第34話「第1次姉妹喧嘩2034◆1」※ターニングポイント1
「ならゲームに誘った姫にも責任がある、なんとかしろ。それが姉としての義務だ、わかったか?」
「うん」
こうして、睡眠不足の咲を横目に姫は一つの決意をするのだった。とはいっても何とか話して説得しようという手しか思いつかなかったが…。姫はある決心をした。
◆
翌日、姫はいつもの可愛い妹を愛でるような軽快な挨拶はしなかった。
「咲……話がある……」
一方の咲は朝起きたばかりで(昨日は寝不足だったので速攻で寝た)口をムミャムミャしていた。
「……それってここで話すもの? それともゲームの中の方がいい?」
寝ぼけ眼で姫を見ていたが漂う空気からなんだか今日はいつもの姫と違うと言う事を察し、緊張と警戒をする。姫の瞳はまさに姉の目だった。
「………そうだな、ゲームの中の方がいい。ダイブしたらピュリアの王国の塔の中にある闘技場まで一人で来てくれ、そこで待ってる」
わざわざ一人で来いと言うのに思う事があるのだろう、咲もそれを察する。
「いいよ、私も言いたかった事があるし……」
互いに若干の火花が散ったかのように見えた。
(頭の中で姉に対する思いや怒りや悲しみや嘆きみたいなものが生まれては消えてゆく、一体どのような言葉で姉にこの私の感情を表現すればいいのか迷う、戸惑う、足がすくむ)
ログインしてエンペラーにもヒルドにもフェイにも何も言わずにピュリア王国内の闘技場広場前までやって来た、広さは学校のグラウンドよりすこし小さい、25メートル四方の広場と言ったほどだろうか。そこに姉、天上院姫は立っていた、待っていた。
(ん~ここで小粋なジョークの一つや二つ出せればいいんだが何にも出てこないな~…)
姫が何を話そうか迷っている間、咲は朝言われた話について問いただす。
「お姉ちゃん、話って何?」
(改めて姉と呼ばれるのはなんだかくすぐったいな…あいやいや今はそういう事ではなく…)
頭の中で試行錯誤するがこれだという言葉が見つからない、姫は要点を簡潔に述べることにした、それでしか話は始まらないし進展しないと考えた。何よりこのままではただ黙ったままだ。
「ん~要するに勉強をやってくれ」
「お父さんみたいなこと言わないでよ、お姉ちゃんは親じゃないでしょ」
「……そうだが……家族だ、私にも色々あるんだ」
「何それ、全然わかんない」
「やーまーわからなくても良いが…お姉ちゃん言ったろ「遊びじゃねえんだよ!」状態になるなって」
「わかってる、私は遊びでやってるわよ」
「わかってない」
「じゃあ聞くけどとある人が友達欲しさに頑張って家をくれたのに燃やされてそれで怒らない友達がどこに居るってのよ!他にも色々言いたいけど……」
「それが遊んでないって言いたいんだ、本気になりすぎだ、たかがゲームだ」
「ゲームの中にもモラルってあるでしょ! 人が死んでも当たり前で済ますの! それっておかしいよ! ゲームだからってあんまりだよ!」
「まあ…ゲームをあまりやらなかったりする人間はモンスターを倒してまくってる子供の姿を見て残虐だと思うのはよくある事例だ。正常に戻れ」
「私は正常だよ、異常なのはお姉ちゃんの方だよ! 人々が火事の中慌てて消火活動とか悪の親玉が出てきたのにのほほんと学校に行ってテスト勉強をするっておかしいでしょ!」
「だから……それはゲームだ、ハマってくれるのは嬉しいが…こういっちゃなんだが現実世界は火事こそあれ悪の親玉とか居ない。人工的に動いてるAIだから喜んだり悲しんだりするがそれに騙されちゃならない、彼らは私達がお金を払ってくれたからその娯楽として喜怒哀楽を表現してプレイヤーを楽しませようと必死なんだ。それだけなんだ」
