第329話「天翔る光の矢」■
現在、わかっている範囲で、各国のギルド構成はこのようになっている。どのギルドも、くせ者揃いでSランク以下のプレイヤーの間でもどちらにつこうかで迷い、割れている。
【ダブル王国】
最果ての軍勢/四重奏/アベンジャーズ/放課後クラブ親衛隊/非理法権天/方陣 東西南北/世界観探索隊
【デュオ王国】
神道社総合委員会/スーパーヒーロー戦団/脳筋漢ズ/夢の国&中華国同盟/放課後クラブ/金色の八咫烏
しかし、夢の国&中華国同盟による快進撃により。デュオ王国が優勢であることには変わりは無い。
よって、そのおこぼれをもらい。あわよくばクエストクリアボーナスを狙うもの達はデュオ王国へ自陣を進めるようとする。
ちなみに、早速デュオ王国では。勝ったときのマスター。第3回エレメンタルマスターは誰にしようか? という論争が始まってきた。これだけ優勢色が強いと当然そのような会話になってくる。
そうなってくると。今回の夢中同盟・放課後クラブ・金色の八咫烏。それぞれリーダーの名前が、上がってくる。ヤエザキが知っている限りでは。蒼葉くんとさっき戦った。アリスの名前が掲示板で出てくる流れを見守っていた。
そんな中、金色の八咫烏の会話は弾む。具体的には互いの連携体制についての意見交換が行われていた。
初めに口を開いたのは湘南桃花だった。
「オーバーリミッツ、ちょっと速く歩きすぎ。もうちょっとゆっくり歩いて。私の意識と同じ捻出した通りの速度だと。私がその思考に引っ張られて、誰も幸せにならない」
オーバーリミッツはコレでも十分歩幅を桃花に合わせていると思っている。いや、どちらかというと合わせ過ぎている風潮さえある。
「あれ? どこら辺が不満なの? 考えを察することは出来るけど。何処までがオーケーで何処までがノーなのかよくわからないわ」
「少なくとも、情報公開日は私が意図したタイミングじゃないと私が焦っちゃって困る」
という自分勝手な内容だった。
ちゃんと話せば、ちゃんと答えてくれる。
ちゃんと言えば合わせてくれると、今では何となく判っているので。ちゃんと桃花は言うことにする。
「考え事は、リアルタイムでの捻出は、ある程度仕方が無い。でも私の操作出来る情報は、私が決めたタイミングで合わせて公開してくれないと、私が困るって話なのよ」
例えば、ツイ〇ターだと。考え事、程度の漠然とした内容は。別にリアルタイムでも問題無い。ネタを先に取られたような風潮になってしまうかもしれないが。それはそれで仕方ない。
しかし、桃花がツイ〇ター用に暖めた。手で書いた内容・成果物を先にツイ〇ターに公開されるのは困る。と言う話なのだ。
予約投稿だとしても、そこは同じタイミングでネタを同時公開してくれると助かる。と言う意味である。
1週間後に公開する用に作った成果物を「一歩先を行きたい」や「これが今日桃花が考えた内容だから」だと思ってその日のうちに情報が公開されてしまうと桃花が焦って。速く走ろうとして。困る。
一歩先に公開したいのだとしても。成果物に関しては、予約投稿日の同日。または同時間にして欲しいという内容だった。
「そうしてくれると、私がストレスなく安心して予約投稿できて。情報の相乗効果が狙えて皆ハッピーになれる。と思う。……お願いします」
桃花のお願いだったら断れないオーバーリミッツ。善意が裏目に出ているのなら、そこは直さなければならないところだともリミッツは思った。
「わかった。つまり。完成原稿の先取りはだめでも、エスパーな内容や。雑談部屋の内容は情報としてお先にどうぞ。と、ネットに提供しても良いのよね?」
「そこは、オーケーだわよ。雑談内容を知ってもらわないと、話の前後が見えない時があるから。辻褄合わせの齟齬は避けたい。そこは……はい。オッケーです」
どうやら主導権はいつもオーバーリミッツに握られているらしい。別に、「同日に同じネタを一緒にやりませんか?」と言っているわけでは無くて。桃花はリミッツのクオリティを心配しているのだ。
合わせて同じ内容を一緒にツイートするのは、別に悪くない。それは良い意味で競争が出来る。しかし桃花が作った成果物を、1週間先にリミッツに公開されるのは納得いかない。……そういう感じだ。つまり桃花はリミッツにも『ネタを寝かせる』習慣を作って欲しい。と、言っている。
合唱で一緒に歌う感じの相乗効果。奏でるハーモニー。それを桃花は狙っている。
というか、今の歩くペースは、正直言って速すぎる。
毎日、2000文字から3000文字を更新は。リアル。現実世界をおそらく、皆犠牲にしている。
もう、今さらという感じもあるかもしれないが。全員、全体的に速すぎると桃花は思ってる。
