番外編26「凪ノ唄夜鈴と凪ノ唄蒼葉」
西暦2035年7月19日放課後。
どこか小気味良いジャズの音楽が流れる、ギルド中央広場受付内部のテーブル。
凪ノ唄夜鈴、12歳。と凪ノ唄蒼葉、11歳。の姉弟はお茶をしていた。
「あ、お姉ちゃん! どうだったー? 『フレンドトーナメント大会・極』の結果は」
「どうもこうも無いわ、肩透かしだわさ……」
「ん~~~~?」
試合の結果だけ言うとこうなった。
第1回フレンドトーナメント大会・極
◆第1回戦◆
浮遊戦空VSレジェンドマン。勝者、浮遊戦空
凪ノ唄夜鈴VSオーバーリミッツ。勝者、凪ノ唄夜鈴
将護三ッ矢VS不動武。勝者、将護三ツ矢。
明浄みことVS農林水サン。勝者、明浄みこと。
招待客が誰も、ギルド『四重奏』に勝てない結果に……。夜鈴はアイスコーヒーを片手に氷を混ぜながら言う。
「他の3試合はどうだったか知らないけど、オーバーリミッツとの勝負は『根気勝ち』で私の勝ちだったわ。勝った気にもなれない」
ちなみに、ちゃんでもさんでも無く。お互い対等という意味合いで「呼び捨てにしましょう」となった。だからリミッツさんでもリミッツちゃんでも無く夜鈴は「リミッツ」と呼び捨てで言う。
蒼葉はアイスティー紅茶甘めで飲むと、アハハと言わんばかりだった。
「どっちも根気ありそうなのにね~」
「あっちは色恋沙汰に目が行ってたから勝てたけど、恋のライバルとかの立ち位置だったらどうなってたか……て感じよね」
「恋に恋する夜鈴姉ちゃん?」
「違うって、その明後日の例え話は誰から教わった?!」
「農林水サンさん」
この世界のゲームマスターの名前が出て来た。
「……、で。そっちはどうなってんの? 今じゃギルド『放課後クラブ』の実質トップでしょ? わが弟よ」
何だかんだあって。ギルド『放課後クラブ』は大型ギルドと化している。
下位組織に、
ギルド『ドラゴン・スピード』
ギルド『放課後クラブ親衛隊』
ギルド『世界観探索隊』
と、なっている。トップだったヤエザキが天下りしたような形だ。
だから大きな視野でみると、今でも放課後クラブの傘下である。という形を取っている。
「ヤエザキお姉ちゃんは遊んでるよ、そりゃあもうエンジョイしまくってる」
「確かに……、いきなりトップがどっか行かれたら困るもんね。なるほどこうなるか……」
一応組織の中に入ってる体だけは取っているようだ。
「とわ言え、……あんたこんな強者達を束ねられるの? 私には無理そうに見えるけど……」
特に放課後クラブ親衛隊はヤエザキが選んだ強者しか居ない、それらが勝手に自分の意志で動いている。
「ん~何ていうか。将来性に期待して、他の実力者さん達が仕切ってくれてる。みたいな感じかな?」
「子供の王様みたいね……」
「だって子供だし、まだ何も成してないし」
「まだ、ね……。そりゃ確かに正当な【グランマティカ】【竜尾】【銀】の所持者だもんね、そうなるか」
この子、弟たる蒼葉に。さしたる実力や実績が無いとしても。血統じみた、約束された王冠が乗っかっている。彼らはソレを崇め、就いていきたいんだろう。象徴的な意味で。
姉とは違った意味で、この弟の成長具合を楽しみにしているのだろう。たぶん。そうであってほしい。
姉である夜鈴にとっては、その成長スピードの【遅さ加減】が何とももどかしい。桃栗3年、柿8年。蒼葉は柿みたいなものなのだ。おっそい。
「ま~えーっと、〈徒党?〉を組んでた有象無象は、あんたより。強者の親衛隊について来た節があるから……何ともねえ~」
やっぱり危なっかしい。そもそも吸血鬼大戦からついて来てくれた古参は、桃花やリミッツについて行きたいはずだ。いきなりその後に出て来た子供について行って。というのも無責任である。
「まあ、桃花も桃花で【知らない】からどうしようも無いんだけどね。文字通り所々しか知らないし」
しかもオチを良く知ってるおまけつき。
「サプライズの中身知ってるんだもん、そりゃエンジョイでもしたくなるわ」
何とも辛辣な言葉がつらつらと並んで来る。
「あははは、でも楽しそうだよ~」
ちょっと前の〈じゃれつき〉はどこへやら、もう精神的には10年前とか信じたくない。気持ちの問題だが……。
長い沈黙の間があったあと。夜鈴はボソッと呟いた。
「人って変わるものね……少しずつだけど」
「何だかお姉ちゃんの愚痴大会になってる気がする」
「誰のせいよ」
「少なくとも僕のせいじゃないよ?」
新参は悪くないとでも言いたそうだ。
「あー誰が悪いかじゃなく。誰が善いかで自分を語りたいわ!」
愚痴が反芻されるだけだった……。




