第299話「海底古代図書館」
西暦2035年07月17日放課後。
エレメンタルワールドオンライン2にログイン中。
「世界観探索隊なのに、どうしてこう手にする資料は今のVRMMOの歴史になっちゃうのかしら?」
「他の冒険者も調べてはくれるが、一番最初に調べるのが私達2人しかおらんからじゃろ? で、重要なのはソフトの中身よりかハード機の歴史を大前提で決めとかなきゃ。前提がひっくり返る。ゲーム機本体の歴史がひっくり返れば、他の冒険者の歴史もひっくり返ってしまう。じゃから納得するまでハード機の歴史を調べる必要が出て来るのじゃ」
言ってることは理解できるのだが、ゲームの中の世界観を調べたいヤエザキにとって。ゲーム機の歴史というのは、ゲームへの没入感を妨げる要因でしかなかった。
つまり夢が覚めてしまう。
ヤエザキと農林水サンは、秘密基地にも近しい。古めかしい図書館という名の遺跡に辿り着いていた。
場所は電脳都市ライデンの北側の海に面した海の底。名前は『古代海底図書館らりるれろ』、何ともふざけた名前である。
2人が調べた古いメモ帳のような資料にはこう書かれていた。
エレメンタルワールド0は、1980年代。
エレメンタルワールド1は、2000年代。
エレメンタルワールド2は、2020年代。
エレメンタルワールド3は、2040年代。
「ゲームマスター、コレは何? てかこれ、思いっきり西暦だよね? 書いて無いけど」
現在2035年なので、この数値に当てはめると。現在はエレメンタルワールド2の時代ということが解る。
「私が言うと決定事項みたいになって嫌なんじゃが……」
とは言っても、他のプレイヤーもNPCも。頼れる仲間は皆目が死んでるー! 状態なので他に当てがない。
「ま、紙の品質から見るに。1980年代に書かれた謎の人物の予知書って所じゃろうな」
「で、今は西暦2035年で、2だから。この人の予知は当たってると……」
「まあそうだが、この前プチアップデートした時に。歴史が軌道修正されたから、その時の名残りじゃな」
ほんと夢も希望もない。ファンタジーぶち壊しである。
「……、お姉ちゃんいないほうが楽しめるんじゃないかしら?」
「やめてくれ私が楽しめない」
なんでもおしえてくれるお姉ちゃん。と言った形になってしまう。看破も何も無いですねこれ。
「じゃあ今回のギルドへの報告は。海底古代図書館で、故人の残したメモ帳を手に入れた。って感じ?」
「じゃな~。それより先は世界観大好きキッズが好き勝手脚色するじゃろう。ワシらはこの古代図書館と予知書の切れ端があったと報告するだけで良い。そっから先の面倒ごとはごめんじゃ」
ギルド『世界観探索隊』の活動目的は戦闘ではない、なのでそれ以上の厄介事に手を突っ込むことは無理にしなくても良いのだ。
◆
電脳都市ライデン、繁華街ギルド運営本部。
「はーい、今回の成功報酬は20000Gとなりまーす!」
ギルド受付嬢、湘南桃花はニッコリと。当たり前のようにそこにいた。
全てをだいたい知ってる桃花と姫、その横に挟まれてる咲。やっぱり謎を調べるのが楽しみなファンタジーにとって。これほど幻滅させられるパーティーもそうはない。
「こうやって考えると、あえて最初の頃お姉ちゃんワザと雲隠れしてたじゃん? あの行為は最適だったのね」
「まあ、今はEX難易度じゃし。そんな遠慮はいらないがな」
もうどこまでも世界観をぶち壊してくる。「世界観? なにそれ美味しいの?」と言わんばかりである。
「とはいえ世界観をもっと調べたいという咲の心意気は買ってる」
買ってるが売ってくれるかは別問題だが。物々交換や等価交換をしてくれなければ、それはもうただの詐欺である。
というわけで、今回の海底古代図書館のクエストは終わった。