「お姉ちゃんの言ってること…それはまるでゲームをするなら心を無くせって言ってるように聞こえるよ」
「ていうか……嫌ならゲームをやらなければいいんだ。その方が勉強は進むぞ」
姫の言う事は全く持って正しくて正論だ、おそらくゲームに慣れ浸しんだエンペラーも同じことを言うだろう。ただ、人間のモラル的な方向から見れば咲の方が正しい。疑似体験とはいえ好意を抱いてる人間が不幸になっているのなら助けてあげようとするのが人の心情だ、現実世界で同じような事をすれば褒められるはずなのだ、だが全てゲームだからという言葉で片付けられてしまう。あまつさえゲームを作った姫にも言われる始末である。
「……ていうか……ヒルドが風を使うとフェイちゃんが死ぬって何?お姉ちゃんがゲームマスターなんでしょ?どういう事なのよ」
姉の姫は(ついに来たか…)とやっと本題に入った事を確認して覚悟した。
「……言ったらたぶん軽蔑される」
「もう軽蔑してるよ、これ以上下がることも無いから言って」
それは姫にとってはあまりにも酷なことだったが、姫はしょんぼりしながら言うことにした、いや。力いっぱい嫌われることを覚悟して熱を持って弁明する。
「……咲のためなんだ……」
「?」
「咲がゲームをやってくれた、嬉しかった。咲がイフリート戦をやって全力で楽しんでくれた、嬉しかった。 咲が私の思い通りにフェイと仲良くなってくれた、嬉しかった。咲が私の思い通りにフェイがいっぱい死んだことによって悲しんでくれた、嬉しかった。咲のため…咲のため…咲のため…全部咲の為にやった事なんだ!咲にはこれからも色んな場所で私が、私たちが設計したゲームで楽しんでほしい!今回は泣きゲーだから何とかして咲を泣かせたかった…!でも出来なかった…、で、今は私が何故か泣いてるわけだが………」
「……気持ち悪い」
明確な拒絶、熱弁して、言いきって、やりきれない思いを我慢して、声に出さずに口をへの字にしてポロポロと泣いている姫。雲の王国ピュリアに来てから全くと言っていいほど喋らなかった姫が初めて胸の内を明かす。その涙に少し同情したのか咲は怒りのトーンを一段階下げて一割やさしさを混ぜながら言った。
「も~わかったから…、でもそれとこれとは話は別。おあいにく様泣かなかったけどフェイの規制には納得できない、このままじゃどの世界線でもフェイは死んでばっかりの子じゃない、そんなの私は見過ごせない、スタンプが手に入って次の街に行ったとしてもフェイは死のループを繰り返すばかり、そんなの許せない。だから…フェイの設定を変えて、フェイを死の運命から解放させてあげて!」
咲はフェイのため、自分の言いたいことを言いきった。後悔はしていない、普段の妹大好きな姉だったら「おっけーわかったよー」とか言いながら陽気に答えてくれるはずだ、咲はそれを期待した、だが、姫の返答は違っていた。
「それは出来ない」
「……? なんで?」
「一度オーケーを出したものを一人の意見でそうホイホイと設定を変えることは出来ない。生みの親として作り手として作りあげたキャラクターを世にだした段階で「やっぱり変えます」なんてことは絶対にしない」
姫の作り手としての意志が爆発していた。
「咲はフェイのこと好きだろ」
「……? そりゃあ好きか嫌いかで言えば好きだけどさ」
「ならそれは大成功の作品だ、咲の為にも変えることは出来ない」
「……だから、フェイの死のループを何とかしてって……」
「それを含めて作品なんだ、変えることは出来ない、咲の為にも」
「作品って……! 人を物みたいに言わないで!」
「それを含めてフェイなんだ! 沢山死ぬからフェイなんだ! 奴の個性を消させやしない!」
「ッわからずや!」




