第322話「低レベル詐欺」■
「ところで咲、お前って今レベルいくつなんじゃ?」
ちょっと言いよどんでから「えへへ」と返す。
「レベル16ぐらいから数えてない」
数えてない。
「ん? でも経験値は入ってるよな? 今までの経験値はステータス的にもログ的にも蓄積はされてる」
「それが~。今の今まで経験値放置してて~どうしよっかな~って考えてたらここまで来ちゃった」
あははと笑っている咲、あははじゃないぞ。ちょっと大変な事になってるぞ。
「つまり、今レベル16の状態で。75万文字のログを持ってる最長文学少女で、アノ噂の浮遊城第100層をクリアして。アリス関連の戦場にもひょっこり顔を出してて。吸血鬼大戦の余波? 波紋を受けてもケロッとしてて。この世界のゲームマスターとまともに喧嘩してもケロッとしてて。あれよあれよと経験値の事を放置してスキルとかいっぱい持ってて。レベル16のままと……」
「うん!」健やかな笑顔
「うんじゃねーよ! ゲームバランスぶっ壊れてるじゃねーかw 普通のプレイヤーって初心者なのに俺ツエエやってるのに! お前逆! 私ヨエエって言っておきながら実は無自覚最強やってる感じだぞ!」
「でもさでもさ、お姉ちゃんだってレベル1で〈パリィ〉で上手くやってたじゃん。プレイしてたじゃん」
「お前……それは技術があるから出来るんだぞ? 軽く低レベル詐欺してるじゃん?」
「……、え……えーっと……」
悪い冷や汗が流れる。
「は~。しょうがない、修正しよう。お前が良くても他のプレイヤーに示しが付かん。まず、お前の経験値を全部レベルにぶち込んで」
「う、うん」
全部の経験値をぶち込んだらレベル75だった。
「ここに、探索ボーナスや、初発見ボーナスや、初見クリアボーナスや、ラストアタックボーナ。あとは各種クエスト初クリアボーナス、もなども付与すれば」
《サキはレベル101になった!》
「よし、これでレベルの矛盾は無くなったな。少なくとも浮遊城第100層攻略してるのにレベル100行ってないんじゃ他のプレイヤーに示しが付かん」
「ごもっともで……」
ごもっとも過ぎるレベルエラーの論説が続いた。
「しっかし……、100層クリアと75万文字のログでレベル101……てまだ釣り合わないぞ。……どうする? なんかアビリティでも付与して誤魔化すか?」
「誤魔化すって、人聞きの悪い……ていうかお姉ちゃんもレベル16ぐらいだよね?」
「私は運営権限とか、ゲームマスター権限とか、社長権限で説明つくんだよ。だがサキはゲームをやってるから説明つかん」
「あ~ちゃ~」
「……仕方ない。アビリティに〈低レベル詐欺〉を作ってやろう」
ゲームマスター権限で作られた、半ば称号とも呼べるアビリティはバージョンアップ後のアップデートという形で。プレイヤー全員のシステムに可能性として埋め込まれた。
「よし! これでレベルを放置してても。自然なレベルに後付け修正できる」
妹は喜んで良いのか悲しんで良いのか微妙な心境である。
「あの、嬉しいアビリティ何だけど。その。名前が」
「なに、単に事実じゃ。こういうのは偽らない方が真実味が増していいんじゃよ」
「そんなぁ~……」
しょんぼり顔になるサキ、仕方が無い。これだけのとをやっていてレベル16じゃ誰に対しても示しがつかない。
なので、これから先は。経験値ボーナスにボーナスを付けるアビリティにより。何をやっても「これくらいやったのなら妥当だろう」という経験値がもらえる。という事になった。
「う~ん。言葉選びに数字の有無って本当に難しいんだねえ~」
「ほんと難しい。100層とか100人とかだけでも難しい。そう思うよ。まあ、本に書いてあったが。それがゲームの醍醐味だしな。迷ったら数字とにらめっこするのがゲームじゃろうて」
「あ~なんか。久々にゲームしてる感じがしたよ」
「最近、物語が辛辣だったしな~」
ということでゲーム探索は続く……。
△豆知識『低レベル詐欺』
分類◇アビリティ_農林水サンカスタム_システム改変
解説◇経験値を長時間の間、何にも付与していない者に与えられる。レベルと実力が不釣り合いな状態に入手可能。これをアビリティとして装備していると。各種ボーナスに更にボーナスが付き。レベルや武器、その他経験値を使う時に倍々的に「このプレイヤーならこれくらいのレベルじゃないと不自然だ」という所まで経験値を自然になるまで押し上げる。手に入れた経験値を放置する時間が長いほど、倍々的に得られるボーナスは増す。




