第302話「中国のゲームマスター」
EWO2、日本サーバー。
「え? 中国のゲームマスターとお茶会?」
「そう身構える必要はないぞ。私と同格の存在ってだけだから」
「え? お姉ちゃんが2人?」
「それだと誤解を招くが……別ベクトルの強さというか、ノットイコールというか……、まあそんな感じ」
「ん~いまいちイメージしずらいわね? どれぐらい強いの? お姉ちゃんより強い程度?」
「程度って言われるとちょっと違うが。最果ての軍勢のトップ7全員を1人で相手に出来るぐらいには強い」
「え!? あの7人を!? ……て私、最果ての軍勢とあんま面識無いんだけど……」
「じゃあ、私の本気モード7人を相手にして勝てるほど強い。ま、ライバルじゃな」
「それ同格ちゃうやん! 遥か格上じゃん!」
「んで、最高権力者。ゲームマスターは1つの国にひとりだけだから。日本国は天上院姫、この私のみ。中国はその希一十という男のみじゃ」
「たまに聞くけどさ、ゲームマスター……てどれぐらいの地位なの?」
「まあ、社長よりかは低いけど。運営長よりかは上……てところかな。流石に社長より上や、同格ではないけど権限としてはEWO2の中国サーバーの最高権力者」
「ほへ~、その人日本サーバーに居るの?」
「別に日本人が多いいサーバーで遊んでるってだけで、国ごとにサーバーの境界線は引いて無いからな? お前もたまに見るだろ? 外国人プレイヤー」
どうだろう? 出会った覚えがない……。視界の中には入ったことはあるけど……、ガチで今まで話し合ったことあったっけ? と、考える咲。
と、いうわけで希一十さんとゲーム内の喫茶店で出会った。
「というわけでこんにちわヨ~」
なんだかわかりやすい語尾がついて来た一十さん。姫がその第一声を制す。
「こっちが妹の咲な、お手柔らかに頼むな」
「こ、こんにちわ……」
「はい、こんにちワ~わかってるヨ~」
ということで、お互いの自己紹介。ヤエザキと農林水サンは、現在。職業を世界観学者にしているので、その広がりを求めていると説明した。
「ふーん、てことは。この世界の情報とか、君たちでは知り得ないものを聞けたら。クエストクリアって所なのかナ?」
「ま、そんな感じじゃ」
「知らないこととと言ったって、としたらリアルの諸事情しかたぶん知らないよヨ?」
ヤエザキがインタビュアーみたいな口調で、回答をもらおうとする。
「例えば?」
「農林水サン、天上院姫君が。本当はVRじゃなくてARで遊びたいとかね。でも時代がVRに偏り過ぎて、気づけばARに流れを変えるのに苦労をしている。とかネ」
これは事実だ。また、なのだが。吸血鬼大戦はVR、ソウルトランスレーターとか人口フラクトライトとか呼ばれているが。
簡単に言うと、湘南桃花が思いっきり暴れたせいで。ARをやりたかったのにVRに世界の人気に火が付き。結果的に世の中の流れがARに行かない……向かない。というのが根底にある。
姫社長が本当にやりたいのは、夢幻空間ゲームではなく。現実拡張空間ゲームの方なのだ。
それがちょっと、プロになるための登竜門として夢幻空間ゲームで【本気出して】遊んでみたら。あとから続く人達皆が、こっちに没頭してしまった。という経緯もある。それが長く長く続いている……。
「まあ、姫社長が~。あとからついて来てくれるプレイヤーのことを【知らずに作ってしまった】というのも悪いっちゃ悪いのだガ」
誰が悪いというわけでもないが。本気で人間がプレイするというゲームで作ってなかったのも大きな社長の落ち度だったわけだ。
「どっちにしろ、姫社長が絵コンテやらネームやらを本気で描いてくれない限り。この流れは続くだろうナ」
というのが、希一十の意見だ。
「それが一十さんの意見ですね?」
「いや、ただ事実を喋っただけだヨ。妹さんの方は知らなかったようだから、話のタネになると思ってネ」
姫社長は上の空を向いて、話をヤエザキにふる。
「まー隠してたつもりはないが、やっぱり人気のあるの作りたいじゃん? 知らずに作ったというのも事実だし。まー廻り方が悪かったのはあるかもしれないが、知らないのに頭回せってのも無理があるし……」
「ま、つまるところそんなことで今があるネ、仕方のないことヨ」
「ふ~む……」
「まあプロ側もプロ側で、『風の妖精リスク』より売れると判断したのも。ある意味正解なわけだけど」
ヤエザキの前に、知らない単語と知ってる名前が出て来た。
「風の妖精リスク?」
姫社長が補足する。
「ま~簡単に言うと。試作品の前の試作品だよ。桃花の実験の前は戦空に実験を頼んでた。そういう繋がり・全体の流れじゃな」
なんだか話がややこしくなって来た。
「まーわしも戦空の参加作品より桃花の参加作品の方が売れるとは思うが……」
思うには思うのだが……。
「じゃから【知らんし!】当時はどう足掻いたってそうなるんじゃよ!」
「ま、過去の過ちはどうでも良いヨ。それより今後、【未来の話】をしようヨ。そっちの方が有意義だロ? 今後のVRとARの話でもしようヨ」
「ふ~む……」
なんだか根が深そうな話題だなと思ったヤエザキはミルクティーを口に含んで一服したのであった。
姫社長は風船のようにプックリと、激おこプンプン丸の手前。オコになっていた。




