアップとするんですか運営長?」


 運営長は顔面蒼白になった。と同時に、危機感がワラワラワラとこみ上げてくる。


「それを決めるのがお前らの仕事だろー! 何だ!? じゃあ私は中身のない箱を出して! 商品をオーケーしてもらったのか!? 『中身ないですよ』てバレたらどうする!?」


「だって運営長勝手に会議開いちゃったし……」


「だってもさってもないだろ! 今すぐ中身を作るんだ! 今夜は寝かさないぞ~!」


「寝かさないって! 明日イベント始まるんですよ!? 全部直せる時間ないですよー!?」


 運営BCD達は、「俺達はいつ寝れば良いんだー!」と大声で叫んだ。それが社内に木魂した。


「プレイヤー全員の今までの経験値から、LEVEL補正を変えるんだ! 大会始まってしまったら仕方ない! フェーズ間の休憩時間の時にメンテだ!」


 ◆


 西暦2035年7月22日17時30分。

 EWO2、イベント。

 ワールドクエスト『ダブル王国VSデュオ王国』。

 3C地区、ギルド中央広場。


「やっほーサキお姉ちゃーん! 今度は僕が相手だよー! やったね! 遊べるー!」

 凪ノ唄蒼葉は天上院咲と戦闘を開始した。

 と、その時。ピロリンとアナウンスがウインドウ画面に流れた。


《運営からのお知らせです。フェーズ2終了後に、メンテナンスを行います。それまではレベル上限は130です。引き続きEWO2をお楽しみください》


「つまりどういうことだってばよ?」


「つまり、フェーズ2までは【何でもあり】てことだね! お姉ちゃん!」


 ショタっ子蒼葉っちはうっきうきだった。


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