第317話「第100層フルレイド4」
――瞬間、フィールド全体を〈絶無〉状態が襲った!
――刹那、農林水サンがソレに襲われた。
「サン!……いや! サチ!」
瞬間――サンの短剣はは粉々に砕け。反撃で右手で念波動を撃つ構えになっていたが、時すでに遅し。逆撃を受け、サンは有頂天の剣先に胸から貫かれた後だった。
――ドクン――ドクン! とHPがすり減り、そして……ピーというゼロになる音と共にサンのゲームは終わった。
ソレを一番悔やんだのは妹でも何者でもない。このゲームで全く接点の無い将護三ッ矢だった。大音響で響くその「サチ!」という言葉は、このゲーム内では誰も知らない。
『……たく、いい加減。場外乱闘も甚だしいぞ。なら言わせてもらうぞ三ッ矢』
ここで死ななければお前の物語は変わってしまうだろ? という建前は置いておいて本音を言う。今こそ、彼女はここでいう。
『正直お前のことなど覚えてない。が、誠ここまで来るのは愉快じゃった』
まるで今生の別れかのように……。
「……――!」
『迷いたきゃ迷え、散々迷え。じゃから形見じゃ』
――さらに刹那、サンは三ツ矢に剣のデータを渡す。
帰る想いで結ばれる剣。【帰想結マスターソード】そしてサンは言う。
『地獄だろうが天国だろうが好きに行け、じゃが。ちゃんと帰れよな』
今度の今度こそちゃんと言う。覚えていなくても、忘れてしまっても。今度こそ忘れないように。すれ違いの想いに終止符を打つために。ゴミ箱の王から立ち上がるために。
「サチ! ……サチッ!」
『おいおい、サチとは今生の別れだぞ。もっと言うこと無いのか?』
三ツ矢はそう言われて、しかし時間が無い。だから言うことは単純明快。
「――絶対に勝つ! 二度と負けない! 俺は、ここで誓うよ――!」
そう言われて。安心したように。瞳を閉じて、サチ・サンの魂は天へと帰って行った。
「忘れない、君がいる。ココにいる」
だから、負けるわけにはいかない。心は。もう折れない。
――――有頂天の初手、ゲームマスターのデッドエンド。
――瞬間、フィールド全体の〈絶無〉状態は解け。魔力が通常状態に戻った。
将護三ッ矢は涙をボロボロと流していた。が、空気を読まずに天上院咲は語りかける。
「あの、お姉ちゃん死んでませんよ? ちゃんと現実世界で生きてますからね? 何これギャグ? ここ笑うとこ?」
咲は手を呆けながら、三ツ矢を心配そうにアタフタしている。
「あぁ、わかってる。これは俺自身の問題だ……」
言って託された剣を握りしめる。だからもう迷わない。
「皆行くぞ! サンの想いは! 俺達が引き継ぐ!」
熱意と情熱と野心に満ちた眼差しは、どこか嬉しそうだった。
まずは一人目。
総勢34名の内、脱落者1人目。ラスボスは妥協も容赦もするつもりは無さそうだ。
◆
ここに来て、ステータス画面に有頂天の詳細データが飛び込んできた。
■有頂天の誕生秘話。●真・浮遊城の誕生秘話。●信仰無き神様が創造神へ。●孤独な人間から家族を愛する仙人へ。 ●創造神と仙人の融合体へ。●そしてアナザーヒメという有頂天へ。
このアナザーヒメは。もし信仰が無く、孤立して、愛を知らず、でも愛すべき妹を亡くした状態という。最悪の事態へ進んでしまったルートの集大成でもある。
というストーリーがあると、ステータス画面に表示されたが。それを熟読して検証する時間すら惜しい・無いというほどに有頂天の行動スピードは速かった。
わかったことをまとめると。
・スキル16連撃の攻撃が0.2秒で飛んでくること。
・全体デバフの〈絶無〉状態にするとステータス画面が開けなくなること。
・戦闘終了後に記憶デリートが行われること。
・生い立ちヒストリーなるものはあるが、ソレをみる時間がなさ過ぎること。
などがあげられる。見るだけ、としか指示されてない一般人。桃花が出来ることと言えば。これらの情報を攻略掲示板に書いて送信することだけだった。
ココまでが、戦闘開始から30秒後の出来事である。
前衛組が頑張ってくれているが。このままだと30秒ごとに1人ロストしたとしても。15分後には1か2人残ってるかどうかである。
以上のことから、制限時間切れまでに生き残れる可能性は無きにしも非ず。ということは判っても。ソレでボスのHPが0になるわけでも無く……。咲は前進するか撤退するかどうかの行動に頭が回っていた。
当然のように迷い無く攻撃態勢に入っているのは戦空と夜鈴である。0.2秒の攻撃も、何のスキルかは判らないが。全てはじき返して反撃に出られるほどの。有り余った戦闘能力がそこにはあった。
他にもギルド『非理法権天』のネームレスキングと仮面木人シェイクの召喚カードで。
ヒメとサチと三ツ矢のドラマティックな3人の連係攻撃など、見るものを圧倒する力があったが。他のメンバーも夢のドリームチームなだけあって、紹介すべき連携技は山のようにある。
あるが、それを全て説明しきるとなると。約30人分のクラスの動きを解説せよ。と言っているようなもので、とてもじゃないが無理だった。咲に出来ることは、咲の周りにいる人々との連携・連隊を紹介するのが限界だった。というか彼女の視野はそこまで広くないわけである。
「このメンツだと、後衛かな。レベル1でカード使いじゃ前衛の邪魔になるし……」
咲の判断は概ね正しい、スキルや装備は蒼葉くんにあげちゃってるので。どうもこうもあの子に頑張ってもらうしかない。
元々レベル上げどころか、システムを作るのが途中な状態での参加だ。どうやったってろくなことが出来ない。せいぜい出来る事といえば。味方のHPが全損する前に、回復アイテムを投げつける事ぐらいである。地味だし派手さは無いが、これが彼女の今の現状を踏まえての、一番の得策であった。
「満タンのくすりだけは一杯あるもんね!」
頑張りたいけど頑張れないから頑張れる範囲で頑張る。実に彼女らしかった。
「というか、動きが速すぎる。目で追いつけないくらい速い……」
そこで桃花のアドバイスが飛んできた。
「〈凝〉を使いなさい! それで少しは魔力の流れを感じ取れるでしょ!?」
言われてみれば確かにそうだ、凝をすることでデータの履歴や足跡が残像のように残り見つけやすく追いやすい。勿論、集中力は一気に減るが使わないよりましだろう。
「特訓してなかったから、凝を使えるのは最大5分ってところかしら……うう、もうちょっと魔法について勉強しておけばよかった……」
などと、悔いている時間は無い。とにかく使い続けることは得策では無いが、オンオフを切り替えれば15分はいけるはずだ、節約しながら凝を使い続けよう。と思う咲であった。