「そっちのタイミングの都合上、今じゃ無いとイケない。とか事情が無い限りはそれでお願い。いやお願いしますマジで。マジで困るから」
「……わかった。掲示板にリアルタイムで書き込むのはやめとくことにする」
ほっ。と、安心できた湘南桃花。これで変なズレは解消されるだろう。話せばわかってくれる相手なのだ。
むしろ、ちゃんと言わないと解ってもらえないのが玉に傷なのだが。これでいい。こうでなくてはならない。
「じゃあ、今ここで起こった事は。桃花は1週間後に情報解禁したいから。私も1週間後まで暖めて。という事なわけね」
「うん、成果物だけね。他は別に良いから。リアルタイムでも問題無いっス。私達、金色の八咫烏の思考・考察・行動は別に情報公開しても良い。ただ一つ、私の成果物の先取り公開だけはやめてほしい」
と言うわけでお互い了承できた。よかったよかった。
一番危惧しているのは。よかれと思って一歩先に行動して。それに感化されて、焦って中途半端な内容を桃花自身が世に公開してしまう事である。それを一歩先にやって……だと、よかれと思っても、その行動が悪循環になる。それだけは避けたいのだ。
という、掲示板による情報公開のタイミングの話だった。タイミングは操れる。無理に新鮮な鮮度で出す必要は無い。ナマモノじゃ無いんだから。
適切な時と場所とタイミングで出す。出せる。
タイミングこそが重要な事案なのだ。
「さてと、休憩時間が終わって。第2フェーズが始まるわね。うちらのギルドは何かする?」
と、アリスが2人に今後の作戦を投げかける。
特に3人とも明確な目標や目的があるわけでも無いので。2人とも「待ちでいいんじゃない?」という返答だった。来たら返り討ちにする。今は陣地的に優勢で、勝っているからそれでもいい。これ以上、もっと攻めるという手立てもあるが。それをするメリットも無い。
つまり、防御態勢に入った。
カウンター狙いとも言う。
場所は3Cエリア、ギルド中央広場に居る。
ギルド本部3階建ての屋上に3人は居た。
方位の位置的に言うと。東と北は敵陣地で。
南と西は味方陣地がある位置である。
「んじゃ、行きますか」
《ただいまより。第2フェーズ開始となります。皆様各自、タイミングのほどを気をつけてください。》
人それぞれ事情があってタイミングが違うのだろう。
全く同じタイミングでよーいドンは出来ない。
それは重々承知である、と運営は気にしている。
そんな中でのスタートだった。
――パアン! パアン!
開始の合図である軽い花火音が鳴る。
それと同時に。どこからか。遠くから、無数の点が見えた。点はやがて線となり。放物線を描きこちらへ飛んで来る。沢山、それも沢山だった。
満天の線は全て剣。
〈天翔る光の矢〉が、こちらへ向かって飛んで来る。
ダブル王国陣営からの〈剣の雨〉攻撃だった
「敵襲! 敵襲ー!」
「剣の雨だ! 皆、建物の中へ避難を!」
「くそう! ここには一般人NPCも初心者プレイヤーも居るんだぞ!? いくら戦闘中だとは言え容赦なさ過ぎだろ!?」
「全員避難しろ!」
「退避! 退避――――!」
「バリア張れバリア! 魔法使いは居ないか!?」
ザァアアアアアアアアアアアア――!
どしゃ降りの大雨が降る、剣の大雨が集中豪雨となって飛んで来る。
それはもはや、点でも線でもなく面だった。
しかもただの剣では無い。落ちてきた剣の一本を拾った兵士が驚愕する。
「これは! ……宝具!? しかもどれも上質な宝具!? こんなに沢山! 雨あられじゃないか!」
「こんな武器量を一体どこから!?」
「あるじゃ無いか……、武器が腐るほどある場所が。3Eエリアの十字の墓地。あそこには英霊達の剣という剣が地平線一杯まで突き刺さってる」
「初級のバリアじゃダメだ! 全部貫通してくる! うわあ!? 痛え! 退避する!」
そんな剣の雨の中。アリスは上級魔法をドーム型に展開して平気な顔をして、しのいでいた。
「仕掛けてきたわよ? どうする? 戦う?」
「て言っても、徒歩で3時間かかる距離から剣の雨を飛ばしてきてるから。敵兵も見えないし……」
「まだ様子見かな。敵兵がこのエリアまで攻め込んできたら迎え撃つ」
桃花とリミッツが交互にアリスの質問に返答すると。「了解」と、バリアを維持。張り続ける。この程度の魔力消費は痛くもかゆくもなさそうだった。
◆
ヤエザキは面白いアイディアはあったが。そもそもスキルや装備品やらは全部、凪ノ唄蒼葉君にあげちゃったから。スキル〈合唱アルティメットプリンセス〉も無いことを忘れていた。
ちなみに、アリス戦で見せた〈エボリューション・極黒〉はレベルが101だったので普通にレベルアップで覚えたという風である。