ヤエザキはというと、この後。熊の生態系を調べるリアル学校の宿題があったので、今日は早めにログアウトした。
◆
【アプデ来たけど】総合掲示板【皆何やってる?】
【プチアプデ来たね、主に世界観の修正っぽいけど】
【ほう、世界観の修正……具体的にはどんな?】
【簡単に言うと、エレメンタルワールド0の記事が実装された。今までそんな世界観の歴史的記載は無かったのに……1と2しか無かった】
【0って何? 何がどう変わったの?】
【創造神、というか神代の時代の。神様の肉体があったころの記事が発見されたんだって】
【発見された? 誰か冒険者がアプデ後に発見したのか?】
【最長文学少女ヤエザキが見つけたんだと】
【ま た あ い つ か】
【どこで見つけたの? そこ行きたい】
【海底古代図書館『らりるれろ』】
【なんだそのふざけた名前の遺跡は!?】
【海底? 海の底か。軽く行ってくれるな、流石の実力者・ツワモノかな?】
【で、名前は解ったが具体的な場所はどこだい?】
【皆知ってる始まりの街、電脳都市『ライデン』の北側の海だって】
【新ダンジョンじゃん!?】
【でも図書館だぞ? そこのモンスターは強いのか】
【いや、何も無いって。本しかない】
【その本が重要なんじゃないか!】
【でも今まで見つかってなかったんだから、ダンジョンへ入るための条件ぐらいあるだろ?】
【あーそれはあるらしい。エンディングを観るんだって】
【ど の エ ン デ ィ ン グ だ よ !】
【こちとら猛者達は、色んなED観てるもんな】
【ゴッド・ジーラは関係ないって。条件1:猛者プレイヤーの引退試合を観る。ここでED。条件2:今まで持ってたアバターのデータをほぼ全部、他のプレイヤーに無償であげる。条件3:ギルド本部の受付嬢、湘南桃花との好感度が一定数ある。条件4:EWO1とEWO2の物語を、一定数進める(全部進める必要は無いらしい。条件5:神様に会う。で、条件達成だって。】
【条件4のストーリー進行具合は。13の闇と戦って、その意味を探究して理解する。てのがあるっぽい】
【……、難易度きつくね?】
【そりゃヤエザキは難易度EXの冒険者だからな。本人メインシナリオ終わった後の冒険だから、プレイスタイルもやりたい放題になったよ】
【元からやりたい放題ではなかったかな?】
【ヤエザキは職業。魔法剣士じゃなくて、学者になってたぞ。世界観学者ってジョブ】
【新しいジョブじゃん、欲しいし、なってみたいんだけど。成り方は?】
【詳しくは知らんが、やっぱ魔法剣士を極めてからの分岐ジョブじゃね?】
【魔法剣士の上があるのか!? 上級職分岐、世界観学者とあと1つは何だろう】
【それは知らない。その情報はおそらく出回ってないと思うぜ】
【このゲーム、基本手探りだもんな】
【2の情報じゃなく、0の情報とはこれいかに】
【公式版のEWO0って、例えばソードなアートなオンラインで言うと。具体的にはどこら辺の時系列?】
【カヤーバが高校生で、まだVRゲームを普通に遊んでた頃の時代】
【微妙に解かりやすすぎて反応に困る……】
【夢の国の時系列で言うと?】
【マレフ〇セントやピ〇トが少年少女だった頃のエピソード】
【解りやすく理解出来ちゃって逆に怖い……(ガクブル】
【で、そのEWO0の始まりのキーエピソードが。始まりの街の海底図書館にあるって話か】
【難易度が鬼畜そう……】
【安心しろ、上がる所まで上がったから。もう何も怖くない】
【だと良いんだが……】
Q、世界観大好きキッズって誰のことですか。
A、放課後クラブ親衛隊 中間管理職統合班長シャンフロと。その他、愉快な仲間達のことです。ちなみに現在の放課後クラブのトップは蒼葉くんで。世界観探索隊はナンバー1がヤエザキ、ナンバー2が農林水サン。あとは今のところ居ません。ギルドごと蒼葉くんにあげっちゃったのです。




