第320話「同意制魂初期化時空」
同意制魂初期化時空についての論文。 著者、天上院姫。
西暦2035年7月21日。
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ここでは、現実世界と、サザエさん時空の融合の世界観。についてを論する。
まず、サザエさん時空とは。
「時間の経過の概念はあるが、キャラクターが年を取らない」を発展した考え方である。 ある一定の期間が過ぎれば運営が時間軸を操作・移動し、それまでキャラクターは時間的概念はあるものの、《ログアウトすると初期化》される。と言うのが最初の発想である。
ゲーム内で死んだとしても、『風になる』か『輪廻転生』しIDアドレスは残り続けて魂は巡回する。これにより実質、《無制限時間経過》をゲーム内で過ごすことが可能となった。
ただし、それだといつまでたっても魂が帰ってこない現実逃避者が出てくるし。
デジタル世界で例えば100年間を過ごした膨大な時間的記憶を現実世界の人間が0秒で処理することは難しく。
通常プレイヤーは。【1分間で24時間】の時間制約をかけるなど対策が必要。
例 現実世界 仮想世界
Aコース:1分 :24時間
Bコース:7分 :168時間(1週間)
Cコース:28分 :672時間(1ヶ月)
Dコース:1時間 :1440時間(2ヶ月)
Eコース:5時間 :7200時間(10ヶ月)
そして、内部で時間経過したら。良い意味で初期位置データにリセットされる。
これは仮想世界の住民と現実世界の住民、両方の同意の上で成り立っている。
以上の動作を、これらのことをまとめて。
サザエさん時空の時空と、発案者である天上院姫の天から取り。
同意制魂初期化時空、略称、SHTと呼ぶ。
SHTのメリット。
◆作品内寿命の長期化。
高校1年生をターゲットにした場合、仮想世界を等倍速度だと365日×3年間の現実世界の物理的猶予がある。学校が終わり放課後と夕食のわずかな時間。そして宿題をする時間を考えたら。健全な高校生が長く楽しむのには限りなく限界がある。
何にでも物理的限界はありものの。長くて約3時間ほどのフルダイブでは。吸血鬼大戦、デート戦争のような体験は不可能であり。物理的な没入感は得られない。私はより深く、より楽しくこの世界と触れ合って欲しい。その思いでこの発想を考えた。
つまり、現実世界とSHTの融合。オンオフ切り替え可能な新しいフルダイブ環境の提供だ。
健康で文化的な高校生のフルダイブ環境が1日1時間のログインだとすると。
365日×3年間=1095時間となる。これが普通の高校生の限界値となる。
だが、1分間で24時間のSHTの体験だと。1時間のフルダイブで2ヶ月間の仮想世界体験を実現することが出来る。しかも予めゲーム内の内容は初期化すると同意した上で行っているので。魂寿命の消費はない。
このことから仮想世界で1日1回しかクエストに行けないとしても。60回はクエストに行き終わった後にログアウトが可能となる。しかも現実世界では1時間しか経ってない。
もちろん、大ヒットゲームにしなければ意味は無いことは十分に承知だが。個人で楽しむ分には約60倍のゲーム的な作品寿命を延ばせる。
SHTのデメリット。
◆仮想世界内の住民の人権問題。
今回は1プレイヤーのみの仮想体験を視野に入れているが。
これが大規模多人数同時参加型オンラインになると話はより複雑化する。
個別の部屋・フィールドを用意しているのなら話は別だが。
全てが地続きのオープンワールドオンラインの場合。
例えば100人が一斉にログインして、現実世界ではその1分後に24時間経っている。などは可能だ。
だが、このログインのタイミングが全員バラバラだったら? ログインした5分後にはもう5日経っているなどの問題点がある。
そして、仮想世界の住民の人権。いくら初期化する場所を予め同意して互いにプレイをしているとしても。物語を提供しているという自負を背負わなければならないし。一斉リセットは住民の記憶障害にも取られるし。何よりプレイヤーも混乱する。下手をしたら結婚して子供が出来る事例もあった状態で初期化してしまう。その時の子供の人権はどうなるのか? などだ。
まとめ
以上のことから、ネタの種としては優秀だが。まだ初期段階で実戦用ではない。
しかし、負荷を。1分を12時間、6時間、1時間と軽くしたらかなりの確率で実現可能だ。
以上のことを、同意制魂初期化時空、略称、SHTの報告論文とする。
著者、天上院姫。
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運営管理室・南側
「ふう……」
ある程度書き終わり。まとまったのでソレを印刷して、湘南桃花に見せる。彼女の感想はこうだ。
「まー確かに。1分間で6時間や12時間が妥当な所かしらね。24時間は流石にやり過ぎかな~と。あとこの発想だと、30分で結婚して子供作ろうぜレースとか、変な悪影響もあるかもしれない」
「おいおい、そんなこと想定してないぞ……」
「私が言いたいのは、夢はあるけど。それだけ問題の齟齬が大きいってことかな」
「ふむ~う」
「ま、作品内寿命の長期化は確かに魅力的ではあるけどね。私の時代にコレがあったらなあ~」
「お前の場合1週間がめちゃくちゃ長かったもんな」
中学生なら問題は無い、次は高校生があるのだから。だか、高校生の場合。それは大学への進学となる。少年向けのコンテンツ向けとしては致命的だ。
課題は山積みだが、そんなこんなで今回はお開きになった。