だが、同じダブル王国の使者。四重奏の浮遊戦空にも同等のスキル〈バタフライ・ソナダー〉があったので。〈合唱〉をすることには成功していた。
よって、スキル〈天翔る光の矢〉は戦空が単独で発動して仕掛けた攻撃である。
1マス向こう側への超長距離攻撃。まさに天災。その規模が大きすぎる攻撃は。どしゃ降りな天候が、過ぎ去るのを待つしか出来なかった、無力なデュオ陣営は一般人プレイヤーとなるしかなかった。
この、超長距離攻撃による奇襲ににより。デュオ王国の敵陣営。約2割を削ることが出来た。
2割の敵陣営はリスポーンしたのでデュオ王国からのやり直し。死に戻りからのスタートである。
なのでギルド中央広場に再結集するには、まだ時間がかかるだろう。
ギルド四重奏。将護三ツ矢の突撃命令が下る。
「よし! 一気に前進するぞ! 他エリアのプレイヤー達にも今が好機だと伝えて攻め続けろ!」
『ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』
「いや~流石にこの人海戦術だと、景色も圧巻だね~術と技が乱れ飛ぶー!」
ギルド『四重奏』の明浄みことは、どこか他人事で上の空である。
これらの作戦行動の全指揮の発案者はヤエザキである。本当は自分で光の矢を満天に飛ばしたかったが。スキルが無いんじゃ仕方が無い。考え・教えるだけで精一杯の行動制限だった。
ヤエザキは恐る恐る農林水サンに聞く。
「まずは奇襲作戦成功?」
「じゃな、奇襲は大成功じゃ。ま、ここから先はわからんがな!」
こちらもまた他人事である。実際ゲームマスターで運営なので他人事なのは当然なのだが……。いかんせん気が抜けている。
あとは、野となれ山となれ。といった感じだろう。安心して前進は出来る。
と、その時。
「ん? おい、何か飛んで来るぞ?」
「え」「あ!」「まさか!?」
そのまさかである。
〈天翔る光の矢〉が、ダブル王国に向けて飛んできたのである。いわゆるお返し。逆襲である。
ヤエザキは「しまった!」と慌てる。
「もしかして! これ、蒼葉君の合唱攻撃!?」
「もしかしなくてもそうじゃろ!? 合唱系のスキルは戦空とヤエザキしか持ってなかったんだから!? ヤエザキがスキルも蒼葉くんにあげちゃったし!?」
満天に広がる剣の雨のお返しに、ヤエザキ達ダブル王国は大パニックである。
やったらやり替えされるを地で行ってしまった。
「ぎゃー!」「わあー!?」「ちくしょうー!?」
「何でこんなことにー!?」「助けてー!」
「ヤバイヤバイヤバイ! コッチの陣営が壊滅しちゃうよ。バリア! ……もないし……! ぬわー!」
ヤエザキも宝具による刀剣のダメージを受けてしまう。準備不足のレベル不足も良いところだった。レベルだけなら101かっこ〈低レベル詐欺〉をしているけど。
だが、フェアリーマザー・ドラゴンが居るので。バリアで剣の雨を防ぐ事には成功していた。
「撤退する? 前進する?」
農林水サンがヤエザキに問いかける。
「こ! このまま前進! またリスポーンしてたまるもんですか!」
技量と根性で正面突破することに決めた。
ヤエザキと農林水サンは。フェアリーマザー・ドラゴンに乗り。剣の雨を抜け。赤い彗星の速さで。およそ3分で敵陣地の中へと飛び込んで行った。
「さぁ! 最終決戦のつもりでいくよ!」
勢いよくドラゴンの背中からジャンプして、ヤエザキは飛竜から飛び降り。かっこをつけてヒーロー着地で降り立った。
「敵だー!」「全員かかれー!」「うおおおおー!」
ヤエザキは臨戦態勢に入ったので心踊る。
「うわー無双できそう! いっちょやったるかー!」
と、勢いよく前進した、その時!
ドカン! とかっこつけてヒーロー着地をする、見慣れたショタっ子が1人……。
「あー! 蒼葉くん!?」
「やっほーサキお姉ちゃーん! 今度は僕が相手だよー! やったね! 遊べるー!」
お花の魔法剣士をモチーフとした装備品は。ヤエザキのお古なので、子供用&男の子用に衣装がカスタムされていた。色は青。
現在のギルド『放課後クラブ』のリーダー。
凪ノ唄蒼葉くんが、ヤエザキの対戦相手として立ちはだかる。
豆知識_第329話「天翔る光の矢」
分類◇スキル_合唱系_十字の墓地
合唱系スキル〈合唱アルティメット・プリンセス〉か〈バタフライ・ソナダー〉を十字の墓地にて安置されている宝具を使用すると使える。スキルの中のスキル。やってることは剣を雨あられのように降らす技。ゲートオ〇バビロンみたいな感じ。発動条件は固有結界でも何でも良いから、沢山の魂が眠っているところ。




